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オウジサマってなんだ?

33.早く切り上げたくて挙動不審な公爵さまと懐っこい宰相さま

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「その罪人は?」
「今は、まだ騎士団の仮留置場に籠めてあるが、収容所に収監手続きさせているので、すぐにでも移動させる予定だが?」
 ハーブティーを追加で淹れながら、早く話を切る糸口を探すが見つからない。

「しかし、保護した少女を数日で手籠めにとは、随分短絡的な行動だね?」
「元々そういう人物な訳ではないらしい。本人いわく、なぜかそうするのが一番いいと感じたそうだ。前後の様子と話を聞くに、どうも妖魔か魔族に感情へ干渉されたらしい」
「らしい、らしい、らしい。
 本当に、クィルフらしくないね?」
 背はサルティヴァルスの方が幾分高いが、ソファに座っているため、立って茶を淹れているルーシェンフェルドの顔を効果的に上目遣いで覗き込む。

「調書を取ったばかりでまだ検証が済んでいない。オウルヴィに手配させているから、近日中にでも、緑風の森の魔獣や妖魔の調査をする。
 私の霊力に隠れているモノはいるだろうが、一般の霊力・魔力が高いが防禦が出来ていない者を見つけると出て来るのなら、立ち入り制限や妖魔の駆逐など対策をとらねばならんからな」
「そうだね。クィルフだから姿を見せないが、一般人や、血気にはやる自由民や何でも屋が魔力を抑えず立ち入って襲われる可能性があるなら、何か手を打つべきだね」
 飲みきった茶器を受け取り、ルーシェンフェルドはタイミングを見つけた。

「そういうわけで、私は、しばらく今以上に忙しくなる。サルティヴァルス・キルスティン・ファル・ルッシェンディア・アガード子爵殿も宰相故に私よりも忙しかろう、このま……」
「キルスティンって呼んでくれないのかい? 昔みたいに、兄と呼んでくれてもいいんだよ?」
 ルーシェンフェルドより少しだけ高い背で、後ろから耳元で話しかける。

「何十年前の話だ! 呼ばぬわ。私を幾つだと思っているのだ」
「私よりも20歳は若いことは確かだね。こ~んな小さい頃は、兄上って呼んで後ろをついてきて可愛かったのに」
「私のきょうだいは妹のルーティーシア・マリヴァ・ルッシェンリールのみ、兄などおらぬ」
 肩に添えられたサルティヴァルスの手を払い、洗浄ウォッシュの魔術で茶器を清め、元あったと思われる戸棚に綺麗に収めると、更に話を進められない内に出口に向かう。

「ああ、宰相殿、この後、この扉の外で聴き耳をたてている行儀の悪い女官3人は、再教育するがよかろう。
 宰相と国防長官の機密談話を盗み聞きしようとは、躾け以前の問題ではないか?」
 ルーシェンフェルドが扉を開けると、先程の姦しい女官3人が全身を軽く痺れされて座り込んでいた。
 御茶を淹れる時点で、ドアの外の3人が立ち去らないので、体の自由を奪っておいたのだ。
 本当のところは、3人とも機密談話の内容には興味などなく、ただ純粋に二人の声を聴きたかっただけであるが、そんな女性の心境はルーシェンフェルドには思い当たらない。

「う~ん、多分、クィルフのファンの子だと思うけど。機密に関心あった訳じゃなくて、クィルフの話し声を聴きたいだけ……」
「談話の内容は機密事項だと申し渡していたのに、聴き耳をたてようとするなら、それは、事実はどうあれ罰せられるべきでは?」
 もしもっと深い国家機密を話していたとしたら、それを盗みぎぎしたのなら、お小言では済まされない事態だ。
 さすがに、サルティヴァルスもそれ以上は庇いきれない。

「もっともだね。仕方ない。この3人は、親元に帰すよ。その前に、ここで聞いた事を誰にも漏らさないと誓約して貰って、何らかのペナルティを負って貰わないとね」
 にっこり微笑む姿は、愛想の良いお綺麗な貴族青年そのものだったが、声が氷のように冷たかった。

 女官3人は、動かせない体を震わせて、己のしでかした行為に後悔した。
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