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𓀏裏切りのあと𓀏

𓆋2 苛立つ虎人ドルガ

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 目的の隠し部屋のあった最下層まで、往路は予定通りの日数で進めた。

 荷物は獣相のない純正オリジンの少年が管理していたし、斥候担当のトゥグリもいた。ゲイルとは系統の違う魔法を使うので、戦力バランスはとれていたし、ドルガ達三人とも完調であった。

 が、復路はまず荷物番の少年が居ないことで戦闘中でも荷物を気に掛けなければならなかったし、トゥグリがいない分純粋に戦力が落ちている。
 更には、ドルガは、回復士の施術が必要なほど大怪我をしていたし、ゲイルは左腕が肘の少し上からなくなっている。
 魔法を使う分には、道具を使ったり、手を合わせたり指を組んだりして手印を結ばねばならない複雑なものでなければ可能なのだが、彼の得物は両端が穂先になった両剣のような長棹で、片腕で振り回すのは動きに制限があった。


 ──何よりも問題なのは⋯⋯


「これ、地上まで保たねぇよな?」

 ペイルは、リュックの中から木箱を出して、蓋を開けて見る。もう何回目だろうか。幾度見ても、中味が増えることはないが、つい見てしまうのである。

「後2~3日かかるかもしれねぇのに、これっぽっちしかねぇのかよ?」
「余裕を見て用意しろっていっておいたのに、手を抜きやがって」
「いや、そうではないだろう。あの子は、我らが仕留めた魔獣を捌いて、売りに出す素材と、道中の食材になる肉とに分けていたからな。その計算で、食料に関しては少な目なのだろう。
 トゥグリもあの魔眼のようによく見える眼で、よく野生動物や木の実、果物などを見つけて採っていたからな。その分、別のものに準備を整えていたはずだ。
 お前のその背中の傷の止血剤も、回復力を高める薬水も、あの子が選んで用意したものだろう?」

 そう言われれば、返す言葉も見つからず、黙り込むドルガ。

「そもそも、帰りはダンジョンコアまで進んで、出口にひとっ飛びの予定だった事を思えば、それだけ残っているのはあの子の配慮があればこそ。腹は減るが、数日なら餓死はすまい。
 とにかく、冷静に確実に階層を上がっていこう」

 クエスト達成の後は、隠し部屋から出て、来た道を戻るのではなく更に奥へ進み、ダンジョンコアのある最奥部のガーディアンを斃して、地上への転移魔法陣で帰る予定だったのだ。

 それを、何か不測の事態があった場合に備えて、節約しつつ現地で狩りをすることで帰りも保たせられるだけ少年は用意していたのだから、文句をつけるのは間違っている。とゲイルは仲間を諭した。

 理屈ではわかっていても、感情は納得できない。

 怪我やクエストの失敗、仲間に裏切られた怒り、疲れや予定通り進まない事への苛立ちなど、およそ冷静とは縁遠いドルガであった。

 では、なぜ予定通りの経路で帰還しないのか?

 隠し部屋から出たすぐは、ドルガが気を失いかけるほどの失血量による体力の低下と、ゲイルも左腕を失くす大怪我である。
 とても最奥部のガーディアンに挑めるコンディションではなかった。

 隠し部屋の中で休息をとるにも、自分達と屠った魔獣の血の臭いで休み辛かったし、例え我慢したとしても、血の臭いで外の通路に魔獣が増え始めていた。

 また、休眠状態であった古代神の祭壇を活性化させたことで、本体はトゥグリが持ち去っても残留神気に惹かれて寄ってくる魔族が、どんどん強いモノになっていくのだ。

 中でとどまっても、いずれ上位魔族に殺されるか、外に出ても血に飢えた魔獣に囲まれて喰われるか、じり貧になることは予想がついた。

 ゲートガーディアンに挑める体力が戻るまで待つことは出来なかったのである。

 苦渋の決断で、往路でマッピングした安全地帯で休みながら、一層一層上がって戻ることにしたのだが。

 環境によって、幾日も断食せざるを得なかったり、冬眠をしたりする爬虫系で、生命力の高いドラゴンの血をひくドラゴニュートのゲイルには、地上へ帰還するまでの数日くらい食べられなくても、空腹は感じるものの耐えられないことはないが、肉食獣の獣相を持つ虎人と豹人の二人には、新鮮で腹いっぱいの食べ物が懐かしく感じられた。

  


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