上 下
167 / 294
Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち

6.森と生命の循環の見まわり

しおりを挟む


 長い間、お休みしてしまい、申し訳ありません
 ゆっくり再開していきます



 ❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈




 コールスロウズさんの家族はみな早起きだ。

 東の空が薄明るくなって来る頃には、全員起きている。

「そう言うフィオリーナさんも起きてるじゃない」
「私は、元々、家族の食事の用意やお掃除洗濯を、父が仕事にでる前に、自分の学校へ行く時間を見計らってやらないといけなかったから」

 カインハウザー様の館でも、メイド見習いとして朝食のお手伝いしたりしてたし……
 それでも、カインハウザー様やリリティスさんが起きてくる前にお掃除を終わらせないといけないハウスキーパーの人達に比べたら、キッチンメイドはまだ楽かもしれない。

「同じよ。私達も、夜明けと共に活動を始める。それは、森の営みに合わせてるの。私達が森を守っていかないと、木こりや猟師、山菜採りの女性達などに危険があってはいけないでしょう?」


 私の得意の、蜂蜜を練り込んだパンを食べてもらい、非常食のような硬い干し肉とチーズ、私の焼いたパンの残りを持って、コールスロウズさん達の山でのお努めに同行した。

 硬い木靴や柔らかい布の靴では歩けないだろう山の中を、獣道のような通れる場所を探りつつ歩く。

 所々、夜露に濡れて滑りそうである。手の届く木に摑まりながら、ゆっくり進む。きっと、私に合わせて、進むスピードは落ちているに違いない。
「そんな事ないですよ。多少は、慣れてないフィオリーナさんに合わせてはいますが、目的を持って行進している訳ではありませんから」
 そう言いつつも、メイベルさんはまわりに目を配り、私の方は向かずに返してくる。

 可愛いキノコを見つけたけど、近寄らないように注意された。
 触るだけで胞子を吐いて、その胞子が皮膚につくと、軽くても痒くなったり、酷いと皮が溶けてただれたりするらしい。

「ええ、こんなに可愛いのに毒キノコ?」
「人間にとってはそうですね。動物も大半は食しませんが、一部の昆虫や、目に見えない精霊のような微生物は好物です」

 目に見えない精霊のような微生物──バクテリアかしら?

「フィオリーナさんのお国では、バクテリアと言いますのか?
 非常に小さい生物で、個体では人の目には見えません。小麦粉の一粒よりも小さくて、生き物の死体を朽ちる前に分解したり、朽ちるのを早めたり……カビの仲間でしょうかな?」

 やっぱり、バクテリアだよね。ここでは『精霊のような微生物』扱いなんだ……

「儂や孫娘は、精霊を視る眼がありますので、直接は見えませぬが、脳裏で存在を理解することは出来ますのじゃ」

 顕微鏡レベルの感知能力。凄いね。

「フィオリーナさんも出来ると思うわ。そうね、目を閉じて、深呼吸した後、意識をまわりの木々に添わせて、少しづつ呼吸を浅く、長く、溶け込むようにして」

 足場を確かめてから言われた通りに目を閉じて、深呼吸で息を整えた後、まわりの様子を眼以外の五感で感じとろうとしてみる。

≪シオ、何・シテル?≫

 昨夜から何処かへ行っていたアリアンロッドが、至近距離から顔を覗き込むようにして訊ねてくる。
 目を閉じて見えていなくても、意識を森に広げていたからか、精霊眼が開いていたのだろう、アリアンロッドが、眼で見るよりはっきりと視える。

「あら、大精霊さま、おかえりなさい。フィオリーナさんは、今、森を体感してみてるのよ?」

≪アリアンもやる!≫

 言うか、アリアンロッドの形がぼやけて、霧に投影された映像のように不確かで朧気な物となり、どんどん希薄になって、眼でも精霊眼でも視えなくなり、アリアンロッドの気配が、そこかしこから感じられるようになった。

「凄いですわ、大精霊さま! 初めて来た土地で、そんなにすんなりと森に馴染めるなんて!」

 メイベルさんの褒め言葉に、気を良くしたアリアンロッドはパッと元に戻り、メイベルさんの目の前に浮かぶ。

≪アリアン、凄い? アリアン・いい子?≫
「ええ、素晴らしいですわ。森の気配を瞬時に理解して同調できるなんて!」

 はしゃぐ二人の足元の、例のキノコを感じとる。

 表面の笠の部分に、ダニかアブラムシのように小さくて白い、足が8対の生き物が笠を食み、黴のような微生物が分解している最中だった。
 小さい虫も虫眼鏡がないとよくわからないくらい小さい物だったけど、黴にいたっては、精霊眼で感じるだけで、視える訳ではなかった。

「何も起こっていない静かな森のようでも、こうして、生き物の営みはありますのじゃ」

 動物でも虫でも、植物や微生物でも、常に生命力は循環していて、それを小妖精達が守護・祝福し、精霊が世界をまわしているのだという。

「儂らはこの営みが正常に続くよう見回るのが務めだと思うとります」

 コールスロウズさんの笑顔は晴れやかだった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

さようなら、私の初恋。あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

見捨てられた(無自覚な)王女は、溺愛には気付かない

みん
恋愛
精霊に護られた国ルテリアル。精霊の加護のお陰で豊かで平和な国ではあったが、近年ではその精霊の加護も薄れていき、他国から侵略されそうになる。戦いを知らない国王は、スネフリング帝国に助けを求めるが、その見返りに要求されたのは──。 精霊に護られた国の王女として生まれたにも関わらず、魔力を持って生まれなかった事で、母である王妃以外から冷遇されているカミリア第二王女。このカミリアが、人質同然にスネフリング帝国に行く事になり─。 ❋独自設定有り。 ❋誤字脱字には気を付けていますが、あると思います。すみません。気付き次第修正していきます。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

【完結】攻撃に関する事が一切出来ない無能と呼ばれた低ランク冒険者は実は補助と生産系だけはトップクラス! 攻撃出来なくても無双は可能なのさ!

アノマロカリス
ファンタジー
僕の名前は、シオン・ノート 年齢は15歳。 8歳の神託の儀で、僕はあらゆる攻撃が一切出来ない無能者という神託を得た。 それ以来、料理用の包丁や鍛冶のハンマーは持って扱えるのに、武器として使用すると手から弾かれてしまうのだ。 そして家は代々戦闘系のジョブを持つ家系で、僕は疎まれて育っていた。 そんな両親から言い渡された事は、15歳の成人までなら家に置いてやるが、それ以降は家から追い出されるという事になってしまった。 僕は必死に勉強をして、木工・鍛冶・彫金・裁縫・調理・細工・錬金術などの生産系スキルを身に付けた。 それを両親に話したが、決定が覆る事は無く家を追い出された。 そして僕は冒険者になり、ソロで依頼をこなしていく内に、あるチームに誘われた。 僕の事情を話しても、快く受け入れてくれたのでお世話になっていたのだけど… そのチームで強い魔物から逃げる為に僕を囮にして置いてけぼりにされ、生きたいという強い気持ちで魔法を開花して生き延びたのだった。 そんな事があって、人と関わるのはまだ少し怖いけど… いつか僕の様な存在を快く受け入れてくれるパーティに出会う為に、僕は頑張る! とりあえず、完結です! この作品もHOTランキングで最高8位でした。

料理がしたいので、騎士団の任命を受けます!

ハルノ
ファンタジー
過労死した主人公が、異世界に飛ばされてしまいました 。ここは天国か、地獄か。メイド長・ジェミニが丁寧にもてなしてくれたけれども、どうも味覚に違いがあるようです。異世界に飛ばされたとわかり、屋敷の主、領主の元でこの世界のマナーを学びます。 令嬢はお菓子作りを趣味とすると知り、キッチンを借りた女性。元々好きだった料理のスキルを活用して、ジェミニも領主も、料理のおいしさに目覚めました。 そのスキルを生かしたいと、いろいろなことがあってから騎士団の料理係に就職。 ひとり暮らしではなかなか作ることのなかった料理も、大人数の料理を作ることと、満足そうに食べる青年たちの姿に生きがいを感じる日々を送る話。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」を使用しています。

【短編】最愛の婚約者の邪魔にしかならないので、過去ごと捨てることにしました

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「ディアンナ、ごめん。本当に!」 「……しょうがないですわ。アルフレッド様は神獣様に選ばれた世話役。あの方の機嫌を損ねてはいけないのでしょう? 行って差し上げて」 「ごめん、愛しているよ」  婚約者のアルフレッド様は侯爵家次男として、本来ならディアンナ・アルドリッジ子爵家の婿入りをして、幸福な家庭を築くはずだった。  しかしルナ様に気に入られたがため、四六時中、ルナの世話役として付きっきりとなり、ディアンナとの回数は減り、あって数分で仕事に戻るなどが増えていった。  さらにディアンナは神獣に警戒されたことが曲解して『神獣に嫌われた令嬢』と噂が広まってしまう。子爵家は四大貴族の次に古くからある名家として王家から厚く遇されていたが、それをよく思わない者たちがディアンナを落としめ、心も体も疲弊した時にアルフレッドから『婚約解消』を告げられ── これは次期当主であり『神獣に嫌われた子爵令嬢』ディアンナ×婿入り予定の『神獣に選ばれた侯爵家次男』アルフレッドが結ばれるまでの物語。 最終的にはハッピーエンドになります。 ※保険でR15つけています

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜

はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。 目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。 家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。 この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。 「人違いじゃないかー!」 ……奏の叫びももう神には届かない。 家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。 戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。 植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。

天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します

バナナ男さん
BL
享年59歳、ハッピーエンドで人生の幕を閉じた大樹は、生前の善行から神様の幹部候補に選ばれたがそれを断りあの世に行く事を望んだ。 しかし自分の人生を変えてくれた「アルバード英雄記」がこれから起こる未来を綴った予言書であった事を知り、その本の主人公である呪われた英雄<レオンハルト>を助けたいと望むも、運命を変えることはできないときっぱり告げられてしまう。 しかしそれでも自分なりのハッピーエンドを目指すと誓い転生ーーーしかし平凡の代名詞である大樹が転生したのは平凡な平民ではなく・・? 少年マンガとBLの半々の作品が読みたくてコツコツ書いていたら物凄い量になってしまったため投稿してみることにしました。 (後に)美形の英雄 ✕ (中身おじいちゃん)平凡、攻ヤンデレ注意です。 文章を書くことに関して素人ですので、変な言い回しや文章はソッと目を滑らして頂けると幸いです。 また歴史的な知識や出てくる施設などの設定も作者の無知ゆえの全てファンタジーのものだと思って下さい。

処理中です...