34 / 45
オウジサマってなんだ?
33.早く切り上げたくて挙動不審な公爵さまと懐っこい宰相さま
しおりを挟む「その罪人は?」
「今は、まだ騎士団の仮留置場に籠めてあるが、収容所に収監手続きさせているので、すぐにでも移動させる予定だが?」
ハーブティーを追加で淹れながら、早く話を切る糸口を探すが見つからない。
「しかし、保護した少女を数日で手籠めにとは、随分短絡的な行動だね?」
「元々そういう人物な訳ではないらしい。本人いわく、なぜかそうするのが一番いいと感じたそうだ。前後の様子と話を聞くに、どうも妖魔か魔族に感情へ干渉されたらしい」
「らしい、らしい、らしい。
本当に、クィルフらしくないね?」
背はサルティヴァルスの方が幾分高いが、ソファに座っているため、立って茶を淹れているルーシェンフェルドの顔を効果的に上目遣いで覗き込む。
「調書を取ったばかりでまだ検証が済んでいない。オウルヴィに手配させているから、近日中にでも、緑風の森の魔獣や妖魔の調査をする。
私の霊力に隠れているモノはいるだろうが、一般の霊力・魔力が高いが防禦が出来ていない者を見つけると出て来るのなら、立ち入り制限や妖魔の駆逐など対策をとらねばならんからな」
「そうだね。クィルフだから姿を見せないが、一般人や、血気にはやる自由民や何でも屋が魔力を抑えず立ち入って襲われる可能性があるなら、何か手を打つべきだね」
飲みきった茶器を受け取り、ルーシェンフェルドはタイミングを見つけた。
「そういうわけで、私は、しばらく今以上に忙しくなる。サルティヴァルス・キルスティン・ファル・ルッシェンディア・アガード子爵殿も宰相故に私よりも忙しかろう、このま……」
「キルスティンって呼んでくれないのかい? 昔みたいに、兄と呼んでくれてもいいんだよ?」
ルーシェンフェルドより少しだけ高い背で、後ろから耳元で話しかける。
「何十年前の話だ! 呼ばぬわ。私を幾つだと思っているのだ」
「私よりも20歳は若いことは確かだね。こ~んな小さい頃は、兄上って呼んで後ろをついてきて可愛かったのに」
「私のきょうだいは妹のルーティーシア・マリヴァ・ルッシェンリールのみ、兄などおらぬ」
肩に添えられたサルティヴァルスの手を払い、洗浄の魔術で茶器を清め、元あったと思われる戸棚に綺麗に収めると、更に話を進められない内に出口に向かう。
「ああ、宰相殿、この後、この扉の外で聴き耳をたてている行儀の悪い女官3人は、再教育するがよかろう。
宰相と国防長官の機密談話を盗み聞きしようとは、躾け以前の問題ではないか?」
ルーシェンフェルドが扉を開けると、先程の姦しい女官3人が全身を軽く痺れされて座り込んでいた。
御茶を淹れる時点で、ドアの外の3人が立ち去らないので、体の自由を奪っておいたのだ。
本当のところは、3人とも機密談話の内容には興味などなく、ただ純粋に二人の声を聴きたかっただけであるが、そんな女性の心境はルーシェンフェルドには思い当たらない。
「う~ん、多分、クィルフのファンの子だと思うけど。機密に関心あった訳じゃなくて、クィルフの話し声を聴きたいだけ……」
「談話の内容は機密事項だと申し渡していたのに、聴き耳をたてようとするなら、それは、事実はどうあれ罰せられるべきでは?」
もしもっと深い国家機密を話していたとしたら、それを盗みぎぎしたのなら、お小言では済まされない事態だ。
さすがに、サルティヴァルスもそれ以上は庇いきれない。
「もっともだね。仕方ない。この3人は、親元に帰すよ。その前に、ここで聞いた事を誰にも漏らさないと誓約して貰って、何らかのペナルティを負って貰わないとね」
にっこり微笑む姿は、愛想の良いお綺麗な貴族青年そのものだったが、声が氷のように冷たかった。
女官3人は、動かせない体を震わせて、己のしでかした行為に後悔した。
0
お気に入りに追加
367
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜
華梨ふらわー
恋愛
第二王子との婚約を破棄されてしまった主人公・グレイス。しかし婚約破棄された瞬間、自分が乙女ゲーム『どきどきプリンセスッ!2』の世界に悪役令嬢として転生したことに気付く。婚約破棄に怒り狂った父親に絶縁され、貧乏診療所の医師との結婚させられることに。
日本では主婦のヒエラルキーにおいて上位に位置する『医者の嫁』。意外に悪くない追放先……と思いきや、貧乏すぎて患者より先に診療所が倒れそう。現代医学の知識でチートするのが王道だが、前世も現世でも医療知識は皆無。仕方ないので前世、大好きだったおばあちゃんが教えてくれた知恵で診療所を立て直す!次第に周囲から尊敬され、悪役令嬢から大聖女として崇められるように。
しかし婚約者の医者はなぜか結婚を頑なに拒む。診療所は立て直せそうですが、『医者の嫁』ハッピーセレブライフ計画は全く進捗しないんですが…。
続編『悪役令嬢、モフモフ温泉をおばあちゃんの知恵で立て直したら王妃にジョブチェン?! 〜やっぱり『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件~』を6月15日から連載スタートしました。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/500576978/161276574
完結しているのですが、【キースのメモ】を追記しております。
おばあちゃんの知恵やレシピをまとめたものになります。
合わせてお楽しみいただければと思います。
前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!
鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……!
前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。
正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。
そして、気づけば違う世界に転生!
けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ!
私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……?
前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー!
※第15回恋愛大賞にエントリーしてます!
開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです!
よろしくお願いします!!
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました
山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。
でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。
そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。
長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。
脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、
「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」
「なりすましヒロインの娘」
と同じ世界です。
このお話は小説家になろうにも投稿しています
10日後に婚約破棄される公爵令嬢
雨野六月(旧アカウント)
恋愛
公爵令嬢ミシェル・ローレンは、婚約者である第三王子が「卒業パーティでミシェルとの婚約を破棄するつもりだ」と話しているのを聞いてしまう。
「そんな目に遭わされてたまるもんですか。なんとかパーティまでに手を打って、婚約破棄を阻止してみせるわ!」「まあ頑張れよ。それはそれとして、課題はちゃんとやってきたんだろうな? ミシェル・ローレン」「先生ったら、今それどころじゃないって分からないの? どうしても提出してほしいなら先生も協力してちょうだい」
これは公爵令嬢ミシェル・ローレンが婚約破棄を阻止するために(なぜか学院教師エドガーを巻き込みながら)奮闘した10日間の備忘録である。
【完結】「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」
まほりろ
恋愛
【完結】
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
他サイトにもアップしています。
小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位!
pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。
2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
第15回恋愛小説大賞にエントリーしてます。
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる