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🐾消えたアイツらを探して🐾

🐾1 獣人と半人

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 ドガッ

 棚の上にまだ湯気の立つ肉片と、艶のある毛足の短い獣の皮、角や牙を放り出す。

「幾らになる?」

「⋯⋯そうだな。カマル湖畔の黒海狸ビーバーは、毛皮は防水・防寒に優れてて人気だし、牙も硬いのに加工に向いてる。
 アナフ高原の火鼠の毛皮も、ロックパイソンの角も今人気だから、質もいいし、金貨三枚でどうだ?」

「いいよ。じゃあ、いつものように、2枚は貯金で、1枚は崩して」

「はいよ」

 ラルクは何も言わず、いつものように金貨は木箱に入れて、使いやすいように銀貨や銅貨に替えた小袋を手渡してくれる。

「しかし、あのおチビさんが、ソロで狩りをするようになるとはなぁ。長生きはしてみるもんだな」

「もう。おチビさんは止めてよ」

「ははは。そうだな。今じゃこの街一番の探索者ハンターとして名が通った一人前の狩人ニムロドだもんな」

「また来るよ」

「おう、いいのを頼むぜ」

 すっかり体毛の色が褪せ始めたラルクといつもの挨拶を交わすと、店を出る。


「ウル! 来てたの?」

 薄茶の長い耳をピンと立てて、少女が駆け寄ってくる。兎人のルピナスだ。

 以前、草原で魔獣に襲われているのを助けたら懐かれたのだ。

 まだ二歳で、身体はすっかり年頃に見えるけど、まだ生殖可能になったばかりの未熟な亜成獣で、中身はまだまだ子供だ。

 獣人の中には、齧歯目げっしもくなど一年半で生殖可能になり、亜成獣として一般社会に出てしまう種族もいる。
 人間で言えば、14~16歳といったところか。

 半人と違って、成長スピードは獣相の基となる種族の特徴に引きずられる。

 二足歩行のウサギが服を着ていたら兎人。
 ウサギの耳や尻尾がついているのに、人間にしか見えないなら半人。

 僕と同じ人間に見えるけれど、どこかに獣相を持つ半人は、成長速度もほぼ僕と同じで、獣相の種族にもよるけどだいたい15~25歳くらいで成人になるみたいだ。

 半(分)人(間)と言うだけあって、その獣族の特徴や能力も半分程度である。
 今は世界の半数以上が半人と言われている。



 ダンジョンの祭壇で火に焼べられて、僕は死んだ。はずだったけど、こうして生きている。理由は⋯⋯

「ねえ、ご飯食べよ?」
「奢って、あるいは食べさせての間違いだろ?」
「ちがうもん! ルピナス、ちゃんと仕事したのよ」

 身体はある程度成長していても、たった二年やそこらで大人の分別がつくはずもなく。

 ルピナスは、薄茶の毛並みが見える、裸じゃないだけマシな服装で、僕の腕にしがみつく。
 以前、ちゃんとした服を着ろと言ったら、動きにくいし蒸れて暑いと嫌がった。
 仕方がないので、中味は幼児レベルの、懐っこいウサギだと思うことにしたのだ。

「お小遣いもちゃんと貰ったの! トペルさんちの焼きたてパンを、注文通りに届けるのよ」

 兎人は、その強い脚で駆け回るのが速く、軽やかに小回りもきくので、ネコ目より配達に向いている。

 また、好奇心旺盛なイヌ目や移り気なネコ目と違って、目標に一目散だ。

「そうか、頑張ったんだね」
「うん。だからね、今日は、ルピナスがウルに奢ってあげる」

 嬉しそうに手をひいて、市場の外れにある食堂へと促した。

 僕は今、ウルトル・イル・ヴェンティカトーレと名乗っている。意味はそのままだ。

 僕を火に焼べたアイツらを探して、その傍ら探索者ハンターをしている。

 絶対に見つけ出して、そして──




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