26 / 45
オウジサマってなんだ?
25.まずは、身元確認作業から
しおりを挟む「なにか話したか?」
王城の東に位置する騎士団の、奥に建てられた罪人仮留置場に、オウルヴィを伴ってルーシェンフェルドが入ってきた。
「局長! 罪人はあのように尋問中であります! ……いつもよりゆっくりな登城ですね。あの後続いてすぐお見えになると思いましたが……うぶっ!?」
長らく主人に放置されてた飼い犬のように、クルルクヴェートリンブルクが駆け寄り、オウルヴィに後頭部をはたかれた。
「マリーオウムシェラ・オウルヴィ・エンジュスティウム・クールヴァント殿? 何を……」
『お前のその脳筋はただの見せかけか? 空気を読め! ……ったくこれだから脳筋は……』
脳まで筋肉と言われて、怒るどころか逆に頭をへこへこ下げながら、オウルヴィの後ろにつく。
「申し訳ありません。自分は、お恥ずかしながら、貴殿ほど人の考えを読む事もままならず、難しい事を考える事も苦手でして……まったく気が利きませんで……。で?いったい何が……」
「少しは自分で考えろ。
……恐ろしい目に合わせたヤツとは言え、これまで頼りにして来た保護者が罪人として捉えられ、言葉も通じないし知らない人間ばかりの初めての場所に、独りで置いて行かれるのだぞ? 少女の不安と恐怖たるや想像に難くないだろうが?」
オウルヴィはため息を吐きながら、答えてやる。
クルルクヴェートリンブルクはひとたびは何度も頷いて納得したかに見えた。
「確かに。泣き続けておられたし、知らぬ者に囲まれて言葉も通じぬのでは、さぞかし心細い事であろうなぁ」
やっと解ったか。オウルヴィは調書の確認のためテーブルに着く。
「で、それと局長がごゆるりと登城されるのとどう関係す……」
ッコン、ターン
テーブルの上のインク壺にペンを引っ掛ける。蓋が開いてなくて助かったと、胸を撫で下ろした後、オウルヴィはクルルクヴェートリンブルクを睨む。
「解らんのか!? 昨夜のあの様子からだいたい解るだろうが!!」
「オウルヴィ、何を大声出してる。調書を持ってこちらへ」
「はっ。直ちに」
チラとだけ振り返ったルーシェンフェルドの呼びかけに、慌てて答えながら書類を纏めて抱える。
『で?』ボソボソ……
『本当に解らんのか。泣き止むまで胸をお貸しになり、あの娘の朝食に付き合われて、お慰めになられてからの出勤に決まっておろうが』こそこそ……
「はて? ではやはり局長は、あの娘と面識があったのですかな?」
「なんでそうなる?」
「……いや、見知らぬ小娘一人、貞操の危機を救ったとて、いちいちそこまで面倒をみる義理はなかろうと思いまして。
……わざわざそこまで手をかける意味が解らん」
「…………本当に、解らんのか?」
「解らんから訊いておるのだが。……ンむ、まあ確かに局長は、以前から子供を大切になさるお方ではあったが……昨夜の様子は、少々行き過ぎのようにも思えましてな」
しきりに首を捻りながら、先に輪っかの付いた長い棒を棚から下ろし、ルーシェンフェルドと話していた騎士団員に手渡す。
「もし暴れるようならこれで首元を抑えろ。取調室や留置場では、向こうもこちらも魔道は使えん。いいな?」
二十歳そこそこに見える青年騎士団員は、頷きながら、緊張した面持ちで罪人拘束用の取り押さえ棒を受け取る。
クルルクヴェートリンブルクは、公爵であるルーシェンフェルドは勿論、ルーシェンフェルド付き騎士団士官少尉のオウルヴィより官位が下で、いわゆる下士官従事とされるものだが、実は家柄は良く、上級貴族で代々騎士団士官や近衛騎士を輩出してきた武門の名家で、その歴史はエリキシエルアルガッフェイル公爵主家アッカード家より長い。
親族の武門の者達の態度を見て育ったからか、自分より下位の者には権威的な物言いをする。勿論、威張っての事ではなく、それが普通の世界で育ってきたからだが。
「何を訊いても口ひとつききませんで。辛うじて、罪状だけは認めておるようなのですが……」
「認めるも何も、現行犯であったからな。否定のしようもあるまい?」
ルーシェンフェルドの声に苛立ちが見える。
留置用個室の柵の向こうで簡易ベッドに転がる罪人の男を見下ろしながら、ルーシェンフェルドの脳裏には、ヴァニラの白い脚と、片足は完全に脱がされた下衣と、腿の途中まで下げられた下着、泣き濡れて震えているヴァニラの姿が再現されていた。
「過去の例を見ても、性犯罪者は再犯性が高く、とても世に出すことは出来ぬ……識っていたらしいな?」
「ああ、自分には関係のない犯罪だと思ってたけどね。行き違っちまった、仕方ねぇ」
仕方ないなどあるものか。ルーシェンフェルドは拳を硬く握る。
「ジュード、とやら。まずは、身元を確認したい。名を名乗れ」
「今、自分で仰られたようですが?」
ジュードと呼ばれた男は、身も起こさず、視線だけを寄越す。
「名乗れ。まず話は、それからだ」
「……ジュード・フォンマ」
「名を名乗れ、と言ったはずだが?」
ジュードは深くため息を吐いた。
ルーシェンフェルドとジュードの冷たい睨み合いが始まった。
0
お気に入りに追加
368
あなたにおすすめの小説
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!
鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……!
前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。
正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。
そして、気づけば違う世界に転生!
けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ!
私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……?
前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー!
※第15回恋愛大賞にエントリーしてます!
開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです!
よろしくお願いします!!
【実話】高1の夏休み、海の家のアルバイトはイケメンパラダイスでした☆
Rua*°
恋愛
高校1年の夏休みに、友達の彼氏の紹介で、海の家でアルバイトをすることになった筆者の実話体験談を、当時の日記を見返しながら事細かに綴っています。
高校生活では、『特別進学コースの選抜クラス』で、毎日勉強の日々で、クラスにイケメンもひとりもいない状態。ハイスペックイケメン好きの私は、これではモチベーションを保てなかった。
つまらなすぎる毎日から脱却を図り、部活動ではバスケ部マネージャーになってみたが、意地悪な先輩と反りが合わず、夏休み前に退部することに。
夏休みこそは、楽しく、イケメンに囲まれた、充実した高校生ライフを送ろう!そう誓った筆者は、海の家でバイトをする事に。
そこには女子は私1人。逆ハーレム状態。高校のミスターコンテスト優勝者のイケメンくんや、サーフ雑誌に載ってるイケメンくん、中学時代の憧れの男子と過ごしたひと夏の思い出を綴ります…。
バスケ部時代のお話はコチラ⬇
◇【実話】高1バスケ部マネ時代、個性的イケメンキャプテンにストーキングされたり集団で囲まれたり色々あったけどやっぱり退部を選択しました◇
敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!
桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。
※※※※※※※※※※※※※
魔族 vs 人間。
冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。
名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。
人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。
そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。
※※※※※※※※※※※※※
短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。
お付き合い頂けたら嬉しいです!
チートな幼女に転生しました。【本編完結済み】
Nau
恋愛
道路に飛び出した子供を庇って死んだ北野優子。
でもその庇った子が結構すごい女神が転生した姿だった?!
感謝を込めて別世界で転生することに!
めちゃくちゃ感謝されて…出来上がった新しい私もしかして規格外?
しかも学園に通うことになって行ってみたら、女嫌いの公爵家嫡男に気に入られて?!
どうなる?私の人生!
※R15は保険です。
※しれっと改正することがあります。
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる