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第1話 女神のやらかしと落とし前
3 消えた制服と着衣の素材
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👖
──雀が鳴いてる? 四十雀やメジロもおるんかな⋯⋯
夢やったんかな?
キツ過ぎない陽射しに微睡みが気持ちよく、爽やかな風が俺の前髪を揺らす。
これが、朝ちゅんか⋯⋯(たぶん違う)
程よく温かくて、もう少しこのまま⋯⋯
「て、そうやないやろ!! どないなったんや!?」
ガバッと飛び起きて、胸や腹、腿を叩くように触って確かめ、腕を上げて視認する。
間違いなく俺の腕。子供の頃の傷痕が微かに白く浮いてる。
着てたパーカーはそのままで、制服の上着はない。ズボンも制服のそれではなく、上下とも、ちょっと厚手の麻混素材のガウンのようなロングジャケットと、ワイドパンツとゆったり目のブーツカットの、中間的なシルエットのパンツに変わっていた。
どちらも明るめの甘栗色だ。汚れが目立たなくていいような、砂埃は却って目立つような⋯⋯
よく見たら、パーカーも、綿とポリエステル繊維が半々の普通のやつだったのに、少し手触りが変わっていた。
立ち上がってみる。あんなに全身に痛みが襲ったのも嘘のように身体が軽く、ちょっと寝起きの力の入らない感じや熱が出た後のふわふわとした感じに似た怠さはあるけれど、だいたいはいつも通りに動く。
「ハッピーバースデー俺?」
≪そうです。あなたは、この世界に馴染む身体に生まれ変わりました≫
頭の中に直接、女神の声が聴こえたけれど、あの女神像も光の塊も見えなかった。
≪すでに、私の世界にお連れしています。管理神として、みだりに姿を現す訳には参りませんので、声だけで失礼しますね≫
もう、ここは女神の管理する世界なんか。
風が、波打って靡く背の高い草で見て取れ、少し離れた位置に雑木林が見える。
こうしてみたら、本当に普通の草原地帯にしか見えない。
以前スマホの画像検索で見た霧ヶ峰やスイスアルプスの、夏山の写真にも似ている。
俺は、風渡る大草原のど真ん中に寝ていたらしい。
≪動植物も、あなたの居た世界のものとそう大きく変わるものではありません。ただ、栄養価や毒性は違うかも知れませんが≫
「毒性⋯⋯ 俺の世界で普通に食えたリンゴとか見つけて食ったら腹壊すとか、コロリと逝ってまうとかあるんか?」
≪物によっては、あるかもしれません。あなたの知識とこちらの常識にズレがあるのは否めませんので、危険察知能力は授けておきます≫
そこはフォローしてくれるらしい。ま、当然やな。
子供の時分からこの世界にいて、親や保護者に見守られながら育つ上で身につけるこの世界の常識が、俺にはない。
多少の危険察知能力の補正は必要だろう。
≪この世界に存在しない、科学技術の持ち物は、申し訳ありませんが、勝手に処分させていただきました≫
「残念やけど、しゃーないな。いわゆるオーパーツというやつになるやろし、壊れたり不要になって捨てても自然に還らんやろから、ここの環境に悪いやろしな」
≪ご理解頂けて感謝します。制服と運動靴と鞄は、学校の教室に戻しておきました。お連れした道にそのまま残すことも考えたのですが、盗難にあうかもしれませんし、教室なら誰かが届けてくださるでしょう≫
そのまま、行方不明、家出、なんかの扱いになるんやろなぁ。
母さん、心労で倒れたりしなければいいけど。
≪その点についてはこちらの不手際で申し訳ありません。
合成繊維のお召し物も、天然素材の物と替えて、ショルダーバッグも同じ型で苧麻の物を。チャックはまだこの世界にはない技術なのでご容赦を≫
チョマってなんや?と思ったら、麻繊維のひとつで、麻は一種類だけじゃないことを教えられた。
肌触りよくサラッと柔らかめなのが亜麻(リネン)で、洗濯や汚れに強くホテルの寝具やテーブルクロスなんかに使われるやつ。
ちょっとゴワッとするし人によってはチクチクするのが苧麻(ラミー)で、天然繊維の中でも最も丈夫で光沢がよい。
豆知識もつけてもらって、亜麻は涼しい地方で育つ一年草。連作は出来ないのでちょっと高級品。生成り色で濃い色は染めにくいらしい。
苧麻は暖かい土地でよく育つ多年草で、温帯で年2~3回、熱帯で4~6回収穫できる庶民の味方。白くて絹に似た光沢がある。
どちらも丈夫で、濡れるとなお繊維が強くなるので、洗濯にも耐える上、吸湿・通気性よく汗を吸って放湿するので気化熱を奪ってひんやりと感じ夏は涼しく、繊維の中に空洞があって、体温で暖まった空気を溜めて保温性があるので冬は温かく、天然の抗菌作用もあって重宝する素材らしい。知らんかった。万能やん。
東南アジアの衣装が、ちょっと硬い生地でシルクに似た光沢で通気性よく原色なんは、この、苧麻(ラミー)なんかな?
大麻も、下駄の芯、畳の経糸、漁縄、荷縄、苧麻より弱いけどシャリ感があって涼しいから衣類に、麻の実を食用に、葉は薬用にと、昔から衣食住に馴染みのある植物だった。元々日本では、麻繊維といったら、昔はこの大麻だったらしい。今は亜麻(リネン)だが。
繊維としては、引っ張りに対する強度は8倍耐久性で4倍も、綿より強いものなのだそうだけど、薬物取締法のせいでもしかしたら絶滅危惧種になってるかも。種子の状態で夏を越すと発芽率が悪くなるらしいので、種の保存も出来ないとなるとかなり厳しいし、大麻農家も戦後は殆ど残ってないからなぁ。
なんて、今更どうでもいいことをしみじみ考えていると、女神から、俺にとって大事な事を「そう言えば」くらいにサラッと言われ、そしてそれを俺にはどうすることも出来ない事に、動揺した。
──雀が鳴いてる? 四十雀やメジロもおるんかな⋯⋯
夢やったんかな?
キツ過ぎない陽射しに微睡みが気持ちよく、爽やかな風が俺の前髪を揺らす。
これが、朝ちゅんか⋯⋯(たぶん違う)
程よく温かくて、もう少しこのまま⋯⋯
「て、そうやないやろ!! どないなったんや!?」
ガバッと飛び起きて、胸や腹、腿を叩くように触って確かめ、腕を上げて視認する。
間違いなく俺の腕。子供の頃の傷痕が微かに白く浮いてる。
着てたパーカーはそのままで、制服の上着はない。ズボンも制服のそれではなく、上下とも、ちょっと厚手の麻混素材のガウンのようなロングジャケットと、ワイドパンツとゆったり目のブーツカットの、中間的なシルエットのパンツに変わっていた。
どちらも明るめの甘栗色だ。汚れが目立たなくていいような、砂埃は却って目立つような⋯⋯
よく見たら、パーカーも、綿とポリエステル繊維が半々の普通のやつだったのに、少し手触りが変わっていた。
立ち上がってみる。あんなに全身に痛みが襲ったのも嘘のように身体が軽く、ちょっと寝起きの力の入らない感じや熱が出た後のふわふわとした感じに似た怠さはあるけれど、だいたいはいつも通りに動く。
「ハッピーバースデー俺?」
≪そうです。あなたは、この世界に馴染む身体に生まれ変わりました≫
頭の中に直接、女神の声が聴こえたけれど、あの女神像も光の塊も見えなかった。
≪すでに、私の世界にお連れしています。管理神として、みだりに姿を現す訳には参りませんので、声だけで失礼しますね≫
もう、ここは女神の管理する世界なんか。
風が、波打って靡く背の高い草で見て取れ、少し離れた位置に雑木林が見える。
こうしてみたら、本当に普通の草原地帯にしか見えない。
以前スマホの画像検索で見た霧ヶ峰やスイスアルプスの、夏山の写真にも似ている。
俺は、風渡る大草原のど真ん中に寝ていたらしい。
≪動植物も、あなたの居た世界のものとそう大きく変わるものではありません。ただ、栄養価や毒性は違うかも知れませんが≫
「毒性⋯⋯ 俺の世界で普通に食えたリンゴとか見つけて食ったら腹壊すとか、コロリと逝ってまうとかあるんか?」
≪物によっては、あるかもしれません。あなたの知識とこちらの常識にズレがあるのは否めませんので、危険察知能力は授けておきます≫
そこはフォローしてくれるらしい。ま、当然やな。
子供の時分からこの世界にいて、親や保護者に見守られながら育つ上で身につけるこの世界の常識が、俺にはない。
多少の危険察知能力の補正は必要だろう。
≪この世界に存在しない、科学技術の持ち物は、申し訳ありませんが、勝手に処分させていただきました≫
「残念やけど、しゃーないな。いわゆるオーパーツというやつになるやろし、壊れたり不要になって捨てても自然に還らんやろから、ここの環境に悪いやろしな」
≪ご理解頂けて感謝します。制服と運動靴と鞄は、学校の教室に戻しておきました。お連れした道にそのまま残すことも考えたのですが、盗難にあうかもしれませんし、教室なら誰かが届けてくださるでしょう≫
そのまま、行方不明、家出、なんかの扱いになるんやろなぁ。
母さん、心労で倒れたりしなければいいけど。
≪その点についてはこちらの不手際で申し訳ありません。
合成繊維のお召し物も、天然素材の物と替えて、ショルダーバッグも同じ型で苧麻の物を。チャックはまだこの世界にはない技術なのでご容赦を≫
チョマってなんや?と思ったら、麻繊維のひとつで、麻は一種類だけじゃないことを教えられた。
肌触りよくサラッと柔らかめなのが亜麻(リネン)で、洗濯や汚れに強くホテルの寝具やテーブルクロスなんかに使われるやつ。
ちょっとゴワッとするし人によってはチクチクするのが苧麻(ラミー)で、天然繊維の中でも最も丈夫で光沢がよい。
豆知識もつけてもらって、亜麻は涼しい地方で育つ一年草。連作は出来ないのでちょっと高級品。生成り色で濃い色は染めにくいらしい。
苧麻は暖かい土地でよく育つ多年草で、温帯で年2~3回、熱帯で4~6回収穫できる庶民の味方。白くて絹に似た光沢がある。
どちらも丈夫で、濡れるとなお繊維が強くなるので、洗濯にも耐える上、吸湿・通気性よく汗を吸って放湿するので気化熱を奪ってひんやりと感じ夏は涼しく、繊維の中に空洞があって、体温で暖まった空気を溜めて保温性があるので冬は温かく、天然の抗菌作用もあって重宝する素材らしい。知らんかった。万能やん。
東南アジアの衣装が、ちょっと硬い生地でシルクに似た光沢で通気性よく原色なんは、この、苧麻(ラミー)なんかな?
大麻も、下駄の芯、畳の経糸、漁縄、荷縄、苧麻より弱いけどシャリ感があって涼しいから衣類に、麻の実を食用に、葉は薬用にと、昔から衣食住に馴染みのある植物だった。元々日本では、麻繊維といったら、昔はこの大麻だったらしい。今は亜麻(リネン)だが。
繊維としては、引っ張りに対する強度は8倍耐久性で4倍も、綿より強いものなのだそうだけど、薬物取締法のせいでもしかしたら絶滅危惧種になってるかも。種子の状態で夏を越すと発芽率が悪くなるらしいので、種の保存も出来ないとなるとかなり厳しいし、大麻農家も戦後は殆ど残ってないからなぁ。
なんて、今更どうでもいいことをしみじみ考えていると、女神から、俺にとって大事な事を「そう言えば」くらいにサラッと言われ、そしてそれを俺にはどうすることも出来ない事に、動揺した。
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