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第3話 ユニークスキルは『守銭奴』です

27 ファンタジーな通信手段は精霊

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 警邏隊員の朝は早い。もちろん、夜勤組の人もいるので、よけいに、夜勤明けの人と、朝一番の人とが入り交じって賑やかだ。

 兵役で入ったばかりの人は午前中は街の警邏に回り、午後から訓練をして休むというルーティンらしい。

 昨日の騒動に立ち合った人は、あの辺りを担当する中堅どころの隊員だった訳だ。

 朝食を摂ったあと、食後のお茶(レモンバームみたいなハーブティーだった)を飲みながら、ゆったりと思考する。
 いつまでもここにお世話になる訳にもいかないし、ワーテルガーさんの言う「目の届く範囲にいてもらう」がどの範囲でいつまでなのかはわからないけど、とにかく、生計を立てるための何かを考えなくちゃ。

 自由民協会ギルドに行ってみようかな。


「あ、セイヤさん、ちょうどいいところに。協会ギルドから連絡が来ています」

 ルーカスさんとヨナスさんが、呼びに来てくれた。

 ちょうど、中等教育が終わって、独り立ちするのに自由民協会ギルドに登録したばかりの子供三人の、初心者向け野外講習があるから、よければ同行するかと言うのだ。


「ありがとうございます。参加してみます。初心者の子供だと言うのなら、ちょうどいいと思いますし」
「そうですか。では、そのように返信しておきますね」

 ルーカスさんの手のひらの上に、淡く光る玉のような物が発生し、そのまま窓から外に飛んでいった。

「風の精霊に、言霊を乗せて飛ばすのですよ。手紙より確実に、より速く届きます」

 おおー、ファンタジー世界の通信手段は精霊!

 感心していると、ヨナスさんがこっそり耳打ちしてくれる。

「精霊とは相性もありますし、精霊術は才能も関わってきますから、誰にでも出来るものじゃありませんから」 

 なーんだ。俺には出来なさそうだな。

「そうですね。まずは、精霊の姿が見えないことには、友達にもなれませんし、使役するなどずっと先の話ですね」

 ルーカスさんは、王都にある街の、王族ではないけれど上位貴族の三男で、代々、優秀な騎士か魔法士を多く輩出してきた名門の出。元々魔法に才能があったのだという。

「魔法使いになろうとは思わなかったんですか?」
「わたしは、子供の頃はちょっとしたことで熱を出して寝込む弱い身体で、父はそんなわたしを鍛えようと考えたのでしょう、毎日走り込みと素振りをさせられました。
 最初は走ることすらまともに出来なかったのですが、次第に同年代の子と同じように走れるようになった所で、王宮の騎士団の元へ従騎士スクワイアとして、放り込まれました」

 その後も、魔法は独学で学び続けたけれど、主人となった騎士に心酔して、騎士団に正式に所属することにしたと言う。

「それって、ワーテルガーさん?」

 はにかむ女の子のような笑顔で答えるルーカスさん。そうか。その時の恩を、ヨナスさんを育てることで返したんだな。

「次は、ヨナスさんが立派な騎士になって、この街に恩を返すんだね」

 これまた、ヨナスさんが花が咲くような笑顔で返してくれるのが、とても眩しい。
 いいな。信念を持って、この仕事をしてるんだな。

 よし、俺も、誰かの役に立つ仕事を見つけよう。

「そのためにも、先ずは初心者講習、行ってきます!」
「お気をつけて。初心者向けですから危険はないと思いますが、どんなお仕事でも何が起こるか分からないものですから」
「ありがとうございます。危機察知能力とか養えたらいいなと思って気をつけてみますね」

 街の中で誰かのお手伝いをするのではなく、採集クエストや討伐クエストに出る時の心得などの初心者向け講習だそうで、要るかどうかわからないけど、買ったばかりの火付け石と焜炉コンロや鍋をショルダーバッグに入れる。
 思ったより嵩張らなくて、もしかして、肩からかけるのに中味が邪魔にならないように、何か不思議な処理をしてある鞄なのかも。空間拡張収納袋インベントリマジックバッグになってる財布ちゃんみたいに。まあさすがに無限に入る訳ではないだろうけど。

 迷ったけど、サンマのナイフはバッグではなく、上着の内ポケットに入れた。
 詰め襟こそないが、学ランに似たデザインにされていたので、携帯や学生手帳を入れるポケットが左の内側にあった。
 そこに差すと、ちょうど柄になる尻尾が少し出てるくらいのいいサイズだった。
 刃渡り7㎝こえると、持ち歩いてるだけで日本では銃刀法違反になるんだっけか?


 ルーカスさんと、意外にヒマなのかワーテルガーさんとに見送られながら、警邏隊の宿舎を出る。

 協会ギルドに着くと、受付カウンターの外で、俺の自由民株を発行してくれたエルフのお姐さんが待っていた。

「セイヤさん、こちらは、野営訓練と初歩的な魔法の講師をされているラーガー(野営(独)の意)氏。ラーガー。こちらは、遠い街から来られて昨日自由民株を購入されたばかりのセイヤさん。急で悪いけれど、お願いね」

 笑いそうになるのを必死で堪える。サバイバル教官がラーガー(ドイツ語で野営)とか、そこまで翻訳してくれる女神の加護ファリテール・ギフトに感謝するべきかやり過ぎと言うべきか。ぴったりすぎやろ。産まれた時からサバイバル技術を極める運命やったんか?

 笑いを堪えて少し震える俺を、武者震いしていると思ったのか

「そう緊張するな。ちょっと街の外に出て、基本的な薬草を採ってみたり、食材を探して料理して、明日帰ってくるだけだからな。町の近くへちょっとキャンプに行くくらいの感じでいい。危険なモンスターの出るところへは行かないからな」

 安心させようと、大きな声で笑って背中を叩いてくれた。

 その向こうに、俺より背の高い青年と、俺くらいの背丈の女の子と男子が立っていた。

 あれで、三人とも14~5歳なの? そりゃ俺が10~12歳だと思われるわけだ。
 背の高いやつなんか、三十前に見えるぞ? 西洋人ふうだと東洋人から見て年嵩に見えるにも程があるだろ。
 少女だって、あれなら服装によっては大学生くらいには見えるに違いない。

 男ふたりは革のザックを背負い、腰に足よりかは短いくらいの剣を佩いていた。

 女の子は、大きめのショルダーバッグを斜めに肩にかけて、昨日のエルフの少女と同じように、儀礼用短杖みたいな杖を両手で持っていた。




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