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🐾暗い陽の差さない地の底で🐾
👻5 ダンジョンから出るために
しおりを挟む──冷たい⋯⋯雨?
痺れるほど冷たい雫が、顔に、手に足に当たる。
おかしいな。僕は、確か、ドルガに抱えられて、隠し部屋の中の祭壇に据えられたでっかい黄金の盃に乗せられて⋯⋯
〔それはもう終わったでしょ?〕
終わった? そうだね、身体が燃えちゃったら、終わり⋯⋯
〔そうじゃないでしょ!! いいから、気がついたなら起きなよ〕
なんか、神さま、最初より言葉遣いとか性格とか、変わった?
〔そりゃ、依り代の性質にもよるかな? 今は、君に同調してるから、君に影響されてるかも〕
「そういうもの?」
目が覚めたら、あの暗い、祭壇のある隠し部屋だった。
神さまに教えて貰った〘洗浄一閃〙のおかげで、血の臭いや魔獣の残骸の獣臭さもなくなっていた。
「これ⋯⋯ これまで出したの?」
湿ったカビ臭い岩壁のダンジョンの一室に似つかわしくない、折りたたみ式の簡易ベッド。2カ所橋脚を立てて吊り下げるハンモックのようなものに包まれて、吊り下げるように眠っていたらしい。
これは豹人のお気に入りだったもので、彼はすぐに大人になり収まらないくらい育ってしまったので、処分したことになってるけど、実は僕のポケットにしまっていたものだ。
〔こんな所で直に寝たら、身体に悪そうでしょ? 冷たいし、湿ってるし、洗ったとは言え魔獣や人間の血で汚れていたんだし。せっかくだもん、あるもんは活用しなきゃ〕
冷たい、と言えば。
「夢なのかな、ここで寝てたとき、顔や手や体中に、水滴が落ちてきてたような気がしたんだけど⋯⋯」
〔あ、それ、ボク。ボクの一部が君に浸透していってるんだよ〕
「神さまが、シントウしていくの?」
〔うん。生贄なんか要らないけど、捧げられちゃったしね、君〕
もしかして、そのしんとうって、浸透? 僕の中に染みていってるって事?
〔そうそう。よく解ってんじゃん。君が寿命を全うする頃には、ボクは君で、君はボクになって、どっちがどっちだか解らなくなってるかもね〕
⋯⋯
⋯⋯⋯⋯浸透⋯⋯⋯⋯
⋯⋯⋯⋯⋯⋯ひとつになる!?
「え、ええっ!? そ、それで神さまはいいの!?」
〔何が? 何か不都合ある?〕
「僕に浸透してどっちがどっちか解らなくなるって、今の僕も神さまもいなくなっちゃうって事でしょう?」
〔ひとつになるんだから、居なくなるのとは違うかな? 別にボクは困らないよ〕
自分が消えてなくなっても困らないという神さま。考え方が違いすぎるんですけど。
〔違うよ。君の考え方や記憶をも引き継ぐけど、ボクがなくなる訳じゃない君の考え方を持って、感情も感じるけどボクの意識はそのままにあって、ひとつに統合される感じかな?〕
僕と神さまじゃ、ぜんぜん違って、統合されるって理解できないんだけど。
と言っても、今すぐのことではないらしい。
とりあえず、覚えた洗浄一閃を緩くして応用したクリーン魔法でハンモックのような簡易ベッドと毛布を綺麗にして、ポケットに収める。
〔ボクと繋がってるから、そんなにはお腹空かないだろ? 時間には余裕があるさ。ここで、魔法の練習をして、修行を積みながら時間を潰して、おいおい、地上に出ようか〕
さすがは神さま、気長なことを言うけど、生きた人間のボクは、お日様を浴びなかったら、いずれ健康を崩して動けなくなるんですけど。
〔なんで? 君には〘明光〙があるじゃないか。あれは太陽神の力を借りてるから、外で日の光を浴びてるのと大きくは変わらないよ〕
普通の魔法は、精霊や妖精の力を借りて、魔素や霊気を動かすものだけれど、この神さまに習う魔法の殆どは、古代神の力を借りて発動するものらしい。
道理で、効果がおかしいくらい強いわけだ。
〔力の発動元が精霊か神かの違いだけだよ。妖精魔法に比べたら効果は安定してるし副作用も少ないから安心してよ〕
とにかく、副作用があろうがなかろうが、無理でもなんでも、魔物と戦って生き残れる自身も実力もない僕が生きて地上に戻るためには、神さまの力を借りて魔法使いになるしかないのだろう。
神さまに教えてもらった〘明光〙の灯りしかない閉ざされた、時間感覚も消えそうな隠し部屋の中で、無理でもやるしかない修行をする事になった。
期限は、僕の命が尽きるか、ポケットの中の保存食がなくなるまで。
気の長い話だ。
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