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オウジサマってなんだ?
16.眠れない夜と、見守る人達
しおりを挟む夜中に、少女が泣いていた。
自身の行動を出会った瞬間から振り返り、どこがいけなかったのか、何がきっかけで、連れの男が変わってしまったのか。
直前まで、一緒に王都へ行き、自由民として共に行動し、ゲームやお気に入りのラノベのように、いわゆる冒険者をするはずではなかったのか。
共に行動するという事に、夜枕を交わすことも含まれていたのか。前の二晩はそんな事はなかった。
やはりきっかけは、寒さから、すり寄って暖をとりながら眠ろうとした事だろうか。
それとも、それも引き金のひとつに過ぎず、都度頼り切って甘えた態度だったからだろうか。頼られてる感が、情に絆されて、庇護欲から独占欲や肉慾に変わってしまったのか。
或いは、出会った当初からの、相手を一男性として見なさず、気遣わずに奔放に振る舞って来た行動全てが、男の中の肉慾を増長させたのか。
父親や従兄、弟以外の男性とそうは親しくしてこなかったので、一般常識で失礼でない程度の気遣いしか出来なかった。
どれだけ後悔しても、失ったものは取り戻せないのか……
今夜、少女が失ったもの。
それは、言葉が通じて信用のおける、この国での案内と共同生活が出来る、自由民としての先輩でもある同郷の士。
同じ京阪神育ちで、互いの感性に近いものを感じて、遠慮なく関西弁で会話できる相手。
己に良く懐き、愛らしく暖かな柔らかくてふわふわした可愛らしいもの。
路頭に迷った己を保護してくれた唯一の味方。
この先、この見知らぬ土地で生きていく手立ての提供者。
この3日間の恩人への信頼と、他人を信用出来るかを見抜く力への自信。
[雄]の怖さを知らず天真爛漫な昨日までの自分。
それらのすべてが惜しくて、なくしてしまった自分が愚かすぎて、少女は声を殺し身を丸く縮めて、ベッドの中で泣き続けた。
返して、手に入ったものは。
今夜の、温かい食事と五日ぶりの入浴。
外敵を恐れずに眠れるはずの、屋根の下のベッド。それも恐れ多いほどの過分な豪華さと柔らかさを備えた高級品。
それらは、失ったものと引き換えにするのに等価交換であればまだしも、価値が違いすぎる。
そして、罪悪感と、後悔と、恐怖と怒り、哀しみと不安、安堵と寂寥感、様々な感情が襲いかかる。
自分を無駄に責めていても、状況は一向に良くならないのは解っていたが、独りで真っ暗な天蓋の中で眠れずにいると、ネガティブな考えに囚われて仕方がない。益々眠れなくなる一方だ。
少しだけ開いた扉の向こうに、メイドの気配がする。様子を覗っているのだろう。心配からか、監視の意味なのかは少女にはまだ判らないが、泣いてるのを気取られたくなくて、必死に耐える。
体を横にしているからか、鼻水が鼻の奥から喉に落ちて炎症を起こしかけていたが、ティッシュペーパーなどの便利なものがないこの世界では、ただ枕元に置かれた手拭いを噛みしめて耐えていた。
知られたくない。心配しないで欲しい。見られたくない。どうせ伝わらない。解らない。聞かれたくない。触らないで欲しい。もう帰りたい。戻りたくない。読みたい。見たくない。行きたい。どこにも行きたくない。
夜中にも拘わらず、様子を覗うメイドの1人が、何か術を使う。恐らく、妹に有効だったという、夢違えの魔術だろう。
元々寝てはいなかったが「違う夢をみる」効果なる部分が働いたのだろう、いつの間にか本当に眠ったようだった。
「効いたみたいですね」
「よほどお辛かったのでしょうね」
当番のメイド2人は、少女が眠ったのを確認してから天蓋の内に入り、医療魔術が得意な方が、副鼻腔と喉、目蓋の腫れを治め、喉と口腔内に溜まった鼻水と痰を抜き取る。
「これじゃ、寝苦しいはずです」
指先や足が冷えて血行が悪くなっていたのも、少し温める。
次第に、少女の肩に入っていた力も脱けたようだった。
「このまま朝まで、ゆっくりと眠れればいいのだけど……」
メイド2人は再び天蓋を閉じて寝室からリビングまで下がる。
この後は、別の2人と交代したが、少女の様子は変わりなく、浅い眠りを続けたようだった。
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