上 下
37 / 49
第3話 ユニークスキルは『守銭奴』です

35 光るシルエットで男前度アップ

しおりを挟む
     💉

 爪で引っ掻かれたりするなよと言われてた、いかにも不潔そうな醜鬼ゴブリンに、インナーシャツを裂かれ、腹を囓られそうになるとか、ヤバいなんてもんやないやろ!!

 まだ暖かい時期の夜。新しい落ち葉や枯れ枝などは殆どなく、長い間積もっていたらしき葉の崩れた欠片を服にいっぱいくっつけて、転げ回るようにもみ合って、なんとか囓られないように腹を守る。

 転がりすぎて、林道から外れ、木が立ち並ぶ辺りに突っ込んで、木の幹に強かに背中を打つ。

「⋯⋯ってぇ」

 痛すぎて、予測できてなくて、息が止まりそうだ。

 だがそれは醜鬼ゴブリンも同じだったようで、俺のパーカーを摑む手が離れ、痛みにもんどりうって転がりまわる。

 が、体力や耐性の問題か、やがて立ち上がり、まだ咳が止まらない俺に躍りかかってきた。

 万事休す 今度こそ、この世とおさらばか⋯⋯


 ワーテルガーさん達の足下を照らす篝火も遠く、暗がりの中、宙に跳び上がった醜鬼ゴブリンのシルエットがオレンジ色に見える。

 母さん、二度と会えない事になっただけでなく、親孝行も出来ないうちに先に死んでごめんな。かくなる上は、守護霊になってお詫びす⋯⋯

 ズバッ

 俺目掛けて跳び上がった醜鬼ゴブリンのシルエットが、縦に切り目が光り全身が左右に分かれ、更にぶ厚い布を裂くような重い音がして、横に斬撃の光が走って、4つになり、バラバラに地面に落ちる。

 俺、助かった?

「セイヤ! 無事か!?」

 篝火も近づいてくる。暗闇に人影が浮き上がる。

 小豆色の尻尾の生えた髪が、アメジストに輝きを放ち、シルエットを作る。

 走って駆けつけたのだろう、肩で息をしたエディさんだった。流れる汗も、キラキラしいイケメンぶり。

 衛生一等官とか言われてたのに、回復魔法を使うお医者さんだか救急救命士だかの役割の人なのに、俺達が歯が立たなかった醜鬼ゴブリンを両断できる腕前もあるんだ⋯⋯

「当たり前だろ。自分の身を守れなきゃ、仲間を守れないだろうが。剣術や棍・斧・体術なんかを扱えるのは大前提だ」
「そ、それはそうですね、見くびってました。すみませ⋯⋯ワァ!?」

 手にした剣を放り出して、俺に飛びかかるエディさん。

 セクハラとかじゃなく、心配して、泣きそうな顔で抱きついてきた。

「マジで焦ったって! 隊長について来てたはずのセイヤの姿が消えたって、キャンプ地じゃ大騒ぎだ。醜鬼ゴブリンに攫われたんじゃないのか、血の臭いに寄って来た魔獣に襲われたんじゃないか。ヨナスなんか、目を離したことを自死もので後悔して半狂乱だったぞ。ルーカスもな」

「心配かけて、ごめんなさい」
「馬鹿言うな。初めての野外演習で、魔物に襲われて震える子供から目を離した大人俺達が悪いに決まってるだろ!! 謝る必要なんかない。泣いて縋ってもいい案件だぞ」

「うん。うん。もう、みんなと会えないかと思った。⋯⋯もう、俺、の人生こ、こまでだって、お世話になっ⋯⋯人にお礼もなし、に、守護霊なるか、思っ」

 エディさんにしがみ付いて声を殺して泣く。

 男は簡単に泣くもんじゃないと親父オヤジ祖父じいさんに言われてたけど、エディさんの許しも出たし、今回はいいよな。

「セイヤさん!! 目を離して申し訳ありません。まだ残党の確認も終えない内に、気を抜きすぎでした」

 ヨナスさんが土下座して謝り、ルーカスさんも直角か?って角度で深く頭を下げる。

 泣いてるところを見られて恥ずかしくて、エディさんから離れようとする。

 が。

「セイヤ。怪我はないのか? 痛いところは?」
「さっき木にぶつかって背中がちょっと痛くて呼吸出来なかったけど、エディさんからなんか温かいもの受け取ったら治った」
「ああ。俺、臨場したらいつも、自動回復かけておくから、そのオーラがセイヤにも効いたんだな。他に怪我はない?」
「うん。パーカーの下のインナーシャツは破られたけど、身体は引っ掻かれてないよ」

 篝火を掲げた大柄の騎士が近づいてくると、俺の悲惨げな姿が露わになる。

 肩まで捲り上げられたパーカー、引き裂かれたぼろ布のようなインナーシャツ、膝まで下げられたズボンともみ合ううちに脱げかけのズレたボクサーパンツ。

「セイヤ!!」

 エディさんが悲鳴を上げる。なんなんだ? 怪我はないって言ったやん。

「ちょ、尻は無事か? ヤられてないか!? ケツ見して見ろ!! バージン奪われてな⋯⋯!!」

 かなり鈍く大きな音がして、エディさんが、俺の隣に崩れ落ちる。

 鞘のついたままの騎士剣を構えたルーカスさんが肩で息をしていた。

「緊急時だからと大目に見てたら、通常運転に戻ったみたいですね、この、警備隊随一の恥さらし少年少女趣味の変質者は」

 ルーカスさんは容赦がなかった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。 なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。 銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。 時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。 【概要】 主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。 現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。

めざせ魔獣博士!!~筆は剣より強し~

暇人太一
ファンタジー
転校のための学校見学中に集団転生に巻き込まれた林田壮真。 慈悲深い女神様が信徒に会う代わりに転生させてくれ、異世界で困らないようにステータスの設定もさせてくれることに。 その際、壮真は選択できる中で一番階級が低い中級職業である【魔獣学者】を選んだ。 理由は誰とも競合しそうにないということと、面白そうだからという二つ。 しかも、ユニークスキルが【魔獣図鑑】という収集モノ。 無能を演じ、七人の勇者たちを生贄にして図鑑をコンプリートするための旅を謳歌する。 そんな物語である。 魔獣ゲットだぜっ!!!

やばい男の物語

ねこたまりん
恋愛
とある国で、奇妙な古文書が発見された。 有能な魔導考古学者の分析によって、それが異世界から転移してきた遺物であることが判明すると、全世界の読書好きや異世界マニアが熱狂し、翻訳書の出版が急がれることとなった。 古文書のタイトルは、「異世物語(いせものがたり)」という。 最新鋭の魔導解読技術だけでなく、巫術による過去の読み取り技術をも駆使して再構築された物語は、果たしてどんな内容だったのか……。 +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+- レックス・ヒギンズ  監修 イルザ・サポゲニン  編著 サラ・ブラックネルブ 翻訳協力 「異世物語」第一巻   好評発売中 +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-   異世界版「伊勢物語」…のようなものです。 例によって、トンデモな古文解釈が出てるくる場合がありますが、お気になさらないようにお願いいたします。 作中の世界は、作者(ねこたまりん)の他の作品と同じです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

幸運のスニャイムと遊び人Lv.1

ピコっぴ
ファンタジー
『お前には、才能はない。悪いが、一緒には行けない』 え? わたし、棄てられた? こんな所で? ジメジメとした、スライムやスラッグがたくさんいるダンジョンの入口付近で、リーダー格の【勇者】に告げられた言葉は、みんなとのお別れだった。 そりゃ~、低級ダンジョンの第一下層、それも入口付近だし、まだ一人でも引き返せるとは思うよ? 普通の冒険者ならね。 でも、わたしは【遊び人】 それも、Lv.1・・・・・・( ̄∇ ̄) アイテムで乗り切るため、いつまでも経験値が入らない!! 生きて帰れるのかしら? そこで出会ったのが、猫型のスライムならぬスニャイム? しかもこの子、ラックが∞(無限大)! 幸運のスニャイムと、アイテムと幸運だけでソロ活動始めます⸜(*´꒳`*)⸝‬ 一話あたり1,000〜1,700文字程度でサクッと読める⋯⋯はずデス 表紙、挿し絵はすべてピコっぴ本人による手描きです。 (ミニTabletでSONYの『Sketch』使用)

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

処理中です...