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🐾始まった魔法の特訓とまだ戻れない地上🐾
🐾7 二度死んだ僕
しおりを挟む背中を袈裟掛けに肩から腰への太い三筋の爪痕と、右脇腹に牙が食い込んだ痕が残っていたけど、全身火だるまになったという火傷痕はなかった。
〔すぐに消したからね。少し赤く腫れていたけど、ヘルハウンドに咬まれた直後に助け出して、心肺停止のまま生体反応ない状態で全身冷やしたら腫れはひいたよ。早く蘇生させなきゃいけないし細かい作業が大変だし、ボクの力も今は制限されてるしで、それでも君の魂は傷ついてなかったから、分解して魂の記憶を元に再構築したの〕
⋯⋯聞かなきゃ良かったかな。
心肺停止状態なのは一度目が覚めたときに聞いてたけど、火傷で腫れてたとか、聞くだけであちこち痛くなりそうだよ。
神通力が制限されてる云々はともかく、蘇生するのに細かい作業が大変とか、分解して再構築?
僕の身体は、パズルか何かかな?
余暇のある裕福な生活をしている人の暇つぶしや趣味に、一幅の絵を細かく不規則な形に切り分けたものを繋ぎ合わせて、元通りにする知的遊戯がある。
子供用のものをやったことあるけど、元の絵を知らないと、難易度は少し上がる。
それを、人体でやったって事?
〔君の魂が君という人間を記憶しているから、ボクは再生魔法に力を注ぐだけ。死ぬほどの大怪我をして意識がなかったから、情報が記憶されなかったから、火傷の痕や嚙み傷は残らなかったんだね〕
それでも、腰に一カ所、牙の食い込んだ痕はあるけど。
火傷の痛みと酸欠に気を失う時に見た、辺り一面が真っ白になったのは、たぶんロスクラリスの攻撃性を高めた〘洗浄一閃〙の鮮烈な光だったんだろう。
僕の命は、何度もロスクラリスに助けられている。
僕は、僕を依り代として現世にいるロスクラリスのためにも、ロスクラリスが僕から自由になって神世に無事に戻れるその日まで、自分の命を身を、大切にしなくてはいけない。
このダンジョンから出られたら、ロスクラリスが僕とのリンクから解放される方法も探さなきゃ。
〔それはいいかな? 別に。 太陽神や地母神みたいに毎日管理調整しなきゃいけない司る対象がある訳でなし、休まずやらなきゃいけない取り決めがある訳でなし。創造神の造られた神々と違って、人々の信仰から生まれた新興自然神だから気楽なもんよ〕
だから、君が天命を全うするまでくらい付き合ってあげるよ。
⋯⋯天命? 天寿、じゃなくて?
〔うん。もちろん寿命が尽きるまで付き合うし、神にとってはヒトの一生なんてたいした時間じゃない。
だけど、こうしてボクと同調して縁を結んだのは、何かもっと大きな力が働いて与えられた天命みたいなものなんじゃないかな、と思うんだ〕
難しいことをサラッと言う。
〔だって、この世のどんなことだって、意味のない、ムダなことはないんだよ。縁と理由があって、事象が起こり結果がある。天(管理神や運命神)から与えられた役割と使命──それすなわち天命でしょう?〕
人々の信仰から生まれた自然神は、神さまなのに運命論者だった。いや、神さまだから、なのかな?
ロスクラリスは、僕と繋がっているのは、ただ生贄に捧げられたから依り代となって絆が結ばれたからだけでなく、そうなるべくしてなったのだという。
〔だって、長い間この祭壇に縛られていたけど、条件が合わなかったのか天の采配か、今までこの祭壇を起動させられる人は現れなかったんだよ。
きっと、君でないといけない何かがあるんだよ〕
そうなのかな。その何かってなんだろうと考えながらも、まだ身体は本調子じゃないからか眠気が襲ってきて、再びまどろみの淵に沈むことにした。
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