上 下
13 / 39
ドジっ娘(死語)は嗜虐心と庇護欲を掻き立てる?

眼福──初めてのお友達

しおりを挟む
       🌌

 私とグラディオーレ様がポカーンとお茶会の様子を見ていると、アーベントシュティアン様がこちらへ戻って来た。

 私達と目が合うと、肩を竦めて両手を天に向ける。

「今度は何を言ったんだ?」

 胡乱げな目でアーベントシュティアン様を見るお兄さま。

「別に? 頭の悪そうな挨拶を寄越すから、相応の相手をしただけさ」

 ヴェスペリ公爵家の嫡男ということは、現国王の甥に当たる。
 その、王族の血筋という意味では、王家よりも幾分近づきやすい上位貴族として、嫁入り先・嫁とり、婿とりに人気の高い家門なんだって。

「どうせまた、そのお綺麗な顔で柔らかい物腰のまま辛辣な、永久凍土の風雪のような言葉を投げかけたんだろ?」
「まさか。南国の南風の如く柔らかい温かな言葉を使ったさ。彼女達がエスプリの利いた言葉を解すとは思えないからね」
「エスプリと来たか。十四歳の言う言葉じゃないね、まったく。お前は酷いやつだよ」

 お兄さまの言いようも充分ヒドいような気もするけれど、アーベントシュティアン様は片眉を上げただけで、文句を言うでもなく笑っていたので、お兄さまとはいつもこんな感じなのかもしれない。

「阿呆を見るような目で見下ろしたんだろ? おお怖」

 ――アーベントシュティアン様の眼

 そう言えば『お母さま譲りの暗青紫タンザナイトの眼』だって言ってたっけ?
 妹さんのグラディオーレ様の瞳は、明るい翠色で、ルシーファ殿下のミントグリーンに近い色合いだ。
 殿下デンカがミントガーネットならグラディオーレ様はクリソベリル。

 どうしても近くで見てみたくなって、アーベントシュティアン様に近づく。

「フロリス?」

 お兄さまが呼びかけるけどそのままアーベントシュティアン様の前に爪先立ちで立ち、その美しい夜空のような眼を覗き込む。

「わぁ綺麗。満天の星だね。お兄さまのサファイアブルーよりもずっと深くて…… 吸い込まれそう。本当に、上等なタンザナイトみたいなのね」

 キラキラと星が散らばるような、複雑な色合いの、本当にタンザナイトのよう。
 その真ん中に、私の子供っぽい顔が映っているのが、真正面から覗き込んでいるのだから当たり前なのに、なんだか不思議な気がした。

 近づいたときちょっとビックリしたような表情かおをされたけれど、眼を見たいのだと気づいたアーベントシュティアン様は、ご自身の膝に両手を突いて身を屈めて見やすくしてくれ、整った貴公子顔に微笑みを浮かべる。

「ありがとう。フロリス嬢。君のインペリアルトパーズのような瞳も綺麗だね」

 そう。お兄さまもお父さまもサファイアブルーの瞳で、お母さまも明るいブルーアクアマリンの目をしている。
 なのに、私だけ、少しピンクがかったオレンジに近い金紅色のきんこうしょく 目で、何代か前の侯爵家に嫁いでこられた海の向こうの白金の髪プラチナブロンドの王女様の色なんだそうだ。
 髪も、お兄さまとお父さまはキラキラの金茶トパーズ色で、お母さまは蜂蜜や飴のような濃い金髪なのに私は白っぽい、元は茶色の髪を脱色したかのような、青灰せいかい色がかった灰白系金髪アッシュブロンド。遠目に見るとパサついて傷んで見える色合いだけど侍女達が手入れをしてくれるから、いつでも艶だけはキープしてる。

 いずれにしても、私の色合いは先祖返りとかカクセーイデン(隔世遺伝)というものらしい。

 勿論、誰かにネガティブな事を言われたこともないし、私も自分の色合いは嫌いじゃない。

 ただ、美人のお母さまに似たかったな、というだけ。

 『母親に似た美人』枠はお兄さまが担当。
 両親に愛されているのはちゃんと解るし、私は別枠の『ご先祖さまの色を持って生まれた子供』であることに不満はないのである。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ
恋愛
※カクヨムの方にも載せてあります。サブストーリーなども書いていますので、よかったら、お越しくださいm(_ _)m リアンは有名私塾に通い、天才と名高い少女であった。しかしある日突然、陛下の花嫁探しに白羽の矢が立ち、有無を言わさず後宮へ入れられてしまう。 王妃候補なんてなりたくない。やる気ゼロの彼女は後宮の部屋へ引きこもり、怠惰に暮らすためにその能力を使うことにした。

嫁ぎ先は悪役令嬢推しの転生者一家でした〜攻略対象者のはずの夫がヒロインそっちのけで溺愛してくるのですが、私が悪役令嬢って本当ですか?〜

As-me.com
恋愛
 事業の失敗により借金で没落寸前のルーゼルク侯爵家。その侯爵家の一人娘であるエトランゼは侯爵家を救うお金の為に格下のセノーデン伯爵家に嫁入りすることになってしまった。  金で買われた花嫁。政略結婚は貴族の常とはいえ、侯爵令嬢が伯爵家に買われた事実はすぐに社交界にも知れ渡ってしまう。 「きっと、辛い生活が待っているわ」  これまでルーゼルク侯爵家は周りの下位貴族にかなりの尊大な態度をとってきた。もちろん、自分たちより下であるセノーデン伯爵にもだ。そんな伯爵家がわざわざ借金の肩代わりを申し出てまでエトランゼの嫁入りを望むなんて、裏があるに決まっている。エトランゼは、覚悟を決めて伯爵家にやってきたのだがーーーー。 義母「まぁぁあ!やっぱり本物は違うわぁ!」 義妹「素敵、素敵、素敵!!最推しが生きて動いてるなんてぇっ!美しすぎて眼福ものですわぁ!」 義父「アクスタを集めるためにコンビニをはしごしたのが昨日のことのようだ……!(感涙)」  なぜか私を大歓喜で迎え入れてくれる伯爵家の面々。混乱する私に優しく微笑んだのは夫となる人物だった。 「うちの家族、みんな君の大ファンなんです。悪役令嬢エトランゼのねーーーー」  実はこの世界が乙女ゲームの世界で、私が悪役令嬢ですって?!  えーと、まず、悪役令嬢ってなんなんですか……?!

距離を置きましょう? やったー喜んで! 物理的にですけど、良いですよね?

hazuki.mikado
恋愛
婚約者が私と距離を置きたいらしい。 待ってましたッ! 喜んで! なんなら物理的な距離でも良いですよ? 乗り気じゃない婚約をヒロインに押し付けて逃げる気満々の公爵令嬢は悪役令嬢でしかも転生者。  あれ? どうしてこうなった?  頑張って断罪劇から逃げたつもりだったけど、先に待ち構えていた隣りの家のお兄さんにあっさり捕まってでろでろに溺愛されちゃう中身アラサー女子のお話し。 ××× 取扱説明事項〜▲▲▲ 作者は誤字脱字変換ミスと投稿ミスを繰り返すという老眼鏡とハズキルーペが手放せない(老)人です(~ ̄³ ̄)~マジでミスをやらかしますが生暖かく見守って頂けると有り難いです(_ _)お気に入り登録や感想、動く栞、以前は無かった♡機能。そして有り難いことに動画の視聴。ついでに誤字脱字報告という皆様の愛(老人介護)がモチベアップの燃料です(人*´∀`)。*゜+ 皆様の愛を真摯に受け止めております(_ _)←多分。 9/18 HOT女性1位獲得シマシタ。応援ありがとうございますッヽ⁠(⁠*゚⁠ー゚⁠*⁠)⁠ノ

お飾り王妃は愛されたい

神崎葵
恋愛
誰も愛せないはずの男のもとに嫁いだはずなのに、彼は愛を得た。 私とは違う人との間に。 愛されたいと願ったお飾り王妃は自らの人生に終止符を打ち――次の瞬間、嫁ぐ直前で目を覚ました。

あなたに愛や恋は求めません

灰銀猫
恋愛
婚約者と姉が自分に隠れて逢瀬を繰り返していると気付いたイルーゼ。 婚約者を諫めるも聞く耳を持たず、父に訴えても聞き流されるばかり。 このままでは不実な婚約者と結婚させられ、最悪姉に操を捧げると言い出しかねない。 婚約者を見限った彼女は、二人の逢瀬を両親に突きつける。 貴族なら愛や恋よりも義務を優先すべきと考える主人公が、自分の場所を求めて奮闘する話です。 R15は保険、タグは追加する可能性があります。 ふんわり設定のご都合主義の話なので、広いお心でお読みください。 24.3.1 女性向けHOTランキングで1位になりました。ありがとうございます。

やり直し令嬢ですが、私を殺したお義兄様がなぜか溺愛してきます

氷雨そら
恋愛
 人生をやり直していると気がついたのは、庶子の私を親族に紹介するためのお披露目式の直前だった。  しかし私はやり直していることよりもこのあと訪れるはずの義兄との出会いに困惑していた。  ――なぜなら、私を殺したのは義兄だからだ。  それなのに、やり直し前は私に一切興味を示さなかったはずの義兄が、出会った直後から溺愛してきて!?  これは、ワケあり義兄とやり直し令嬢の距離がバグった溺愛ファンタジー 小説家になろう様にも投稿しています

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

処理中です...