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心を守ってくれた優しい人
🚫3 私の知るマクロンさんとそうじゃないマクロンさん
しおりを挟む「ったいなぁ、イサナ、ヒドいよ」
「ヒドいのはどちらですか? あなたを心配して涙を見せる少女に、なに破廉恥なことを要求しているんです? ふざけてないで、さっさと起きなさい」
「え? え? 起きる? だって、三種の魔法の、その、複合魔法が直撃して、魔力切れで倒れた人に、そんな?」
「何度も言いますが、心配ありませんよ。この方は、あれしきの魔法を無効化した程度で倒れるような魔力も肉体もしておりませんから。ほら、竜妃さまがお可哀想でしょう? いつまでも変化球で甘えてないで、さっさと起き上がって安心させてあげなさいセフィル」
中性的で、極細銀縁の丸い眼鏡をしていても可愛らしいと言える容姿のイサナさんは、見かけによらず大胆に、マクロンさんの頭を、手にした長い杖のヘッドで、ホッケーのように振って叩きつけた。
「あたっ イサナ乱暴はしないでくれよ。解った解った。起きるから⋯⋯」
殴られた頭を擦りながら、ムクッと起き上がると、私を抱き寄せて、
「ごめんね、驚かせて。まさか私を撃ち払おうとする奴がいるとは思わなくて喰らっちゃったけど、本当はなんともないんだ」
苦笑して謝ると、私をお得意のお父さん抱っこに抱え上げる。
「心配してくれる萌々香が可愛くて、やられた振りをしてただけなんだよ、本当にごめんね」
「本当に? 起きて大丈夫なの?」
「うん、なんともないよ。泣かせてごめんね。今まで、よく無事でいてくれたね。すぐに迎えに来てあげられなくてごめん。ずいぶん待たせた」
「ううん。一週間だけだよ。でも、⋯⋯会いたかった」
「うん」
「会って、今まで護ってくれてありがとうって感謝して、黙って逃げ出してごめんなさいって謝りたかった」
「うん。大丈夫だよ。解ってるから。悪気とか無責任な逃亡とか、そんなんじゃない。君の命と心を守るためには、あの場から逃げ出す事は必要だった。ちゃんと解ってるから」
「⋯⋯ん」
やっぱり優しい。こんな事言われたら、ちゃんと笑って話したいのに、涙が止まらない。
泣き顔を見られたくなくて、首に縋り付いて、マクロンさんの肩に顔を押しつけた。
「モモカ! 黙って抜け出すから心配したぞ」
マクロンさんの背後から、城門を出て来たガヴィルさんが近寄って来る。
ガヴィルさんにも迷惑と心配を掛けちゃった。
「ごめんなさい、ガヴィルさん。私⋯⋯」
「控えろ、ガヴィル。萌々香は考えなしに勝手な行動はとらない。これ以上怯えさせたり泣かせたりしたら⋯⋯あたっ」
「泣かせたのはあなたでしょう」
ガヴィルさんにキツい眼を向けたマクロンさんの後頭部を、イサナさんが杖のヘッド部分で、また殴りつける。
「気にすることはありませんよ、ガヴィル殿。これの言うことは聞き流してください。ただの嫉妬ですから」
「はぁ⋯⋯ ですがイサナ殿、あれは?」
ガヴィルさんの指した方向には、真っ赤な顔で怒りを露わにしている魔法士サヌルと、その仲間達がこちらへ接近して来ていた。
次話
🚫4 返り討ち
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