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第3話 ユニークスキルは『守銭奴』です
38 杖術
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𐂫
俺も、一度は剥がされたもののちゃんと忘れずに回収していた上着の内ポケットから、サンマの鞘の刺身包丁を出したけど、エディさんに止められる。
「そのナイフが届く距離で戦わないように」
釘を刺された。別の騎士が、レェーヴ君に渡したのと同じ長めの棍を投げてきた。
エディさんが受け取って、俺に手渡す。
頭より高い位置でパシッと受け取るのもカッコいい。
イケメンだから、こういう動きはマジでハリウッド映画のスターみたいだよな。
ジャッキー・チェンが映画の中で使ってたみたいな細長い棍だけど、俺は合気道で九の型まで習ったものの、実戦で試したことはない。
まだ、剣道の方がマシかな?と静かに中段の構えで待機する。
「へえ? 剣術やったことあるの?」
「洋剣や刀なんかの居合道は見よう見まね程度ですよ。竹刀っていう、割り竹を束ねた木剣で、面や胴なんかの防具を装着してルールに則った打ち合いのスポーツを、子供のころに親父や祖父さんにさせられていただけで、強くはないです」
「いいじゃん。健康に育ち強くなって護身にもなるって、信じて習わせてくれてたんでしょ? お手並み拝見といきましょうか。ただし、自分からは行かないこと。俺の傍にいて、向かってこられての迎撃にのみ使用。いいね?」
「はい」
しばらく、篝火の木が爆ぜる音しか聴こえない静かな緊張の時が続いたけど、敵は突然動いた。
篝火の、金属製の松明を持った騎士が、暗がりから飛び出してきた複数の醜鬼に襲われた。
俺達人間は殆ど夜目は利かない。明るいところでは色や形を複雑に見分けられるけど、光のないところでは殆ど形を捉えることは出来ない。
醜鬼たちはまず俺達の視力を奪うつもりのようだ。けっこう賢いな。
篝火を両手で支える分、武器は持てず、鎧で身を護るしかない若手の騎士を守るべく、志願兵や他の騎士達が応戦する。
俺やシュカちゃんを攫って逃げればよかったさっきと違い、明確に騎士を殺りに来てる。
その殺意と脅威は、さっきの比ではない。
「クソッタレ! 明らかに灯りと騎士を狙ってやがんな」
「護衛を無力化してから、ゆっくり女性を攫って、子供を餌にしようってか?」
ラーガー先生とエディさんが怒鳴り合う。
喧嘩をしてる訳じゃなくて、戦いながら、自然声が大きくなるんだろう。
レェーヴ君は完全に戦力にならなかった。腰を抜かさないだけマシで、棒立ちだ。
さすがにキルケは、シュカちゃんを守って、近づく醜鬼を斬りつけて追い払っていたが、それで精一杯だ。
俺は、実はエディさんから少し離れていた。もちろん、緊急時には駆け寄れる距離だが。
長い棹ものの棍を最初は竹刀のように打ち払って追っ払っていたが、数が多くて一匹一匹狙っていたのでは間に合わないのだ。
で、ジャッキー・チェンに成り切ったつもりで、360°振り回しているのである。
そのため、エディさんを打たないように、棍の長さ+α分だけ距離をとっているのだ。
一応、めちゃくちゃ無軌道に振り回すのではなく、棍の先の軌道が弧を描くように、右手左手を渡らせながらの、中華アクション映画の主人公になった気分で取り回すのである。
合気道で素振り20本とか31の杖とかいう、型の流れを素振りする奴。剣道とはぜんぜん違って覚えるだけで大変で、真剣にやってなかった。ジャッキー・チェンの真似~とか言って遊び半分だったけど、もっと、真面目に習っておけばよかった。
棍で打ち付けても払っても斃せる訳ではないので、キリがない。
シュカちゃんよりも俺の方に来る数が多いのが救いだろうか。
篝火は持っていられなくて、二つは倒され火は消えている。
だけど、シュカちゃんが大きな光の玉を作り出して、空に打ち上げた。
洞窟に潜行したり、窓のない建物の中で使う、光の魔法らしく、それを通常よりも大きく、高く上げたらしい。
よく見えるようになった分、状況の陰惨さが浮き彫りになる。
シュカちゃんは息を飲み、レェーヴ君はまたもやへたり込んでしまった。
金属製の全身鎧を着ていない志願兵の何人かが、剥き出しの腕や腿などを損傷して倒れている。
胴体が両断された醜鬼も散らばっていて、エディさんやワーテルガーさんのように、技や魔法を乗せた剣技で斬れる人はいいが、物理的に剣で斬りつける人には、醜鬼の身体にハマって抜けなくなっていたり、脂で斬れなくなっていたりして、キルケも剣はもはや叩きつけるだけの、剣の形をした金属棒になっていた。
〘戦闘系技能【杖術】円滑の防衛 取得 レベルアップ2〙
またもや、女神の声に似てるけどちょっと違うアナウンスが頭に直接響く。
【杖術】とは、読んで字の如く、そのまま合気道や薙刀なんかに通じる棍を扱う技術なのだろう。
取得と同時にレベルアップしたとかで、さっきよりも滑らかに棍を振り回せる。
しかも、少し威力が上がったのか、打ち払った醜鬼が吹き飛ぶ距離が伸びたように思う。
冒険者 常磐詠哉、最初の戦闘技能ゲット、杖術が使えるようになりました!!
俺も、一度は剥がされたもののちゃんと忘れずに回収していた上着の内ポケットから、サンマの鞘の刺身包丁を出したけど、エディさんに止められる。
「そのナイフが届く距離で戦わないように」
釘を刺された。別の騎士が、レェーヴ君に渡したのと同じ長めの棍を投げてきた。
エディさんが受け取って、俺に手渡す。
頭より高い位置でパシッと受け取るのもカッコいい。
イケメンだから、こういう動きはマジでハリウッド映画のスターみたいだよな。
ジャッキー・チェンが映画の中で使ってたみたいな細長い棍だけど、俺は合気道で九の型まで習ったものの、実戦で試したことはない。
まだ、剣道の方がマシかな?と静かに中段の構えで待機する。
「へえ? 剣術やったことあるの?」
「洋剣や刀なんかの居合道は見よう見まね程度ですよ。竹刀っていう、割り竹を束ねた木剣で、面や胴なんかの防具を装着してルールに則った打ち合いのスポーツを、子供のころに親父や祖父さんにさせられていただけで、強くはないです」
「いいじゃん。健康に育ち強くなって護身にもなるって、信じて習わせてくれてたんでしょ? お手並み拝見といきましょうか。ただし、自分からは行かないこと。俺の傍にいて、向かってこられての迎撃にのみ使用。いいね?」
「はい」
しばらく、篝火の木が爆ぜる音しか聴こえない静かな緊張の時が続いたけど、敵は突然動いた。
篝火の、金属製の松明を持った騎士が、暗がりから飛び出してきた複数の醜鬼に襲われた。
俺達人間は殆ど夜目は利かない。明るいところでは色や形を複雑に見分けられるけど、光のないところでは殆ど形を捉えることは出来ない。
醜鬼たちはまず俺達の視力を奪うつもりのようだ。けっこう賢いな。
篝火を両手で支える分、武器は持てず、鎧で身を護るしかない若手の騎士を守るべく、志願兵や他の騎士達が応戦する。
俺やシュカちゃんを攫って逃げればよかったさっきと違い、明確に騎士を殺りに来てる。
その殺意と脅威は、さっきの比ではない。
「クソッタレ! 明らかに灯りと騎士を狙ってやがんな」
「護衛を無力化してから、ゆっくり女性を攫って、子供を餌にしようってか?」
ラーガー先生とエディさんが怒鳴り合う。
喧嘩をしてる訳じゃなくて、戦いながら、自然声が大きくなるんだろう。
レェーヴ君は完全に戦力にならなかった。腰を抜かさないだけマシで、棒立ちだ。
さすがにキルケは、シュカちゃんを守って、近づく醜鬼を斬りつけて追い払っていたが、それで精一杯だ。
俺は、実はエディさんから少し離れていた。もちろん、緊急時には駆け寄れる距離だが。
長い棹ものの棍を最初は竹刀のように打ち払って追っ払っていたが、数が多くて一匹一匹狙っていたのでは間に合わないのだ。
で、ジャッキー・チェンに成り切ったつもりで、360°振り回しているのである。
そのため、エディさんを打たないように、棍の長さ+α分だけ距離をとっているのだ。
一応、めちゃくちゃ無軌道に振り回すのではなく、棍の先の軌道が弧を描くように、右手左手を渡らせながらの、中華アクション映画の主人公になった気分で取り回すのである。
合気道で素振り20本とか31の杖とかいう、型の流れを素振りする奴。剣道とはぜんぜん違って覚えるだけで大変で、真剣にやってなかった。ジャッキー・チェンの真似~とか言って遊び半分だったけど、もっと、真面目に習っておけばよかった。
棍で打ち付けても払っても斃せる訳ではないので、キリがない。
シュカちゃんよりも俺の方に来る数が多いのが救いだろうか。
篝火は持っていられなくて、二つは倒され火は消えている。
だけど、シュカちゃんが大きな光の玉を作り出して、空に打ち上げた。
洞窟に潜行したり、窓のない建物の中で使う、光の魔法らしく、それを通常よりも大きく、高く上げたらしい。
よく見えるようになった分、状況の陰惨さが浮き彫りになる。
シュカちゃんは息を飲み、レェーヴ君はまたもやへたり込んでしまった。
金属製の全身鎧を着ていない志願兵の何人かが、剥き出しの腕や腿などを損傷して倒れている。
胴体が両断された醜鬼も散らばっていて、エディさんやワーテルガーさんのように、技や魔法を乗せた剣技で斬れる人はいいが、物理的に剣で斬りつける人には、醜鬼の身体にハマって抜けなくなっていたり、脂で斬れなくなっていたりして、キルケも剣はもはや叩きつけるだけの、剣の形をした金属棒になっていた。
〘戦闘系技能【杖術】円滑の防衛 取得 レベルアップ2〙
またもや、女神の声に似てるけどちょっと違うアナウンスが頭に直接響く。
【杖術】とは、読んで字の如く、そのまま合気道や薙刀なんかに通じる棍を扱う技術なのだろう。
取得と同時にレベルアップしたとかで、さっきよりも滑らかに棍を振り回せる。
しかも、少し威力が上がったのか、打ち払った醜鬼が吹き飛ぶ距離が伸びたように思う。
冒険者 常磐詠哉、最初の戦闘技能ゲット、杖術が使えるようになりました!!
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