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第3話 ユニークスキルは『守銭奴』です

29 初めての野外実習

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     ⛺

 林の中で、チャンプ地を決める。

 水場との距離、木蔭と地面の状態、まわりの地形から、キャンプ地の選び方、天幕を張るかそのまま防水布を敷いて座るだけにするのかなどの決め方なども教えてもらう。

 今回は、位置取りや張り方の訓練も兼ねて、天幕を張る事にした。

 俺は持ってないけど、三人組のレェーヴ君が大きめのザックに持っていた。
 ラーガーさんの指導で、キルケとレェーヴ君と俺とで、天幕を張る。

 一見、括り付けるのによさげな枝も、頼りなかったり、ここ?と言うところに結んで意外にしっかり張れたり。

 けっこう勉強になったな。これだけでも楽しいし、薬草の知識も合わせて、来たかいがあった気がする。

「キャンプ地が決まったところで、食糧調達に行くぞ」

 兔とか、蛇や魚、食べられる木の実などを集めるというのだ。


 食べられる木の実はすぐに見つかる。
 グミやクワの実に似てる木の実や、リンゴに似た碧い実。イチゴにしか見えない草の実。

 飲み水を確保するための川で、魚をとる。

「釣りも楽しいだろうが、今回は野営の食糧調達が目的だからな」

 適当な細めの木の枝を銛がわりに、男3人並んで魚を狙ってみる。

 キルケは剣士志望だけに、さすがに鋭い動きで突こうとしているけど、中々突けない。

 意外に動植物の生態環境を研究したいと言っていたレェーヴ君が、生き物に詳しいからか3回に一度は魚を捕れた。

 5人分10匹とれたところで、キャンプに戻る。

 シュカちゃんは、薪に使えそうな枝を集めていた。
 けど、半分以上、ラーガーさんに捨てさせられた。

「生木は、火が点きにくく燃えにくいんだ。煙ばかり出るしな」

「それ、魔法で風が火を使って乾燥できないんですか? せっかく集めた枝なのに」
「出来ないことはないが。今回は、キャンプの演習⋯⋯いや、そうだな、やってみるか。よし、魔法の訓練にしてみようか」

 シュカちゃんは、自前の短杖ワンドを握り締めて、目を閉じ精神統一を始める。

 元々、火を点ける、風を起こす、水を出す、といった初歩的な魔法は使えるシュカちゃん。
 今回は、生木を乾燥させるために、乾いた風を起こすため、風魔法と火魔法を同時にコントロールする事に。

 生き物相手ではないので、例えミスしても大きな事にはならないだろうと、気楽にしろとラーガーさんが励ます。

 シュカちゃんの足元で、弱い風が彼女の回りをまわるように起こり、ぽつぽつと小さい火がいくつか発生する。
 魔力のせいか、風が浮かせるのか、火の熱気で上昇気流的なものがあるのか、シュカちゃんの赤みがかったオレンジ色の髪がふわりと浮いて、風にそよぐスカーフのように宙に広がる。
 明るい黄緑色の瞳をパッチリ開き、風の流れを自分のまわりから積み上げた生木の方へ変える。
 火に暖められ乾いた風が、生木を撫で、ピキパキと乾いていく。

「おおーっ。これが、魔法」

「見るのは初めてなのか?」
「いえ、ルーカスさんが精霊に伝言を運ばせたのは見ました。あと、昨日、街でひったくり犯の手首が切断されたのを、エディさんがくっつけたのも」
「再生魔法が使えるとはかなり上級者だな」
「そうなんですね。やっぱり警邏隊の衛生隊員は凄いんだな。色々スキル集めてアビリティも取得してるって言ってたし」
「そりゃあ、隊員の命かかってるから、腕を磨いてるんだろうな」

 喋っている間にも、木は乾いて、全てが薪に使えそうになった。

「せっかくだから、セイヤ君、火を点けてみるか」
「はい」

 いそいそと、ショルダーバッグから火付け石を出す。

「違うだろ、魔法で火を点けるんだよ」

 あ、そっか。んでも、どうやるの?

「え? マジで使ったことないの?」
「今までどうやって生活してたの?」
「まあまあ、そのための講習だろ」

「先ずは、魔素を取り込んで霊気と練る事から⋯⋯」
「魔素を取り込むってどうやるの? どんなもの?」
「そこからか!!」

 目を閉じて、深呼吸をして整えて、まわりに意識を広げて、とか、何かを感じて引き寄せろとか、丹田に気を溜めてとか、イマジネーションだけでどうにか出来るのか謎な訓練から始まる。

 時間がかかりそうなので、薪にシュカちゃんが火を点け、レェーヴ君が魚を串に刺して焼いていく。

 魚のいい匂いを横目に、俺だけ魔法学。

 魔素だの精霊だの霊気だの、漫画やラノベならよく聞く言葉だけど、今までの自分の身の回りで普通に見聞きするものじゃない。
 解らないなりにどうにかしようと、空手の息吹や合気道の気功のイメージを、一生懸命再現しようとしてみる。

 なんか、腹の辺りでもやもやと熱い気がしたけど、胃炎みたいなキリキリ感に、本気で吐き気がしてくる。

「おいおい、気を胃に集めちゃダメだよ。もう少し下に」

 何度かやり直したけれど、火は点かなかったし、風も起こらなかった。

「魔力は高いのにねぇ」
「俺、魔力高いの?」
「魔法士の名門貴族の出身かと思ったわ。家名もあったし」
「俺の住んでる所は、平民でも貧民でも、家名はあったんだよ」
「変なの。それじゃ、名門や栄誉名士か一般庶民か解らないじゃないか」
「数百年前なら、庶民に名字はなかったよ。改革やなんやで国民を区別や管理しやすいようになのか、全国民に家名をつけることになって、まわり田んぼのど真ん中に住んでたから田中とか、川のそばに住んでたから岸川とか、先祖が適当に名前つけた人達もいるけどな」

 文化の違いだな。戸籍に近いものはあっても、名字を名乗る習慣がないなんて。
 ヨーロッパみたいに、聖書にある昔からの名前しか使わないとか言わないだろうな。

 イチゴ(ちょっと酸っぱかった)や木の実、レェーヴ君が捕って焼いた魚を一人二尾づつ、シュカちゃんが魔法で捕まえた山鳥を捌いて細かく切って、ラーガーさんの集めた根菜やハーブをぶち込んで水炊きにしたものを食べて。
 俺の鍋も焜炉も小さいので、シュカちゃんが土魔法で竈を作り、三人が持って来たヘルメットみたいな鉄鍋を使った。

 日が暮れてから、魔法に関する講習を受ける。

 ラーガーさんの説明の後、シュカちゃんが実演してくれる。それを俺が試してみるけど魔素を取り込むとか、霊気と練り上げて魔法を発動させるとかは、寝るまで1回も出来なかった。

 くそう。いつか、俺も魔法を使ってやるからな!!




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