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ドジっ娘(死語)は嗜虐心と庇護欲を掻き立てる?

失礼なのはどっち?

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     🎩

 鼻が擦れ合うほど──ではないにしても、未婚の、未成年の男女の距離感ではない私達は、お兄さまに見咎められてしまった。

 まず、アーベントシュティアン様の顔をお兄さまは左手で押し退け、右手で私を引き寄せた。

「アーベント。適切な距離での対応が出来ないようなら、妹にはもう近づくな。フロリス、コイツのペースに流されて淑女教育で学んだことが活かされないのなら、独りで外には出さないぞ?」
「解った(お前の前では)気をつけることにするよ」
「お兄さま、オーボーよ。別に、ヘンなことしてた訳じゃないわ。綺麗な宝石を(お目々)見せていただいてただけよ。外では出来ないから、馬車に乗っている間だけ⋯⋯」
「なぜ外で出来ないのか、よく考えるんだな。見たのが俺でよかっただろ? 父上なら、部屋から出ることを禁じられるし、アーベントは二度とうちの邸の敷地内に入れてもらえないぞ? 勿論、ヴェスペリ公爵家でのグラディオーレ嬢との勉強会も無しだ」
「む~」

 それも、そうかもしれない。
 あのお茶会で、お父さまに黙って、白々さん殿下のお部屋に行ったことも、あの後タウンハウスに戻ってから、夜寝る前までこってり絞られた。
 いわく、婚姻関係にない男性の部屋には、入ること自体が非常識で、扉を開け放とうが、使用人達がいて二人きりでなかったにしても、真っ当な令嬢と紳士のすることではないと。

 私も男性の前で慎みを知らない、程度の低い令嬢と思われるし、殿下も、女性を軽く扱う紳士たり得ない慮外者と思われるのだと。

 殿下は、悪い人でも無礼者でも恥知らずでもないと言い返すと、他の人に殿下がそう言われないよう、傍近くにいる時は自分の行動や言動にも気をつけなさいと、お母さまが纏めてくれてやっと、お父さまの嘆きなのかお小言なのか懇願なのか判らない拘束から解放され、寝ることが出来た。

 つまり、あれと同じ事?

 私が、アーベントシュティアン様の綺麗なお目々を、不適切な距離で間近に鑑賞させてもらう事は、私が、女として媚びを売ったり悪い遊びに誘ったりしてるように見え、それを許しているアーベントシュティアン様は、女性と簡単に不適切な距離に応じる紳士とは言えない人だと言われるってこと?

理解わかれば宜しい」

 頭を撫でられ、抱え上げられると、馬車から降ろされる。
 いや、縦抱きとお父さん抱っこ 横抱きお姫様抱っことかなら構わないけど、小脇に抱えた手荷物のように扱われると、さすがに⋯⋯

「お兄さま、淑女を手荷物のように抱えるのはいかがなものかと」
「今ここに、淑女はいない。ああ、失礼。リンデン先生は淑女の手本だし、ルスティカも侍女ではあるが伯爵家のご令嬢としての礼節とマナーはしっかり身についているのに、売り言葉に買い言葉で失言してしまったね、申し訳ない」

 イジワルにやにやアーベントシュティアン様とはまったく違う、爽やか紳士な笑顔で微笑むお兄さまに、リンデン先生は黙って首を振ってからフットマンの手を借りて馬車を降り、ルスティカは「勿体ないお言葉です。お気になさらず」と言って、私の勉強道具が入った鞄を抱えて、馬車に横付けされたステップを一人で降りた。



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