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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
20.次の町はどんな町?
しおりを挟む妖精郷から、現実世界に戻ってくると、昨日ノドルからまっすぐ南下してきていた山道の真ん中で、朝日が山から顔を出す直前だった。
《そこが、シオリが手元も見えないって言い出した場所ヨ。そのまんまの位置に戻ってきたから、妖精の手を借りたトカ、気にしなくていいデショ》
「うん、ありがと」
目的があるとか、鍛錬を積んでる途中って訳でもないから、直接、次の目的地の街に出ても良かったけど、やはり、自分で山や森を見ながら歩きたいわよね。
そんな私の気持ちを汲んでくれたのだろう。
妖精郷にアイテム倉庫を作った事だし、次の街では、簡易テントか寝袋を買おうかな。
右手は谷底へ向かって急な斜面で、左手は剥き出しの地層が見える。私の頭の高さより上は、針葉樹林になっていて、かなり薄暗い。
この道は、山の斜面にあった自然な道を、切り開いて通りやすくしたものらしい。
「ノドルやカレーズさんの集落の辺りは左右の山ももう少しなだらかで、そんなに山を拓いたって感じはなかったけど、この辺りはいかにも山中って感じね」
《ソウネ。北の国境から王都へ出る人達は、ハウザーから大神殿へ出て、参道から東の街を通って行くカシラ?》
私が、大神殿から放り出された時、親切にしてくれた神官戦士のお兄さんは、東へは行くなと教えてくれた。やはり東から王都へ繋がっているのね。
この道は、この山に住んでいる小規模集落の人達しか通らないらしい。
《そうねぇ、次のマガナはハウザーより人は住んでるけど、街の発展具合は大したことないワ》
「百年経って、大きくなってないのか?」
今日は、シーグも人型のまんまである。より狼の姿に近い方が、体力はあるし足も速いけれど、喋るのには人型に近い方が楽なのだそうだ。
《この辺にいる風や光の精霊の力を借りて、眼だけ様子を見てきたワ。そんなに変わってないワヨ》
魔術という、科学よりも自由度のある便利な技術があり、魔力と霊気、世界を営みまわしていく『精霊』という電気のように生産しなくてもそこかしこに満ちているエネルギーがあり、安定した生活をしているからだろうか、ここの人達は、あまり大きな変化を望まないらしい。
私の蜂蜜が栄養価も味も認められて、高額でよく売れているというのに、養蜂の発想はなかったり、鍛冶師はいるが、機械で量産を考える人はいなかったり。
農作物も、日本──地球の人はハウス栽培や品種改良をして、ものによっては通年で収穫できるようになっているのに、ここの人は、精霊や妖精の祝福は受け入れても、土壌や環境を変えてまで収穫しようとはしない。
どちらがいいのかは判らないけど。
《マガナよりも次のキハが西の都と言われるくらい大きな街ヨ。そこから、他の大きな街へ移動する乗合馬車も出てるし、田園地への街道も、比較的安全で広い道ヨ》
比較的安全というのは、人が多く行き来し、盗賊や人攫いなどがあまり出ないという意味で、「比較的」とつくのは、人が多くいる場所には、暗い感情由来の霊気の凝りが溜まりやすく、場合によっては穢れがあると言うこと。
ただ、開けた場所なので、精霊の恵みと女神の祝福を僅かに含んだ鮮烈な朝陽を受けられるのと、光の精霊の日々の営みで霧散されるから、瘴気にはなりにくいとの事。
《そういう意味デハ、人が多く住む場所は、建物やなんかに朝陽の当たらない場所が多く、光の精霊の力が通わない場所も多くなるカラ、凝りや穢れは溜まりやすいワネ》
王都への途中の街道沿いの商業都市も、人の感情から溜まった穢れが祓い切れず瘴気になり、少なくない闇落ちが出て、都市まるごと封鎖して、高い岩と金属の壁に囲まれ、魔術結界で誰も出入り出来ないようになっているのだとか。
《封鎖した時に逃げ遅れた人は、闇落ちや魔怪に捕食されちゃっタか、彼ら自身も瘴気を巻散らかす闇落ちになってるんでしょうネ。追っかけられたらかなり怖いシ、シオリは近づいちゃダメヨ》
「逃げ遅れた人が居たのに、封鎖したの?」
《街を捨てるのを躊躇った人や、どこかに隠れてて避難勧告や騎士団の通達を知らなかった人、身体が不自由で退避が間に合わなかった人も居たデショウネ》
「そんな……」
《仕方ないノヨ。この国には、巫女は居なイんダカラ。浄化出来ない、触れれば確実に汚染する呪いが蔓延ってるノニ、オーイ、逃げ遅れた人はイマスカ~? なんてやってる時間はないワ》
あの土地は、どうなるのカシラネ。ミヤコ達でなんとか出来るのカシラ。
そう言ってひらひらと飛んで行くサヴィアンヌの声は、なんとか出来ないと思っているように聴こえた。
街ひとつ全域が、リアル『ゾンビ映画』な空間って事よね……
巫女ひとりでは、とても手に負えなさそう。
でも巫女よりも上位職の『聖女』として召喚された美弥子なら、大規模浄化出来るのだろうか。
召喚された当初から考えると、あの時の私達では想像もつかないほど、話のスケールが大きくなってきた気がした。
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