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オウジサマってなんだ?
30.妖魔と少女と青年と
しおりを挟む今回、次回、ちょっと多めに会話が続きます
*** *** *** ***
「え? 何? 俺のせいじゃなかったの?」
きょとんとして、ジュードがルーシェンフェルドや騎士達の顔を順に見る。
「譬え感情を操られてようとも、実行に移し、その選択をしたのは貴様だろうが。言っただろう、欲を抑えられず自分を律せない者を罪人と呼ぶのだと」
クルルクヴェートリンブルクが吐き出すように言うと、ジュードは俯いてシュンと縮こまる。
「お前ほどの魔力があれば、我らと違って精神干渉に抵抗できただろう?」
「え、そんな、知らんかったし……」
魔道騎士ではあるものの、あまり魔力が強くないオウルヴィも、当然味方にはなってくれない。
「まあ、そうと知らなければ、あらかじめ抵抗術を使おうとも思わぬであろうが、いつもの自分と比べておかしいと思ったら、ああいう場では魔性を疑ってみる事だな」
ルーシェンフェルドはどこから出したのか、ティーカップを口にする。中味は温かなハーブティーであった。
牢番の騎士が、オウルヴィに野菜ジュースを用意する際、他の3人の分も茶器を用意しておいたのである。
茶器と茶葉さえあれば、空気中の水分から水を用意することも、湯を沸かすことも出来る『魔道士』ルーシェンフェルドである。
「結局、出会って3日の女性を口説くこともなく、いきなり手籠めにしようとしたお前の不明を恥よ」
「3日ぁ!?」
ソクラン・マディウスが口を出さないようにしていたはずなのに、つい声を出してしまう。
ジュードは恨みがましい視線を送る。
「えっと、もう有罪なのは元から諦めてるけど、未遂だとか、妖魔にあてられたとか、多少の考慮はして貰えるの? デスカ?」
「んむ。それを決めるのは我らではない」
「が、一応、未遂、初犯、妖魔の精神介入の可能性と取り調べに協力的であった事は伝えておこう」
「お願いシマス」
クルルクヴェートリンブルクとオウルヴィにペコペコと頭を下げるジュードを見て、ふと不思議に思った事を訊いてみる。
「ヴァニラが小動物が好きなのは覚えておこう。が、現在は連れていないな?」
ルーシェンフェルドの問いかけに、顔色が目に見えて悪くなる。
「どうした? 連れていない事に心当たりがあるのか?」
「……俺が」
それまでベラペラ喋っていたのに、急に口をつぐむ。オウルヴィもルーシェンフェルドも、先に促さす待つ。
「……ヴァニラに悪さ始めたら、2匹の内の気の強い方が、俺の腕に噛みついてきた。振り払っても、振り払っても挑んでくるから、ひっ摑んで川へ投げ捨てたけど、すっ飛んだ先の川の上を走って戻って来て、やっぱり腕に食いついてきた」
「川の上を、走ったあ? 山ネズミがか?」
「山ネズミに見えるのはヴァニラが望んだからで、元々リスだかネズミっぽいんだかな姿でもハッキリしない形の、ぼやっとした妖魔だったからな。
それが、何度も俺を止めようとして挑んでくるのが煩くて……魔力をありったけぶち込んだ」
言い訳をする子供のように、反省しているのを見られたくないかのように、椅子の上で小さくなり、俯いて呟くように答えていくジュードに、ルーシェンフェルドが険しい表情で訊ねる。ハーブティーの効果はなかったようだ。
「……ヴァニラは、それを見ていたのか?」
「勿論。俺が破裂させたのを目の前で見た。俺らしくない、なんでそんな事するのかと泣いてたよ。
ベリーを分け合ったり、指先に魔力を集めて舐めさせたり、可愛がってたからショックだっただろうな」
「二匹目は、いよいよ俺がヴァニラ喰うってギリギリの時に、ヴァニラの恐怖心や哀しみとか怒りとか困惑とか、強い感情にあてられて震えながらチーって鳴いた後、彼女の悲鳴を大音響で再現しながら一気に空へ昇っていって……消滅した」
「私達が、最後に聴いた殺されるかのような悲痛な悲鳴はそれか……
それで納得がいった。馬の足で数分かかる距離の森の奥で上がった悲鳴が、森の外の街道に居た私達まで届いた訳は、その妖魔が緑風の森の魔力を帯びた風に乗せて我らまで届けていたのだな」
「そっか、あいつら、ちゃんとヴァニラを守ったんだな……俺も本当にどうかしてたよ。あんなに可愛がってたちび達を、目の前で傷つけるなんて……
なんか妙に焦って、邪魔で煩くてどうしようもなくて……」
「それが魔性に操られていたという事だろうよ」
オウルヴィが綺麗に纏め、再び状況を順に詳細に述べていく作業に戻る。
思い違いや意図的な食い違いがないか、確認のため、何度も同じ事を話させる。
淡々と答えるジュードの態度は、さすがにクルルクヴェートリンブルクも怒鳴りつけるべき点はなかった。
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