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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
121.精霊祭
しおりを挟むその後、街の中を歩いても、どこもかしこも妖精が溢れていて、中身の減らない小瓶からお酒を酌み交わしていた。
背中にトンボや蝶の翅をはやしているもの、とんがり帽子を被った小人たち、老人の姿をしたもの、襤褸をまとったもの、小猿の姿や栗鼠、小鳥など小動物の姿をしたものから、岩や樹木、花、建物まであらゆる姿の、精気が形を持ったモノ達が、精霊、妖精、入り混じって楽しんでいた。
「昔は、どこでもこうだったらしいね」
「こう、ですか?」
カインハウザー様は、嬉しそうに目を細めて、街中を見ていた。
「そう。収穫祭と精霊祭は、こういう光景がどこでも当たり前だったのだそうだよ。精霊、妖精、人間や動物たちが、種族の垣根を越えて、一年の実りへの感謝と喜びを分かち合って、楽しんで過ごしたのだと。精霊眼を持っていなくても、この日だけは誰でも、彼らと交流できたのだとか」
ハロウィンみたいなものかな?
元々は、ケルトで季節の始まりの11月1日を新年として、10月の晦日に先祖の霊が帰ってくるとか、その先祖の霊を狙って悪霊が来るとか、一年の締めくくりの祭りに、大騒ぎの好きな霊や妖精が混じってるって話に転じたのだとかだったような⋯⋯
カインハウザー様やリリティスさんの笑顔に、私も嬉しくなってくるけど、フィリシアのひと言に、その気持ちも急速に萎えていく。
《シオリ、ケープを深くかぶって! 南門からこちらへ、ミヤコ達が来るわ》
「またか⋯⋯」
シーグがため息をつく。
「シオリ、ここはいいから、カインハウザーと行ってくれ」
よくはわからないけど、美弥子の目的に、シーグに会うことがあるらしい。
それにいつも彩愛さんやさくらさんも一緒について来る。
「ミヤコは、ィグナリオンにご執心のようだね?」
「そうなんですか?」
訊き返してはいるけれど、たぶんそういうことだろうとは思ってた。
一度は、岸田君に見間違えて迷惑をかけた、次にその謝罪、は納得できないでもないけれど、何度も来るのだからそうなのだろう。
──彼は、私の番いだから!
ハッキリとそう言ってやれたら、どれだけスッキリするだろうか。
それでも、美弥子は鼻で笑うだけなのだろうか。
「まあ、友達を横取りされるような気分になるかもしれないけれど、彼の様子を見ていれば、大丈夫じゃないか?」
「まあ、喜んでるようには見えないわね」
シーグは、私のことを番いだと言って憚らないのだから、狼の習性で、決めた相手と添い遂げると言う話だから、そこは心配してないのだけど。
気分のいい話ではないのは確かである。
美弥子が私に気づかないよう、敢えてシーグが南門の方へ歩いて行く。
《ワタシが着いてくカラ、心配しないデ》
ポケットから出て行くとき、サヴィアンヌは耳元で《シーグは浮気はしないワヨ》と言って、ウインクをしてから蝶になって、シーグのフードの上に留まった。
それでも、面白くないものは面白くないのだ。
とは、言えなかった。
「女王陛下がついてれば、心配はないだろう? シオリは、街中をまわらなきゃならないんだから、張り切っていこうか」
「え? 街中を? 端から端までですか?」
「そう。精霊や妖精達を労って歩いてもらわないとね」
「今日中に?」
「明日は、精霊祭じゃないからね」
城壁で囲まれた小さな街とは言っても、歩くとなったらかなり広い範囲ではある。
おそらく、日本と比べて考えても、小さめの市や大きめの村ほどはある。
今日中にまわれるかな⋯⋯
今夜も、領主館中庭の、天然温泉(ただし冷泉を沸かしたもの)の岩風呂に浸かった。
疲れた。本当に端から端まで歩いた。
よく、東京ドーム何個分って言うけど、そんなレベルじゃなかった。
東京ドームがどれくらいの大きさなのかは知らないけど、日が暮れてもまだまだまわらないといけなかったし、街の外の、畑や牧場は廻りきれなくて、フィリシアに声を届けてもらった。
でも、一戸一戸、一か所一か所、どこへ行っても精霊や妖精に喜ばれ、歓迎された。
「私が労って祝福してまわるって話だったのに、結局は、私が各地の精霊や妖精に祝福してもらってまわったみたいになっちゃったな⋯⋯」
そして、ドルトスさんちのお庭の果樹には、いろんな妖精がたくさんいて、実がたわわに実ってたし、樹にも木霊が居て、何より、ドルトスさん亡くなった奥さんがいた!
正確には、亡くなった奥さんの残留思念、的なものだったけれど、木霊と同化しかけてて、そのドルトスさんと娘さんを想う気持ちが、果樹の実りをよくし、風味や栄養価も上げているのだと解って、ドルトスさんに伝えるべきか、迷っている。
亡くなった奥さんと、結婚したばかりだという娘さんをとても大切に想っているドルトスさん。
譬え残留思念でも、奥さんが庭で見守っていると聞かされて、どう思うだろうか⋯⋯
喜ぶのかな?
気づかなかった事を悔やんだり、落ち込んだりするのかな。
そこに居るのに、触れられず感じられず見えない事に、悲しまれるのかな。
しばらくお湯の中で悩んだけれど、答えは出なかった──
✻✻✻✻✻✻
予約投稿の、年数を間違えて2025年にしてましたので、慌てて手動で投稿しました🙇
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