聖女も勇者もお断り🙅

ピコっぴ

文字の大きさ
上 下
140 / 163
心を守ってくれた優しい人

🚫2 なんでもするから?

しおりを挟む

 揺れる景色の中で歪んだマクロンさんをよく見ようと、袖で目に溜まった涙を拭い、上体の一部を膝に乗せて、両手で頰を挟むようにして頭を固定する。

 顔を近づけて、呼吸はしているのは確認出来た。

「⋯⋯う」

 声が! 意識は浮上しそう。身体も、服に倒れた時の汚れ以外異常はないみたいだし。

「マクロンさん、大丈夫? 起きれる?」
「も⋯⋯か?」

「うん。うん。私だよ。ねえマクロンさん、直撃したみたいに見えたけど大丈夫なの? どこか痛いとか、苦しいとかない?」

 頑張って笑いかけるけど、目の前で魔法攻撃を受けたのを見たショックと、いつも飄々と魔物や魔獣を避けてたマクロンさんの、初めての倒れた姿に、手が震えて涙が止まらない。

「そうだ、マナ、ヴィータ、マクロンさんのツラいところ、治してあげて?」

──大丈夫じゃない?
──そのまま放っておいても、すぐに起き上がれるよ

「みんな、冷たい!! どうしてそんな事言うの?」

──えー? だって
──ねぇ?

「モモ⋯⋯カ、も⋯⋯」
「なに? 何をして欲しい? どうしたら元気になれるの? お医者さんとか呼んで来る?」

 ふるふるした弱々しい手を伸ばし、マクロンさんの大きな手が、そろりと私の頰に触れる。

「モモカ⋯⋯泣いて?」
「マクロンさんが倒れたのを見てびっくりしただけ。それよりも、マクロンさんは大丈夫なの?」
「⋯⋯あの、攻撃魔法を、無効化す、のに、ちょっ、魔りょ、使、い過ぎ、た、かな」
「マクロンさんが私に魔力や霊力を馴染ませたみたいに、私も分けてあげられたら、元気になれる?」
「そうだね。分けてくれる?」
「うん! うんうん。あげる、幾らでもあげるから、早くいつものマクロンさんに、元気になって」

 首が取れるんじゃないかってくらいたくさん縦に振る。

 でも、魔力操作は少し出来るようになったけれど、どうやれば、マクロンさんに馴染ませるように分け与えられるの?

「自分の中で流すのは出来るようになったんだけど、人に受け渡すのってどうやるの?」

 新緑色の眼をこちらに向けて、口を少し開き、私の耳元に近づけようとするので、こちらから耳を傾ける。

「⋯⋯ぃ、キスしてくれる?」
「は、え!? キッ⋯⋯ええっ!?」

 一気に顔に熱が上る。何言ってんの? こんな時に!?

 焦る私を見て困ったように微笑むマクロンさん。

「手を繋い、で送れるなら、それでもいいよ? 以前してあげたように、抱き締めて密着しても、馴染ませられるなら、それでもいい。上手く出来ないなら、口移しが手っ取り早い」

 ああ、そういう⋯⋯ でも、さすがに躊躇する。それで、本当に元気を分けてあげられるか解らないし、した事ないもんだから、想像するだけで焦る。

「あ、あのね、魔力の譲渡もそうだけど、キッ⋯⋯しゅもした事なくて、上手く出来るか自信ない⋯⋯」

 さっきまで虚ろだったマクロンさんの緑の眼が、笑みに細められる。
 さっきとは違う理由で震えながら、そろそろとマクロンさんに近づいていくと、私の頰に再びマクロンさんの手が添えられて。
 さっきは冷たかったのに、温かい。少しは回復してるのかな。

「難しく考えないで、取り敢えずやってみ⋯⋯」
「こんの、恥知らずドラゴンがっ! 幼気いたいけで健気な乙女に、何させてるんですか、あなたは!!」

 お顔がかなり接近した辺りで、マクロンさんの横っ面を何かが押しやり、首がゴキッとなった。

「え、マクロンさん、大丈夫!?」
「心配はありませんよ。これしきで死ぬようなやわな身体はしていません、この方は」

 私の膝に頭を乗せて横たわるマクロンさんの頭を押し退けて首が音がするまで仰け反らせたのは、先程丘の上で私の背後に突然転移して来た、イサナさんだった。



 次話
🚫3 私の知るマクロンさんとそうじゃないマクロンさん

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

エルネスティーネ ~時空を超える乙女

Hinaki
ファンタジー
16歳のエルネスティーネは婚約者の屋敷の前にいた。 いや、それ以前の記憶が酷く曖昧で、覚えているのは扉の前。 その日彼女は婚約者からの初めての呼び出しにより訪ねれば、婚約者の私室の奥の部屋より漏れ聞こえる不審な音と声。 無垢なエルネスティーネは婚約者の浮気を初めて知ってしまう。 浮気相手との行為を見てショックを受けるエルネスティーネ。 一晩考え抜いた出した彼女の答えは愛する者の前で死を選ぶ事。 花嫁衣装に身を包み、最高の笑顔を彼に贈ったと同時にバルコニーより身を投げた。 死んだ――――と思ったのだが目覚めて見れば身体は7歳のエルネスティーネのものだった。 アレは夢、それとも現実? 夢にしては余りにも生々しく、現実にしては何処かふわふわとした感じのする体験。 混乱したままのエルネスティーネに考える時間は与えて貰えないままに7歳の時間は動き出した。 これは時間の巻き戻り、それとも別の何かなのだろうか。 エルネスティーネは動く。 とりあえずは悲しい恋を回避する為に。 また新しい自分を見つける為に……。 『さようなら、どうぞお幸せに……』の改稿版です。 出来る限り分かり易くエルの世界を知って頂きたい為に執筆しました。 最終話は『さようなら……』と同じ時期に更新したいと思います。 そして設定はやはりゆるふわです。 どうぞ宜しくお願いします。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。

夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。 陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。 「お父様!助けてください! 私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません! お父様ッ!!!!!」 ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。 ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。 しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…? 娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)

処理中です...