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オウジサマってなんだ?

32.女は姦しいもの? 可愛いもの?

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 オウルヴィもクルルクヴェートリンブルクも連れず、城内を歩いていると、人目が煩くてあまり好きでないが仕方ない。
 未婚の上級貴族の当主と言うだけで、同じく未婚の、貴族令嬢達や、女官達がチラチラと見るのだ。
 勿論、好意的に見ているわけだが、ルーシェンフェルドにはどうでもいい事で、ただ視線が集まるのが煩わしいだけだった。
 仕事を熟しながら領地管理と血族の事業の運用などもみている身には家庭を持つ余裕がなく、また、無理に嫁取りをして顧みない真似はしたくなかった。
 言い訳として、妹のルーティーシアが、ルーシェンフェルドからみても安心できる信頼のある人物に嫁ぐまでは考える余裕がないとしている。

「クィルフ」
 また、声をかけられると面倒な、時間をとられる人物に会ってしまった。

「貴様か、なんだ」
「ちょっとぉ、一国の宰相様に向かって貴様はないでしょお」
 キラキラの女性受けする容姿を笑顔に近寄ってくる。

「なんの用だ」
「んー、昨夜、いつもより遅く帰ったのに、なんか捕物あったらしいじゃないの? しかも領地で、クィルフの大嫌いな性犯罪。機嫌悪いんじゃないかと思ってね?」
「私に限らず、好きな奴などいるか? 機嫌悪そうだと思うなら、構わず放っておいてくれないか?」
「も~イケズ言わんと構ってよ」
 宰相からすれば、幼馴染みで親戚で自称親友の青年が、難しい顔をしているから、気を紛らわせてやりたいのと、職務質問とを兼ねているのだ。

「女子供を傷つける犯罪に厳しいクィルフの領内でだなんて、勇気ある奴だなあ」
「領民ではなかった。国籍を持たぬ、自由民だったのだ。最も、私の噂は知っていたようだが」
「そなの? 自由民ねぇ。所属ギルドも国内じゃないの?」
「ああ、ヒルスヴァンダムの帝都、ウルティミシア本部発行の自由民株だった。が、出身はウルティミシアでも、ヒルスヴァンダム帝国内でもないらしいが……」

「らしい? クィルフらしくないハッキリしない言い方だね?」
「はっきりしないからな」

 目も合わさず淡々と答える姿に、少し考えた後、ルーシェンフェルドの肩を抱えこむ。一九〇㎝と少しあるルーシェンフェルドより、宰相の方が数㎝高く、背後から覆い被さるように身を寄せて、手近な談話室へ引き込んだ。
「ちょうどいてるようだ、ここで話そう」

 宰相の後ろに居た女官が、誰にも譲らないとばかりにそそくさとついて入り、茶器と茶葉の用意を始める。
「ああ、君。態々わざわざすまないね。お気遣いありがたいんだけど、ちょっと宰相として、国防総省の長官と犯罪に関する機密談話をするんだ、人払いさせてもらってもいいかな?」
 人好きのするキラキラの笑顔で、しかし有無を言わさぬ迫力で、これ幸いとついてきた女官を、労いつつも追い出しにかかる。
 上手くいけば、眼福な二人を間近で観れると期待した女官は、残念そうだが嬉しげに退室する。
「きゃー、直接お声をかけていただいたわ!!」
「いーわねぇ! 私も、ついて入ればよかった」
「ズルい~♡」

 ──王城の上級女官だというのになんとかしましいことか……あれでは我が邸のメイドの方がまだ落ち着いている。
 ヴァニラの世話をする若いメイド達の賑やかさを知らないルーシェンフェルドが零すと、宰相はふきだした。
「君ねぇ、若い娘さんってああ言うもんでしょ? 爺臭いと言うか、枯れてるというか……」
「……む、私より20も年寄りに言われるとは」
「こう、ひらひらしたドレスやキラキラの宝飾品を飾り立てた、色とりどりの花のような娘達を、可愛いと思ったことないの?」
「……ない。花の香りならよいが、香水臭いのは気分が悪くなる」

 目上(宰相は国王、王太后に次ぐ重要な役職であるし、親戚で年上)と二人きりなので、自分で茶を入れ、宰相に差し出すと、自分も一気に煽る。
「今までの人生で一度も? あ、この子可愛いなあお近づきになりたいなとか、ないの?」
「……ない」
(なんか、少し間があったな?)
 いつもなら即答で切り捨てるのに、ほんの僅かながら間があったのに気づいたが、そこをツッコむと怒り出したり逃げ出すのは解っているので、さり気なく話を続ける。

「女の子って可愛いのに。まさかとは思うけど、男の子が好き……」
「サルティヴァルス・キルスティン・ファル・ルッシェンディア・アガード!! 殺されたいようだな」
 戯けた様子で両手を挙げ、笑っている所をみるとただの冗談のようだ。
 一度手に集め帯電した魔力を納めてソファに深々と座る。

「それは後日確認するとして「せんでいい」今は、昨夜、自由民が性犯罪を君の領内で犯したらしいという話だよ。そういう輩が自由に国を行き来してるのなら……」
「まだ、調査中だが、男の方は5年ほど前に自由民になって、便利屋をやっていたらしい。
 被害者の少女のほうは、東の地からの迷子だったようだ」
「東の地? クィルフの領地の東って、緑風の森と丘陵地帯で、その先は山岳少数民族国家との国境しかないんじゃないのか?」
「そうだ。理由が当人にも解らぬそうだが、なぜか丘陵地の奥の森の中で迷子になっていて、丘陵地に出て男に保護されたそうだ。偶然同郷だったらしく、面倒をみながら王都に向かう途中、野営中に我慢できなくなって襲ったと言っていたが……」


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