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ドジっ娘(死語)は嗜虐心と庇護欲を掻き立てる?

眼福──初めてのお友達

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       🌌

 私とグラディオーレ様がポカーンとお茶会の様子を見ていると、アーベントシュティアン様がこちらへ戻って来た。

 私達と目が合うと、肩を竦めて両手を天に向ける。

「今度は何を言ったんだ?」

 胡乱げな目でアーベントシュティアン様を見るお兄さま。

「別に? 頭の悪そうな挨拶を寄越すから、相応の相手をしただけさ」

 ヴェスペリ公爵家の嫡男ということは、現国王の甥に当たる。
 その、王族の血筋という意味では、王家よりも幾分近づきやすい上位貴族として、嫁入り先・嫁とり、婿とりに人気の高い家門なんだって。

「どうせまた、そのお綺麗な顔で柔らかい物腰のまま辛辣な、永久凍土の風雪のような言葉を投げかけたんだろ?」
「まさか。南国の南風の如く柔らかい温かな言葉を使ったさ。彼女達がエスプリの利いた言葉を解すとは思えないからね」
「エスプリと来たか。十四歳の言う言葉じゃないね、まったく。お前は酷いやつだよ」

 お兄さまの言いようも充分ヒドいような気もするけれど、アーベントシュティアン様は片眉を上げただけで、文句を言うでもなく笑っていたので、お兄さまとはいつもこんな感じなのかもしれない。

「阿呆を見るような目で見下ろしたんだろ? おお怖」

 ――アーベントシュティアン様の眼

 そう言えば『お母さま譲りの暗青紫タンザナイトの眼』だって言ってたっけ?
 妹さんのグラディオーレ様の瞳は、明るい翠色で、ルシーファ殿下のミントグリーンに近い色合いだ。
 殿下デンカがミントガーネットならグラディオーレ様はクリソベリル。

 どうしても近くで見てみたくなって、アーベントシュティアン様に近づく。

「フロリス?」

 お兄さまが呼びかけるけどそのままアーベントシュティアン様の前に爪先立ちで立ち、その美しい夜空のような眼を覗き込む。

「わぁ綺麗。満天の星だね。お兄さまのサファイアブルーよりもずっと深くて…… 吸い込まれそう。本当に、上等なタンザナイトみたいなのね」

 キラキラと星が散らばるような、複雑な色合いの、本当にタンザナイトのよう。
 その真ん中に、私の子供っぽい顔が映っているのが、真正面から覗き込んでいるのだから当たり前なのに、なんだか不思議な気がした。

 近づいたときちょっとビックリしたような表情かおをされたけれど、眼を見たいのだと気づいたアーベントシュティアン様は、ご自身の膝に両手を突いて身を屈めて見やすくしてくれ、整った貴公子顔に微笑みを浮かべる。

「ありがとう。フロリス嬢。君のインペリアルトパーズのような瞳も綺麗だね」

 そう。お兄さまもお父さまもサファイアブルーの瞳で、お母さまも明るいブルーアクアマリンの目をしている。
 なのに、私だけ、少しピンクがかったオレンジに近い金紅色のきんこうしょく 目で、何代か前の侯爵家に嫁いでこられた海の向こうの白金の髪プラチナブロンドの王女様の色なんだそうだ。
 髪も、お兄さまとお父さまはキラキラの金茶トパーズ色で、お母さまは蜂蜜や飴のような濃い金髪なのに私は白っぽい、元は茶色の髪を脱色したかのような、青灰せいかい色がかった灰白系金髪アッシュブロンド。遠目に見るとパサついて傷んで見える色合いだけど侍女達が手入れをしてくれるから、いつでも艶だけはキープしてる。

 いずれにしても、私の色合いは先祖返りとかカクセーイデン(隔世遺伝)というものらしい。

 勿論、誰かにネガティブな事を言われたこともないし、私も自分の色合いは嫌いじゃない。

 ただ、美人のお母さまに似たかったな、というだけ。

 『母親に似た美人』枠はお兄さまが担当。
 両親に愛されているのはちゃんと解るし、私は別枠の『ご先祖さまの色を持って生まれた子供』であることに不満はないのである。

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