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第2話 驚きの新世界
15 ぷるぷると一緒に迎える朝
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🛌
夢を見た。親父と祖父さんが竹刀を持って、庭で俺を呼んでいる。
健全な精神は健全な肉体に宿るとかなんとか、鍛えてくれるつもりらしいが、俺はまだ寝てたいんだよ。
変な自称管理神の女神に、世界の成長を促してくれとか言われて、誘拐同然に獣人やトカゲ人間のいる世界に連れて来られてさ。
もう、身体も地球の日本人のそれじゃなくなってしもたんや。
ムスコは僅かに育ったけど、見た目は変わらん。変わらんのに、もう、そっちには戻られんのや。
今までの俺はもうおらんねん。母さんのことよろしく頼むで。
昨日、ルーカスさんに、残してきた家族のことは気になるけど、今はここで生きていかなきゃって前向きに考えるようになってるって言ったけど。
昨夜の夢は、親父や祖父さんにしごかれるいつもの奴だった。
しごかれたい訳はないから、本当はあの日常に帰りたいとか、知らない世界にひとりが寂しいとかなんやろうな。
寝起きのぼーっとした頭で、窓の外の綺麗な朝空を見て、気持ちを落ち着かせる。
空気が綺麗で美味しい。
家のある川西の山も、大阪の街中に比べたらそこまで悪くは無かったが、ここは光化学スモッグも黄砂もなく清々しい。
肺いっぱいに空気を吸い込んでも、咽せたり喉に違和感感じたりはない。
モンスターが居なかったら、母さんもこういう自然環境のいい世界で暮らせたらええのに。
俺の弟を流してしまい産めなかった事で自分を責め、元々そんなに強くなかったんやろう、家事を頑張るとすぐに貧血を起こしたり疲労が溜まると風邪ひきやすかったり、ちょっとだけ、他の人よりひ弱な事をまた責める。
そういう気持ちの持っていきようもまた、余計に弱々しくなる原因だろう。
もしかしたら、今は亡き祖母や親戚が、身体を壊した母を気遣いすぎて却って重荷になったり、陰で遠回しに責めるような噂話をしたりしたのかもしれない。
俺が、母さんを支えられるくらいしっかりしないと、家事の途中で寝込む嫁だの身体を大事にしないで子を流すうっかり者だのと言われてしまう。
俺が、長男として、たったひとりの息子として、ちゃんと親父や祖父さん、母さんの老後も面倒見られるから、弟妹が居なくても、俺ひとりでみんなを養っていくから、母さんは休ませたってくれ。
そう思って、学校の成績も落とさんよう気をつけながら部活も入らずにバイトして、お年玉や小遣いも節約して貯めてきたのになぁ。
ふと気になって、窓のすぐ横の便壺を覗いてみる。
スカベンジャースライムが中に居るから、なんとなく蓋をしないでおいた。
糞尿を吸収して分解した後、マナとやらを吐き出す種族だと、ルーカスさんは言っていたから、中で呼吸とか色んなものが循環してんのかと思うと、蓋をしたら息苦しいんちゃうんかなと思って、元は閉まっていたのになんとなく閉められなかった。
俺の尿はすっかり吸収してしもたみたいで、元の丸くてぷよぷよの水饅頭に戻っていた。
ちょっとだけ、芯の方が黄色がかってたけど。
「お前にも、名前あんの?」
少しだけふるふるしたけど、会話は出来ないようだった。
「昨日、火かき棒でつついてごめんな。スライムとか魔獣とかおらんとこから来て、共存できるモンスターが居るとか、考えたこともなかってん」
何を考えているのか、何も考えてないのか、また、少しふるふるしたけど、それだけだった。
分解吸収するものが、人間からしたらちょっとアレやけど、こうしてみたら可愛いかもな。
口に出してないのに考えが解るのか、またふるふるした。
もしかして、シンパシーとかで感情を読むとか?
分解吸収してマナを吐き出す過程でただ揺れるだけなのかもしれない。
クラゲや熱帯魚のアクアリウムとか、観葉植物みたいなもんだと思えば、愛着わくかもしれんな。
そういや、着替えとか歯ブラシとか、なんにも持ってなかったん、どうしようかな。
あっちの科学技術の物は置いてきたと言ってたからなぁ。女神の用意してくれた鞄には何が入ってんのかな。
ベッドの上に鞄の中味をさかしに振って広げてみる。
2本のタオル。元々は綿100%のとポリエステル繊維のふわもこ吸汗速乾だったが、印刷的な柄はなくなって染め物の綿100%と、これもまたリネン製の高吸水性で毛羽立ちにくいやつに変わっていた。
ティッシュペーパーは、薄くて軟らかい製紙技術がこの世界の技術にないのか、ビニール製のパッケージがダメだったのか、家から持ち出したやつも駅前で配られてたやつも入っていなかった。
筆箱やノートも。教科書は仕方ないな。
その代わり、江戸時代の矢立みたいなのが入っていた。
銅に似た金属製の筒に面相筆と付けペンみたいなのが刺さっていて、後ろの携帯灰皿みたいな部分の蓋を開けると、練りインクが詰まっていた。たぶん、墨みたいな物なんだろうな。
シャーペンと消しゴムも欲しかったけど、こっちにないもんならしゃーないか。
おやつの飴ちゃんも、ペットボトルもない。買って一口も口つけずになくなるのか⋯⋯
読みかけの文庫本も、靴下の替えも、十五の誕生日に母さんにもらった財布も、スマホもない。
タオル2本と筆記具。
無地のタオルハンカチ。
なぜこれはOKなのか解らんけどステンレス製の珈琲タンブラー。持ち手のないコップの形に蓋がついてるだけだから、見た目問題なかったんかな。ま、いいや。後で、水汲んでくるか。
でも、それだけしか入ってなかった。
「セイヤさん、起きてますか?」
控え目のノックと、扉の向こうからルーカスさんの声がした。
夢を見た。親父と祖父さんが竹刀を持って、庭で俺を呼んでいる。
健全な精神は健全な肉体に宿るとかなんとか、鍛えてくれるつもりらしいが、俺はまだ寝てたいんだよ。
変な自称管理神の女神に、世界の成長を促してくれとか言われて、誘拐同然に獣人やトカゲ人間のいる世界に連れて来られてさ。
もう、身体も地球の日本人のそれじゃなくなってしもたんや。
ムスコは僅かに育ったけど、見た目は変わらん。変わらんのに、もう、そっちには戻られんのや。
今までの俺はもうおらんねん。母さんのことよろしく頼むで。
昨日、ルーカスさんに、残してきた家族のことは気になるけど、今はここで生きていかなきゃって前向きに考えるようになってるって言ったけど。
昨夜の夢は、親父や祖父さんにしごかれるいつもの奴だった。
しごかれたい訳はないから、本当はあの日常に帰りたいとか、知らない世界にひとりが寂しいとかなんやろうな。
寝起きのぼーっとした頭で、窓の外の綺麗な朝空を見て、気持ちを落ち着かせる。
空気が綺麗で美味しい。
家のある川西の山も、大阪の街中に比べたらそこまで悪くは無かったが、ここは光化学スモッグも黄砂もなく清々しい。
肺いっぱいに空気を吸い込んでも、咽せたり喉に違和感感じたりはない。
モンスターが居なかったら、母さんもこういう自然環境のいい世界で暮らせたらええのに。
俺の弟を流してしまい産めなかった事で自分を責め、元々そんなに強くなかったんやろう、家事を頑張るとすぐに貧血を起こしたり疲労が溜まると風邪ひきやすかったり、ちょっとだけ、他の人よりひ弱な事をまた責める。
そういう気持ちの持っていきようもまた、余計に弱々しくなる原因だろう。
もしかしたら、今は亡き祖母や親戚が、身体を壊した母を気遣いすぎて却って重荷になったり、陰で遠回しに責めるような噂話をしたりしたのかもしれない。
俺が、母さんを支えられるくらいしっかりしないと、家事の途中で寝込む嫁だの身体を大事にしないで子を流すうっかり者だのと言われてしまう。
俺が、長男として、たったひとりの息子として、ちゃんと親父や祖父さん、母さんの老後も面倒見られるから、弟妹が居なくても、俺ひとりでみんなを養っていくから、母さんは休ませたってくれ。
そう思って、学校の成績も落とさんよう気をつけながら部活も入らずにバイトして、お年玉や小遣いも節約して貯めてきたのになぁ。
ふと気になって、窓のすぐ横の便壺を覗いてみる。
スカベンジャースライムが中に居るから、なんとなく蓋をしないでおいた。
糞尿を吸収して分解した後、マナとやらを吐き出す種族だと、ルーカスさんは言っていたから、中で呼吸とか色んなものが循環してんのかと思うと、蓋をしたら息苦しいんちゃうんかなと思って、元は閉まっていたのになんとなく閉められなかった。
俺の尿はすっかり吸収してしもたみたいで、元の丸くてぷよぷよの水饅頭に戻っていた。
ちょっとだけ、芯の方が黄色がかってたけど。
「お前にも、名前あんの?」
少しだけふるふるしたけど、会話は出来ないようだった。
「昨日、火かき棒でつついてごめんな。スライムとか魔獣とかおらんとこから来て、共存できるモンスターが居るとか、考えたこともなかってん」
何を考えているのか、何も考えてないのか、また、少しふるふるしたけど、それだけだった。
分解吸収するものが、人間からしたらちょっとアレやけど、こうしてみたら可愛いかもな。
口に出してないのに考えが解るのか、またふるふるした。
もしかして、シンパシーとかで感情を読むとか?
分解吸収してマナを吐き出す過程でただ揺れるだけなのかもしれない。
クラゲや熱帯魚のアクアリウムとか、観葉植物みたいなもんだと思えば、愛着わくかもしれんな。
そういや、着替えとか歯ブラシとか、なんにも持ってなかったん、どうしようかな。
あっちの科学技術の物は置いてきたと言ってたからなぁ。女神の用意してくれた鞄には何が入ってんのかな。
ベッドの上に鞄の中味をさかしに振って広げてみる。
2本のタオル。元々は綿100%のとポリエステル繊維のふわもこ吸汗速乾だったが、印刷的な柄はなくなって染め物の綿100%と、これもまたリネン製の高吸水性で毛羽立ちにくいやつに変わっていた。
ティッシュペーパーは、薄くて軟らかい製紙技術がこの世界の技術にないのか、ビニール製のパッケージがダメだったのか、家から持ち出したやつも駅前で配られてたやつも入っていなかった。
筆箱やノートも。教科書は仕方ないな。
その代わり、江戸時代の矢立みたいなのが入っていた。
銅に似た金属製の筒に面相筆と付けペンみたいなのが刺さっていて、後ろの携帯灰皿みたいな部分の蓋を開けると、練りインクが詰まっていた。たぶん、墨みたいな物なんだろうな。
シャーペンと消しゴムも欲しかったけど、こっちにないもんならしゃーないか。
おやつの飴ちゃんも、ペットボトルもない。買って一口も口つけずになくなるのか⋯⋯
読みかけの文庫本も、靴下の替えも、十五の誕生日に母さんにもらった財布も、スマホもない。
タオル2本と筆記具。
無地のタオルハンカチ。
なぜこれはOKなのか解らんけどステンレス製の珈琲タンブラー。持ち手のないコップの形に蓋がついてるだけだから、見た目問題なかったんかな。ま、いいや。後で、水汲んでくるか。
でも、それだけしか入ってなかった。
「セイヤさん、起きてますか?」
控え目のノックと、扉の向こうからルーカスさんの声がした。
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