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第3話 ユニークスキルは『守銭奴』です

33 詠哉攫われる──俺、囚われのヒロイン枠?

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     🤺

 嘘だろぉお!? ヤツらは実力行使に出た。というか、俺ごと、シュカちゃんを巣に持ち帰る事にしたらしい。

 シュカちゃんを抱えた俺ごと、えっほえっほと神輿のように担ぎ上げて、林の奥へと向かう醜鬼ゴブリンたち。
 不規則に揺れて、動物園の飼育小屋みたいな臭いが立ちこめて、気分悪い。
 シュカちゃんも、恐怖で畏縮してなければ吐いてたかもしれない。

 ラーガー先生やキルケが、どんどん小さくなる。ヤバい。

 こいつら、某ダークファンタジーのような、小賢しくて女を攫って巣で繁殖しちゃうヤバいヤツらで、シュカちゃんがその標的に。
 俺まで運ばれてるのはシュカちゃんを離さなかったからか、それとも、ヤツらの今夜のディナーになるのか。

「嘘嘘嘘ーっ!! 誰か助けてくれぇ!! ルーカスさぁん!! ワーテルガーさぁぁあん!!」

 俺の叫び声は、暗闇に飲まれていく。
 少し遠くから、キルケとレェーヴ君のシュカちゃんを呼ぶ叫び声が聴こえる。

 ああ、マズい、どんどん遠くなる!!



「セイヤ!! 手足を引っ込めてそのまま動くな!!」

 え? 何? 空耳? ワーテルガーさんの凛々しい声がする。
 助けを求める余りの幻聴だろうか。

 疑いつつも、言われたまま「シュカちゃん、ジッとしててね」と抱き締める手に力を入れ、足もシュカちゃんに被せるように膝を折る。

 何か光った?

 背後の遠くで一瞬何かが光ったように見えた。
 地響きと共に、林の木が、キャンプ地からこちらへ順に、十戒のモーセの海裂きみたいに薙ぎ倒されていく。

 ギッ ギャッ ギャギャーッ

 俺達を運ぶ大きめの醜鬼ゴブリンたちが、俺達を落とした。
 んじゃなくて、醜鬼ゴブリンたちの上半身と下半身が、全員泣き別れしたらしい。

 おびただしい血の臭い。

 俺達は地面に投げ出されることなく、空気の風船のようなものに包まれて宙に浮いていた。

「セイヤ、無事か!?」

 金茶の髪が、背後の警備隊員の手に持つ松明たいまつ(というより殆ど篝火かがりび)に照らされて光ってるみたいだ。
 もっと明るければ、緑っぽい青味の強いヘーゼルの瞳も見えたんだろうけど、逆光で見えない。
 けど、暗がりの中で光る髪と白いマント、白い金属の鎧は、満を持して登場するヒーローのようだった。

「わ、ワーテルガーさぁぁあん!! ほ、本当に来てくれた⋯⋯」

 俺が、女の子なら、ヒロインなら、泣きながら抱きつくシーン。

醜鬼ゴブリンが出たと聞いて、心配しましたよ」

 ワーテルガーさんの背後から、同じ白い鎧を装着したルーカスさんが歩み寄ってきて、俺達を地面に下ろすと、空気の風船を解除した。

「隊長の『一閃』は、ロングレンジで強力ですけど、物理攻撃な分、まわりを巻き込みますからね」
「ルーカスさんが守ってくださったんですか」
「自分の上司が、強力過ぎる技で知り合いを両断するのは見たくないですからね」

 爽やかな美形が、笑顔でサラッと怖いことを言う。

「瘴気や毒素を吐くかもしれん、残骸は燃やせ。
 3隊・4隊は、付近をくまなく探索、巣を探せ。これだけいるなら、絶対近くに巣があるはずだ。
 斥候隊は、近隣の村が荒らされてないか、確認してくるように。
 みんな、油断するな。必ず複数人数で行動しろ!!」

 いやぁ、マジで、俺が女の子なら惚れるシーンだね。カッコよ過ぎるぜ、ワーテルガーさん。

 ルーカスさんはヨナスさんが持って来た毛布をシュカちゃんに被せ、肩を支えてキャンプ地へゆっくりと歩き出した。
 シュカちゃんのショルダーバッグと短杖を、ヨナスさんが持ってついていく。

「本当に、ありがとうございました。このタイミングで来てくれなかったら、シュカちゃんは大変なことになってたし、俺はヤツらのディナーになってたかも」
「間に合ってよかった。君につけておいた精霊の目が戻って来て、かなり慌ててたから取るものも取りあえず、みんなで武装してきたんだが、まさか、この付近で醜鬼ゴブリンが発生するとはな」

 ワーテルガーさんは、騎士達にテキパキと指示しながら、まわりの被害状況の報告を受ける。
 被害。シュカちゃんの放った火の延焼範囲や醜鬼ゴブリンたちの遺骸の放つ臭気や瘴気、感染症の発生の可能性などに混じって、ワーテルガーさんの必殺技で予定なく伐採された林の木なども報告されていた。

「わかったわかった。斬り倒してしまった樹は、わたしが補填させる。苗木やある程度育った同じ種の樹木を手配させる。それでいいだろう」

 隊員達の笑い声も聴こえる。一段落ついて、この場に残った人達は気が緩み始めていた。




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