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第3話 ユニークスキルは『守銭奴』です
35 光るシルエットで男前度アップ
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💉
爪で引っ掻かれたりするなよと言われてた、いかにも不潔そうな醜鬼に、インナーシャツを裂かれ、腹を囓られそうになるとか、ヤバいなんてもんやないやろ!!
まだ暖かい時期の夜。新しい落ち葉や枯れ枝などは殆どなく、長い間積もっていたらしき葉の崩れた欠片を服にいっぱいくっつけて、転げ回るようにもみ合って、なんとか囓られないように腹を守る。
転がりすぎて、林道から外れ、木が立ち並ぶ辺りに突っ込んで、木の幹に強かに背中を打つ。
「⋯⋯ってぇ」
痛すぎて、予測できてなくて、息が止まりそうだ。
だがそれは醜鬼も同じだったようで、俺のパーカーを摑む手が離れ、痛みにもんどりうって転がりまわる。
が、体力や耐性の問題か、やがて立ち上がり、まだ咳が止まらない俺に躍りかかってきた。
万事休す 今度こそ、この世とおさらばか⋯⋯
ワーテルガーさん達の足下を照らす篝火も遠く、暗がりの中、宙に跳び上がった醜鬼のシルエットがオレンジ色に見える。
母さん、二度と会えない事になっただけでなく、親孝行も出来ないうちに先に死んでごめんな。かくなる上は、守護霊になってお詫びす⋯⋯
ズバッ
俺目掛けて跳び上がった醜鬼のシルエットが、縦に切り目が光り全身が左右に分かれ、更にぶ厚い布を裂くような重い音がして、横に斬撃の光が走って、4つになり、バラバラに地面に落ちる。
俺、助かった?
「セイヤ! 無事か!?」
篝火も近づいてくる。暗闇に人影が浮き上がる。
小豆色の尻尾の生えた髪が、アメジストに輝きを放ち、シルエットを作る。
走って駆けつけたのだろう、肩で息をしたエディさんだった。流れる汗も、キラキラしいイケメンぶり。
衛生一等官とか言われてたのに、回復魔法を使うお医者さんだか救急救命士だかの役割の人なのに、俺達が歯が立たなかった醜鬼を両断できる腕前もあるんだ⋯⋯
「当たり前だろ。自分の身を守れなきゃ、仲間を守れないだろうが。剣術や棍・斧・体術なんかを扱えるのは大前提だ」
「そ、それはそうですね、見くびってました。すみませ⋯⋯ワァ!?」
手にした剣を放り出して、俺に飛びかかるエディさん。
セクハラとかじゃなく、心配して、泣きそうな顔で抱きついてきた。
「マジで焦ったって! 隊長について来てたはずのセイヤの姿が消えたって、キャンプ地じゃ大騒ぎだ。醜鬼に攫われたんじゃないのか、血の臭いに寄って来た魔獣に襲われたんじゃないか。ヨナスなんか、目を離したことを自死もので後悔して半狂乱だったぞ。ルーカスもな」
「心配かけて、ごめんなさい」
「馬鹿言うな。初めての野外演習で、魔物に襲われて震える子供から目を離した大人が悪いに決まってるだろ!! 謝る必要なんかない。泣いて縋ってもいい案件だぞ」
「うん。うん。もう、みんなと会えないかと思った。⋯⋯もう、俺、の人生こ、こまでだって、お世話になっ⋯⋯人にお礼もなし、に、守護霊なるか、思っ」
エディさんにしがみ付いて声を殺して泣く。
男は簡単に泣くもんじゃないと親父や祖父さんに言われてたけど、エディさんの許しも出たし、今回はいいよな。
「セイヤさん!! 目を離して申し訳ありません。まだ残党の確認も終えない内に、気を抜きすぎでした」
ヨナスさんが土下座して謝り、ルーカスさんも直角か?って角度で深く頭を下げる。
泣いてるところを見られて恥ずかしくて、エディさんから離れようとする。
が。
「セイヤ。怪我はないのか? 痛いところは?」
「さっき木にぶつかって背中がちょっと痛くて呼吸出来なかったけど、エディさんからなんか温かいもの受け取ったら治った」
「ああ。俺、臨場したらいつも、自動回復かけておくから、そのオーラがセイヤにも効いたんだな。他に怪我はない?」
「うん。パーカーの下のインナーシャツは破られたけど、身体は引っ掻かれてないよ」
篝火を掲げた大柄の騎士が近づいてくると、俺の悲惨げな姿が露わになる。
肩まで捲り上げられたパーカー、引き裂かれたぼろ布のようなインナーシャツ、膝まで下げられたズボンともみ合ううちに脱げかけのズレたボクサーパンツ。
「セイヤ!!」
エディさんが悲鳴を上げる。なんなんだ? 怪我はないって言ったやん。
「ちょ、尻は無事か? ヤられてないか!? ケツ見して見ろ!! バージン奪われてな⋯⋯!!」
かなり鈍く大きな音がして、エディさんが、俺の隣に崩れ落ちる。
鞘のついたままの騎士剣を構えたルーカスさんが肩で息をしていた。
「緊急時だからと大目に見てたら、通常運転に戻ったみたいですね、この、警備隊随一の恥さらし少年少女趣味の変質者は」
ルーカスさんは容赦がなかった。
爪で引っ掻かれたりするなよと言われてた、いかにも不潔そうな醜鬼に、インナーシャツを裂かれ、腹を囓られそうになるとか、ヤバいなんてもんやないやろ!!
まだ暖かい時期の夜。新しい落ち葉や枯れ枝などは殆どなく、長い間積もっていたらしき葉の崩れた欠片を服にいっぱいくっつけて、転げ回るようにもみ合って、なんとか囓られないように腹を守る。
転がりすぎて、林道から外れ、木が立ち並ぶ辺りに突っ込んで、木の幹に強かに背中を打つ。
「⋯⋯ってぇ」
痛すぎて、予測できてなくて、息が止まりそうだ。
だがそれは醜鬼も同じだったようで、俺のパーカーを摑む手が離れ、痛みにもんどりうって転がりまわる。
が、体力や耐性の問題か、やがて立ち上がり、まだ咳が止まらない俺に躍りかかってきた。
万事休す 今度こそ、この世とおさらばか⋯⋯
ワーテルガーさん達の足下を照らす篝火も遠く、暗がりの中、宙に跳び上がった醜鬼のシルエットがオレンジ色に見える。
母さん、二度と会えない事になっただけでなく、親孝行も出来ないうちに先に死んでごめんな。かくなる上は、守護霊になってお詫びす⋯⋯
ズバッ
俺目掛けて跳び上がった醜鬼のシルエットが、縦に切り目が光り全身が左右に分かれ、更にぶ厚い布を裂くような重い音がして、横に斬撃の光が走って、4つになり、バラバラに地面に落ちる。
俺、助かった?
「セイヤ! 無事か!?」
篝火も近づいてくる。暗闇に人影が浮き上がる。
小豆色の尻尾の生えた髪が、アメジストに輝きを放ち、シルエットを作る。
走って駆けつけたのだろう、肩で息をしたエディさんだった。流れる汗も、キラキラしいイケメンぶり。
衛生一等官とか言われてたのに、回復魔法を使うお医者さんだか救急救命士だかの役割の人なのに、俺達が歯が立たなかった醜鬼を両断できる腕前もあるんだ⋯⋯
「当たり前だろ。自分の身を守れなきゃ、仲間を守れないだろうが。剣術や棍・斧・体術なんかを扱えるのは大前提だ」
「そ、それはそうですね、見くびってました。すみませ⋯⋯ワァ!?」
手にした剣を放り出して、俺に飛びかかるエディさん。
セクハラとかじゃなく、心配して、泣きそうな顔で抱きついてきた。
「マジで焦ったって! 隊長について来てたはずのセイヤの姿が消えたって、キャンプ地じゃ大騒ぎだ。醜鬼に攫われたんじゃないのか、血の臭いに寄って来た魔獣に襲われたんじゃないか。ヨナスなんか、目を離したことを自死もので後悔して半狂乱だったぞ。ルーカスもな」
「心配かけて、ごめんなさい」
「馬鹿言うな。初めての野外演習で、魔物に襲われて震える子供から目を離した大人が悪いに決まってるだろ!! 謝る必要なんかない。泣いて縋ってもいい案件だぞ」
「うん。うん。もう、みんなと会えないかと思った。⋯⋯もう、俺、の人生こ、こまでだって、お世話になっ⋯⋯人にお礼もなし、に、守護霊なるか、思っ」
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男は簡単に泣くもんじゃないと親父や祖父さんに言われてたけど、エディさんの許しも出たし、今回はいいよな。
「セイヤさん!! 目を離して申し訳ありません。まだ残党の確認も終えない内に、気を抜きすぎでした」
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泣いてるところを見られて恥ずかしくて、エディさんから離れようとする。
が。
「セイヤ。怪我はないのか? 痛いところは?」
「さっき木にぶつかって背中がちょっと痛くて呼吸出来なかったけど、エディさんからなんか温かいもの受け取ったら治った」
「ああ。俺、臨場したらいつも、自動回復かけておくから、そのオーラがセイヤにも効いたんだな。他に怪我はない?」
「うん。パーカーの下のインナーシャツは破られたけど、身体は引っ掻かれてないよ」
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肩まで捲り上げられたパーカー、引き裂かれたぼろ布のようなインナーシャツ、膝まで下げられたズボンともみ合ううちに脱げかけのズレたボクサーパンツ。
「セイヤ!!」
エディさんが悲鳴を上げる。なんなんだ? 怪我はないって言ったやん。
「ちょ、尻は無事か? ヤられてないか!? ケツ見して見ろ!! バージン奪われてな⋯⋯!!」
かなり鈍く大きな音がして、エディさんが、俺の隣に崩れ落ちる。
鞘のついたままの騎士剣を構えたルーカスさんが肩で息をしていた。
「緊急時だからと大目に見てたら、通常運転に戻ったみたいですね、この、警備隊随一の恥さらし少年少女趣味の変質者は」
ルーカスさんは容赦がなかった。
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