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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
125.妖精王と大精霊
しおりを挟むフィリシアがアリアンロッドと共同魔法で、美弥子達が、神官戦士に守られながら、多くの僧兵を率いて山をおりていく様子が、庭の岩風呂に映し出された。
アリアンロッドの中の光の精霊である部分が光の屈折率や彩度明度などを弄り、サヴィアンヌが調整する事で、フィリシアが大気を運んで、アリアンロッドが見たものを映し出すらしい。
カインハウザー様も興味津々だった。
《慣れれバ、その内アリアンロッド一人でも出来るようになるワヨ》
アリアンロッドは光と風、水の精霊で出来ているので、水鏡を作り、見聞きした映像と音を運んでくるという複数の魔法を同時展開出来るので、慣れるまで制御が難しいけれど、慣れれば、三体以上の精霊で共同魔法を使うより、一人で全部やる方が息をするより楽になるという。
《そんなこと言えるの、妖精王くらいよ》
精霊にはそれぞれ属性というものがある。
属性も種族も違う多くの妖精と婚姻を重ね、複数の属性と特異性を受け継いだサヴィアンヌは、ちょっと特殊な部類に入る。
何千年も世界を営んできた大きな精霊だと、反発しない属性の下位魔法なら扱える事もあるらしいけど、それでも、光の精霊が闇の魔法を使うことは出来ないし、火の精霊が水の魔法を使うことは出来ない。
フィリシアのように完全な人型を持って人や他種族の言葉を解し、思考や簡単な感情も持つ大精霊でも、風属性に縛られる。火の魔法には煽られるし、水の魔法を煽るけれど、土の魔法には干渉できない。
多彩な妖精魔法を使うサヴィアンヌや、複数の精霊が融合して生まれたアリアンロッドが特別なのだ。
「他にも、アリアンロッドのような複数の属性を持つ精霊はいるの?」
《ワタシは聞いたことないワネ》
《私も、まだ会ったことはないかしら?》
「そうなんだ⋯⋯」
《そもそも、大地の地精や光の光気、世界を取り巻く大気などを長く浴びて溜まった精気が世界を営む元素として生まれ精霊になるのダカラ、複合属性なんてある訳がないノヨ》
アリアンロッドの存在を否定するような言葉が、サヴィアンヌから放たれるけど、よく聞けば、精霊の本質にも突き当たる話なのかもしれない。
女神の息吹を含んだ朝陽の光気を浴びて、世界を取り巻く大気を取り込み、この世界の生けるもの全ての霊気的な絆から生まれる地精を糅てに霊気を帯びて、それぞれに宿った精気が、精霊になるのだと言う。
だから、この世に存在する種族の数だけの精霊が生まれる可能性があるのだと。
水の流れや澱み、光を反射して輝く雫に水の気が溜まり、やがて地精や光気の霊気を帯びて、水が押し流したり癒やしたり育成する力を宿した精気になり、水霊や水妖へと成長する。
植物の葉や根元に緑気が溜まり、霊気を帯びて植物の薬効や育成に関わる力を宿した精霊や妖精が生まれる。
「え? 精霊と妖精って元は同じなの?」
《そうネ。純粋にその精気の元の力だけで構成されると精霊になるシ、物質的な肉体を持てバ、肉体に引き摺られ縛られた感情を持つ妖精になるワ》
妖精は、地精や光気で補填できる身体を持ち、身体に魔法を溜め込めるので、その身の内に多くの属性を溜め込めるし、多様な魔法を使える。
精霊は魔法を溜め込む身体を持っていないので、属性の力しか使えないし、感情を持たずに世界を営む使命を生まれた時から理解していて、女神の息吹を世界に満たし行き渡らせるために、嘘や偽り、不誠実を行わず、綿々と世界を営み続ける。
妖精は存在値を保つのに己の魔力の全てを使うので、その身に溜め込んだ精霊の魔法を使って多彩な事が出来る代わりに、魔法の行使を精霊に拒否されると使えなくなる。
自由でいろんな事が出来るのは妖精だが、力関係で上の存在なのは精霊なのである。
《モットモ、感情を持たず思考しない純粋で原始的な精気や元素精霊に負けないケドネ? そこは自由度と知恵を持つ妖精に軍配が上がるワ》
アイツらは、個性がなく、与えられた存在意義を繰り返すだけ。ワタシ達はその力を利用して魔法を紡ぐのダカラ。
フィリシアがいる前で堂々と利用するなんて言う。
《精霊は魔法そのものデ、妖精ハ魔法をこの世に具現化する、意思を持った手段や道具だと思えバいいんじゃないカシラ?》
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