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第3話 ユニークスキルは『守銭奴』です
36 帰路
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とりあえず、この実習は後日やり直しと言うことで、今夜は帰ることになった。
「1隊・2隊は、斥候隊と3隊・4隊の帰還までここで待機。5隊は、子供達と引率の教官を護衛して、一旦街まで戻れ」
ワーテルガーさんは、なんと警備隊の半分を連れてきていた。
街の警備が手薄にならないのかな。
「俺も5隊と戻るよ。セイヤ達を診てあげなきゃ」
「そんな。俺は大丈夫ですよ。エディさんは、警備隊達のためにも残った方が」
「衛生兵は他にもいるよ。ある程度なら自分達で治せる人も少なくないし」
「それを言うなら、5隊にも衛生兵はいるがな」
5隊には衛生兵はふたりいて、でもどちらも再生魔法は使えないが魔力は高めで、ひとりは救急救命士の資格を取ったばかりの若者だという。
「セイヤだって、知らない人ばかりより、知ってる人がいる方が良いだろ?」
「わかったわかった。ついていけ。ただし。5隊がこっちへ戻るのに同行して戻って来い。こちらも、醜鬼の規模によっては、再生術が使える奴は一人でも多い方がいいからな」
一旦、ワーテルガーさんやルーカスさん達と別れ、比較的年齢の若い人が多く気力と精力に優れる警備隊第5隊の人達の護衛で、街まで徒歩で戻る。
エディさんは、騎士のひく馬の上で震えるシュカちゃんを気づかいつつ、こっそりサーチで診ながら、寄り添って歩く。
レェーヴ君の打撲傷とキルケの左腕と肋骨の骨折、右足首の捻挫は、エディさんの再生術によってすでに元通りに治っている。
治っているけど、心のケアはまだまだだ。
住んでた街では、同年代の子達の中ではまあまあ腕が立つ方だったキルケ。でも、醜鬼の集団には歯が立たなかった。
ワーテルガーさんが警備隊の半分を連れて来るほど、集団の醜鬼は面倒なのだから、彼一人で勝てる訳はないのだけど、自信喪失に陥っているようだ。
レェーヴ君も、今後、動植物の生態を研究していくなら当然フィールドワークが多くなっていくだろうに、今は恐怖心が心を塗りつぶした状態で、歩いてはいるけれど元気はなく、話しかけても生返事だ。
俺は、ヤツらに喰われかけた衝撃で、疲れもあって歩くのがやっと。護衛の若い騎士が馬に乗せてくれると言ったけれど、その揺れが醜鬼に運ばれてた時の感じを思い出しそうで、断った。
来る時は意気揚々と、友達とキャンプに行くような気軽さで、薬草の知識や魔法の勉強を兼ねた実地研修旅行だと楽しんでいたのに、帰りはボロボロ。
でも、これが現実。冒険者になるという事は、こういう事なんだ。
ラーガー教官が精霊術で救援信号を送ったんだと思ってたあの光は、ワーテルガーさんかルーカスさんかのつけた、俺の監視の精霊だった。
その、監視の精霊が救援要請をしに行ってくれたから、今回はたまたま助かったけど、ワーテルガーさんに保護された縁がなければ、或いは監視が解けた後の自由行動が始まった通常活動中だったなら、俺はもう、この世にはいなかった。
一旦助かった事で気が弛んで、ボーッとしてたせいで醜鬼の残党に襲われて、エディさんが間に合わなければ、やはり俺は喰われてた。
冒険者になるのも、ゲームや小説の中のようにはいかないのだと、身に染みた。
「セイヤ。気を落とすな。普通、大きな街のそばに醜鬼が住み着くことはあまりない。騎士団や軍隊に討伐されてしまうからな。だから、ヤツらは近辺にはいないと高を括ってた我が町の管理責任者達の責任でもある。まあ、ワーテルガー隊長だな。
警備隊の指導者で、街の領主だから、もっと警戒して然るべきだった。
定期的に街の安全のために近隣に派兵するんだけど、それが探索範囲か調べる能力が足りてなかった。或いは、頻度が足りてなかった。それは、俺達の責任なんだ。
こんな事は滅多にない。発生した敵の種類も悪かった。一匹一匹はそんなに強くないが、徒党を組むと、プロの討伐隊でもたまにやられるんだ。今日初めて自由民として街の外に出た子供達が敵う相手じゃない。
自信喪失したり、勝てなかった自分達を恥じたりする事はないよ」
エディさんの言うことは慰めでもあるけど、本当のことでもあるんだろう。だからと言って、キルケやレェーヴ君が納得できるかはわからないけど。
俺も、理性では、冒険者になるための身分証を(金で)入手しただけで、専門的な訓練もしてないただの高校生が、モンスターと戦えるとは思ってない。だけど、何にも出来なさすぎた。
親父や祖父さんに習って初段とった剣道も、護身になるからと無理矢理やらされた合気道も役に立たなかった。
まあ、高校生になってからは、バイトと勉強で真面にやってなかったけど。
「冒険者になるって、簡単じゃないなぁ」
「そんなに簡単になられちゃ、厳しい訓練乗り越えてきた俺達騎士や兵士の立つ瀬がないだろ。ゆっくりなればいいんだよ。な?」
エディさんって、あの性癖出さなきゃホントに善い人なんだけどなぁ。
とりあえず、この実習は後日やり直しと言うことで、今夜は帰ることになった。
「1隊・2隊は、斥候隊と3隊・4隊の帰還までここで待機。5隊は、子供達と引率の教官を護衛して、一旦街まで戻れ」
ワーテルガーさんは、なんと警備隊の半分を連れてきていた。
街の警備が手薄にならないのかな。
「俺も5隊と戻るよ。セイヤ達を診てあげなきゃ」
「そんな。俺は大丈夫ですよ。エディさんは、警備隊達のためにも残った方が」
「衛生兵は他にもいるよ。ある程度なら自分達で治せる人も少なくないし」
「それを言うなら、5隊にも衛生兵はいるがな」
5隊には衛生兵はふたりいて、でもどちらも再生魔法は使えないが魔力は高めで、ひとりは救急救命士の資格を取ったばかりの若者だという。
「セイヤだって、知らない人ばかりより、知ってる人がいる方が良いだろ?」
「わかったわかった。ついていけ。ただし。5隊がこっちへ戻るのに同行して戻って来い。こちらも、醜鬼の規模によっては、再生術が使える奴は一人でも多い方がいいからな」
一旦、ワーテルガーさんやルーカスさん達と別れ、比較的年齢の若い人が多く気力と精力に優れる警備隊第5隊の人達の護衛で、街まで徒歩で戻る。
エディさんは、騎士のひく馬の上で震えるシュカちゃんを気づかいつつ、こっそりサーチで診ながら、寄り添って歩く。
レェーヴ君の打撲傷とキルケの左腕と肋骨の骨折、右足首の捻挫は、エディさんの再生術によってすでに元通りに治っている。
治っているけど、心のケアはまだまだだ。
住んでた街では、同年代の子達の中ではまあまあ腕が立つ方だったキルケ。でも、醜鬼の集団には歯が立たなかった。
ワーテルガーさんが警備隊の半分を連れて来るほど、集団の醜鬼は面倒なのだから、彼一人で勝てる訳はないのだけど、自信喪失に陥っているようだ。
レェーヴ君も、今後、動植物の生態を研究していくなら当然フィールドワークが多くなっていくだろうに、今は恐怖心が心を塗りつぶした状態で、歩いてはいるけれど元気はなく、話しかけても生返事だ。
俺は、ヤツらに喰われかけた衝撃で、疲れもあって歩くのがやっと。護衛の若い騎士が馬に乗せてくれると言ったけれど、その揺れが醜鬼に運ばれてた時の感じを思い出しそうで、断った。
来る時は意気揚々と、友達とキャンプに行くような気軽さで、薬草の知識や魔法の勉強を兼ねた実地研修旅行だと楽しんでいたのに、帰りはボロボロ。
でも、これが現実。冒険者になるという事は、こういう事なんだ。
ラーガー教官が精霊術で救援信号を送ったんだと思ってたあの光は、ワーテルガーさんかルーカスさんかのつけた、俺の監視の精霊だった。
その、監視の精霊が救援要請をしに行ってくれたから、今回はたまたま助かったけど、ワーテルガーさんに保護された縁がなければ、或いは監視が解けた後の自由行動が始まった通常活動中だったなら、俺はもう、この世にはいなかった。
一旦助かった事で気が弛んで、ボーッとしてたせいで醜鬼の残党に襲われて、エディさんが間に合わなければ、やはり俺は喰われてた。
冒険者になるのも、ゲームや小説の中のようにはいかないのだと、身に染みた。
「セイヤ。気を落とすな。普通、大きな街のそばに醜鬼が住み着くことはあまりない。騎士団や軍隊に討伐されてしまうからな。だから、ヤツらは近辺にはいないと高を括ってた我が町の管理責任者達の責任でもある。まあ、ワーテルガー隊長だな。
警備隊の指導者で、街の領主だから、もっと警戒して然るべきだった。
定期的に街の安全のために近隣に派兵するんだけど、それが探索範囲か調べる能力が足りてなかった。或いは、頻度が足りてなかった。それは、俺達の責任なんだ。
こんな事は滅多にない。発生した敵の種類も悪かった。一匹一匹はそんなに強くないが、徒党を組むと、プロの討伐隊でもたまにやられるんだ。今日初めて自由民として街の外に出た子供達が敵う相手じゃない。
自信喪失したり、勝てなかった自分達を恥じたりする事はないよ」
エディさんの言うことは慰めでもあるけど、本当のことでもあるんだろう。だからと言って、キルケやレェーヴ君が納得できるかはわからないけど。
俺も、理性では、冒険者になるための身分証を(金で)入手しただけで、専門的な訓練もしてないただの高校生が、モンスターと戦えるとは思ってない。だけど、何にも出来なさすぎた。
親父や祖父さんに習って初段とった剣道も、護身になるからと無理矢理やらされた合気道も役に立たなかった。
まあ、高校生になってからは、バイトと勉強で真面にやってなかったけど。
「冒険者になるって、簡単じゃないなぁ」
「そんなに簡単になられちゃ、厳しい訓練乗り越えてきた俺達騎士や兵士の立つ瀬がないだろ。ゆっくりなればいいんだよ。な?」
エディさんって、あの性癖出さなきゃホントに善い人なんだけどなぁ。
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