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第2話 驚きの新世界
8 身分証明
しおりを挟む城門警備隊の隊長さんは、他の兵士達と違って、騎士爵を持った身分ある人だった。
「わたしは、この街の警備隊第一師団隊長の、フリードリッヒ・アーロイセウス・ワーテルガー。国防司令軍の少将で正騎士でもある」
⋯⋯なんでかな? 翻訳機能は好調だと思ったんだけど。頭の中で、この世界の言葉から日本語以外に、ドイツ語の意味を二重翻訳するぞ?
俺の中で、騎士と言えば十字軍やドイツ騎士団がイメージだから、深層意識でそういう意味合いの名前なのかなと思ったんかな。
異世界に来てまで世界史Bか。
「え、と、僕は、あ、わたしは、常磐詠哉。常磐が家名で、詠哉が名前です。ワーテルガーさんと名前の並びの順が違うのは、俺⋯⋯わたしの国の習慣です。氏族の家名が先に出て、個人名はひとつだけです。洗礼名とか、ミドルネームはありません」
「そうか。では、トキワと呼ぶ方がよいか? セイヤと呼ぶ方が?」
「この国の習慣の通りで呼んでくださってけっこうです」
「なら、セイヤと呼ばせてもらう。家名よりも個人の名を尊重する習わしだからな」
西洋人も、個人主義(といったら一部の人には利己主義と勘違いで同一視されて聞き覚え悪いかな?)で、社会の権威ではなく、共同体、民族、家族の中にあっても個人の自由と権利を尊重し、個人の尊厳を重要視する考えが強いよな。
ここもそうなのかな。
「先ほどの話を確認させてもらうが、ヒョウゴ国のカワニシ出身、両親も親戚縁者も居ない、17歳の、トキワセイヤ。家名はトキワでいいんだな?」
「あ、兵庫は国の名前じゃありません。国名は日本、日ノ本って意味です。日出ずる国とか神津国とか言ってましたが、今は、日本の兵庫県川西市。県は連邦国の中にある領邦みたいなもので、市は都市の事です」
「ヒノモトもカミツもニホンも聞いたことないな。やはり遠い土地のようだな」
そりゃあもう。異世界ですから。
トランプほどの大きさのプラチナプレート。に見える金属製のカードを棚から出して来て、銅版画を作るように何かを刻み込んでいく。
「誕生日は?」
ここの暦ってどんなふうなんやろか。月も12ヶ月なんか? ひと月30日は同じなのか? そもそも、一日24時間なのか?
更には、太陽の周りを自転公転する星なのか? 平面の土地に天が動くメルヘンな世界じゃないだろうな?
「あ、凄い偶然ですね、今日なんです」
そう。新生・常磐詠哉は、今日生まれたばかり。
「そうか。暑い時期に生まれた者は健康で強い身体を持つというから、希望を持って生きていけ」
励ましてくれてんのかな。両親は死んだ事になってるから(二度と会えないのは本当だし)。いい人じゃん。
プレートの両面に、キリル文字とギリシア文字とルーン文字を混ぜたような形状の文字が並んでいる。
一瞬は記号かよと思ったが、文字なんだよなと認識した途端、意味が解るようになる。
自動翻訳機能凄ぇ、文字にも効くのか。
そこには、
トキワ(氏)・セイヤ(名)
ソール暦768年・火飈の月・三の星・四の日 生まれ(17歳)
ニホン国ヒョウゴケンカワニシシ出身
とあった。うーん。ま、いっか。嘘ではない。
誕生日の日付は、今日をここの暦にしたものなんだろう。
「普通は、こんなに簡単には、身分証は発行はしないんだが、君には女神の加護があるし、真偽の精霊魔法をかけても虚偽の反応はない事から、申告内容を信用しての特別処置だ。このことは、あちこちでは触れ回るな」
「その、真偽の精霊魔法って、正確なんですか?」
「そうだ。仮に、わたしの精霊力より、君の虚偽を真実に誤認させる力が勝っていたとして、その誤認させる力と女神の加護は両立しない。偽りの存在に女神の加護は授けられないものだからな」
なるほど。悪者に、神さまの加護は与えられないと。そりゃそうか。
「出自は判ったが、職業はなんだ?」
「⋯⋯学生でしたが、家族をなくして拠り所はなくなったので、働く場所を探すつもりで歩いていました。女神さんの言うには、国籍も人種も不問の派遣業があると⋯⋯」
「女神に会ったのか!?」
「あ、しまった。⋯⋯やっぱり怪しいですよね」
苦笑いをしながら、頭をかく。
「いや、徳の高い聖職者や神の愛し子などは、交信する力を持っていると言うから、有り得なくはない」
「まあ、自称『管理神』で、姿も光るほわほわした実体のないものでしたし、化かされたのかもしれませ⋯⋯」
「聖典にある通りだ。人間にはその姿は直接見ることの出来ない、高次元のエネルギー体だと言われている。
加護を授かっただけでなく、会話出来たのなら、愛し子の可能性もあるのだな。ふむ。やはり、それも、他では口にするな」
「頭おかしい人と思われるか、悪いやつに利用されますかね?」
「そうだ。君自身がどうこうではなく、君を旗頭に悪事に巻き込まれたり、加護の力を悪用される可能性はある。鑑定単眼鏡で視ても、女神の加護は間違いないし、能力値の詳細が見えないのも、加護の力だろう」
ワーテルガーさんは、ツカツカと寄って来て、俺の肩を摑む。
「出来るなら、国防指令軍や警備隊で活躍して欲しいが、強要は出来ない。神の愛し子は自由なものだからな。自由民を希望するのなら、明日、協会の方へ案内するから、今日は休みなさい。色々あって疲れただろう」
威圧的な鎧姿とは裏腹に、気配りの、善い人ワーテルガーさんに連れられて、街の宿屋が建ち並ぶ地区へ向かうことになった。
俺の新人生、中々のラッキーな滑り出しじゃね?
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