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オウジサマってなんだ?
34.お兄ちゃんの言う事をききなさい?
しおりを挟む女官3人を、城内警護の近衛隊所属の女性騎士に任せて、ひんやりとした空気の漂う石造りの廊下を王城の東棟へと進んでいく。
国防総省の最高長官であり、魔道省の長であり、5大公爵家の当主でもあるルーシェンフェルドが不在のため開始時刻を送らせていた、王宮朝議の為である。
能率よく働くのは午前中が良いとされるので、朝一番に、国王の1日のスケジュールの確認と調整も兼ねて、貴族院の面々と、代理人も含め各領地の管理者と、近衛隊と王都騎士団の幹部武官、政治経済を動かす文官と商工会の幹部などが集まるのだが、今日はその月2回の、すべてのメンバーが参加する日でもあった。
「クィルフ」
「宰相、人目のあるところでは愛名で呼ぶなとあれほど……」
「わかった、今夜はサシでじっくり話そうか。二人きりなら愛名で呼ばせて貰えるんだね? ふふふ、覚悟して? 朝まで寝かせないよ」
今にも鼻歌でも始めそうなほど楽しそうに応えるサルティヴァルスに、一種殺意にも似た怒りを感じたが、いつもの軽口なのだろうと取り合わないように努める。
「これが、歴代宰相にも引けをとらぬ切れ者と評判の、強面宰相の姿だと何人が知っているのやら」
会議室の扉が見えて来たが、敢えて足を止める。
「で、本題はなんだ?」
会議室に着くまでに聞いておいた方がいいことだと判断したためだ。
「ん~、たいした事じゃないといいけど、一応、昨夜の捕り物に関しては、今日の朝議で詳細の報告はしなくていいんじゃないかな?」
「しかし、これから調査をしていくのに、騎士や兵士、魔道士だって動かす事になるのだ。
何もないのに急に理由もなく調査するなど、誰をも納得させられぬではないか」
「だが、クィルフが居るから緑風の森は清らかな森になったという【安心】が通っているんだよ?
それが、魔力を食う妖魔や魔獣が徘徊しているとなったら、人々は不安になるし、クィルフの信用も落ちる。
まだまだクィルフには、強大で立派な魔道王でいてもらわないとね?」
「だが、危険があるのなら、隠すべきではない」
「事後報告でいいよ。取り敢えず、定期的に生態系を調べるって事にして、調査結果だけを報告すればいい」
サルティヴァルスの言葉に賛同しかねるのか、生真面目さを発揮して、ルーシェンフェルドは唸る。
「う……む……。しかし、それでは、調査完了まで立ち入り制限をかけるのに、理由としては弱くないのか?」
「まあ、なんとかなるでしょ。魔道省の長が、元は魔の森だったのを緑風の森となったからと言って、安寧に胡坐をかくのは怠惰で危険だとかなんとか理由は適当にいくらでもつければいいから」
「しかし……」
まだサルティヴァルスの言葉に納得のいかないルーシェンフェルドは言葉を繋げようとする。
が、年上の余裕を見せる笑顔で制し、変わってキリッとした表情で指示する。
「本当に、吸精系の、こちらへの干渉力の強い妖魔や魔族が居るのなら、調査と駆除は必要だ。
すみっこの埃をつつくような阿呆な小貴族達を黙らせるのは、宰相さまである私の仕事。
そして、領民、国民を脅威から守るのが、クィルフの仕事。
お互いの領分で、責務を分け合って助け合っていこうじゃないの?」
にっこり笑って、ルーシェンフェルドの肩をポンポンはたき、先に会議室の扉を開けて踏み入る。
言われてみれば、まだ居ると決まった訳でもないのに、強い魔物が居ると伝えていたずらに人々を怯えさせる事もない。
駆逐後に報告、或いは生態系を調査した結果、やはり通常の野生動物(魔獣を含む)への警戒程度で良かったという報告をするだけで、詳細に下々まで伝える必要はないのかも知れない。
それに、ジュードの事を詳細に報告すると言う事は、ヴァニラが未遂とは言え、男に襲われた娘であるという事まで公表しなくてはならなくなる。
(もしかしたら、キルスティン・ファル・ルッシェンディアは、ヴァニラの名誉こそを憂慮しているのかもしれぬな)
子供の頃憧れた【兄上】の背を憧憬の眼で見つめ、自分も会議室へ足を踏み入れた。
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