163 / 294
Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
2.小さな村 ノドル
しおりを挟む蝶々の姿に戻ったサヴィアンヌとシーグは、木陰で退屈そうにこちらを見ている。
そりゃあ、蝶と狼はそれでもいいけれど、私は、よその村で、屋外で寝る訳にはいかないわよ。
宿屋らしき物は見当たらない。
国境から近くて、足場を整えるのに都合がよく、王都へ向かうにも、大神殿へ行くのにも、ハウザー城砦都市が便利なのだから、ここには住民のための小規模な商店しかないのは当たり前かもしれない。
細い山道が西へ伸びて、大きな街まで小さい集落が点在してるだけなのだ。
大神殿や王都役人の目を避けて移動するために、わざとこんな道を進むのだから、便利さや快適さは諦めている。
「サヴィアンヌの結界を期待して、途中で野宿した方がましかしら……」
あまりよそ者は通らないのだろう、たまにすれ違う村人は、みな、私を上から下まで見る。
国境からハウザー城砦都市を抜けて大神殿へ向かう街道の、瘴気や穢れ溜まりを順次浄化する計画があると聞かされ、領主館の奥に姿を隠しても、館の上空まで層を成すほど精霊に群がられる私は、どうしたって隠れようがない。
美弥子達が落ち着いた今、私が姿を現しても危害を加えられるかは判らないけど、美弥子を大事にする神殿側が、独断で何かして来るかもしれない。
また、美弥子達が精霊を扱う能力に目覚めているため、異常に精霊の集まる特異点は、容易に、必ず見つけられるだろう。
その時に、そこに居たのが私だった場合、どうなるのか判らないし、或いは、アリアンロッドを討伐や浄化に使うために、私は、今の生活を取り上げられるかもしれない。
どちらにしても、浄化も穢れ祓いもまだ出来ないし、神殿側と揉めたくない私は、一旦、ハウザー砦から離れることにした。
カインハウザー様もリリティスさんも、セルヴァンス・メリッサ夫妻(養父母)も、ロイスさん達衛士隊の人々も大反対だった。
まず、来月成人と見なされる歳(十五歳)でも、大抵の人に十歳前後と思われる(童顔東洋人だもん)外見と、精霊に好かれる体質は誤魔化しようがなく、どこへ行っても、悪い人や困ってる人に、攫われたり利用するために監禁されたり、縋って懇願されたりする可能性があると言う事。
特にあてもなく移動して、なにかあっても、ハウザー砦の外に知人もなく、この国の事をよく解っていない私ひとりを外に出すのは、危険なだけで無意味だと、誰もが反対したのだ。
しかし、精霊を隠す事は出来ないのと、美弥子達がこの訓練で、浄化能力に自信をつければ、私が大神殿へ連れて行かれて無理矢理アリアンロッドを訓練しなくても済むようになるかもしれない。
でも、私は、この世界で生きていくのなら、やはり、一部の貴族や特権階級に取り込まれないように注意しながら、瘴気の浄化や穢れ払いをしていくべきなのではないか。
そう思ったから、私は、この国を見にいきたいと申し出たのだ。
「アリアンロッドなら、私とカインハウザー様の両方の霊気を追えるはず。何処にいても連絡はとれます」
「しかし……」
《ワタシが守護してるノヨ。簡単な結界を張れるから、ちょっとした穢れなら弾くし、瘴気の気配は避けて通るようにするワヨ》
『人攫いや盗人なら、俺が追い払う』
サヴィアンヌとシーグがついて来てくれる。
それだけで、寂しくないし心強い。
「確かに、女王陛下の妖精魔法は、なまじな精霊魔術よりも頼れる凄いものではあるが」
《デショ? 任せなさいヨ。何も一生帰らないわけじゃないデショ? 自称巫女達が一斉浄化祭りやってる間、ちょっと世界を見て回るだけヨ》
「浄化祭り……」
《お祭みたいなモノじゃナイ? 国境から大神殿まで浄化して練り歩くんデショ?》
カインハウザー様もみんなも苦笑交じりで、否定も肯定も出来ずに肩を竦める。
「しかし、なんで、精霊達も妖精達も、大神殿の秘匿してる巫女を『自称巫女』なんて言うんでしょうね? 彼女達が詐称してる訳でもないでしょうに」
ロイスさんの疑問に、会議に出ていた誰もが答えを持っていなかったけれど、サヴィアンヌがしれっと答える。
《だって、アンタ達の言う、女神の祝福を受けて選定された巫女じゃないもの。どちらかと言うと、二千年前の、アルファリテ皇后に近いんじゃないカシラ?》
「陛下、その話は長くなるので、また別の機会に」
カインハウザー様が、サヴィアンヌにそれ以上話さないよう、意図的に会話を切る。
《ソウネ。今、ここで言う事でもなかったワネ》
カインハウザー様とサヴィアンヌ以外の人は、消化不良だったが、カインハウザー様がそれ以上話さないと決めた以上、誰も続けようとはしなかった。
「でも、ま、いいんじゃねぇか?」
「ドルトスさん?」
今日もソファを持ち込んで寛ぎ加減で参加していたドルトスさん。
カインハウザー様は眉を顰めた。
「妖精王と眷族の狼がついてんだ。アリアンロッドだってついてくだろうし、事、対人においては滅多なことにはならねぇだろ?
嬢ちゃんだって、知らねぇオジサンについてくほど子供じゃねぇだろうし」
ニヤリと笑みに口を歪め、大きな手で、私の髪をかき混ぜるように頭を撫でるドルトスさん。
「もちろんです。怪しい人にはついてったりしませんから。もう、子供じゃないです」
「ぃよし!」
眉根を寄せ考え込んでいたカインハウザー様は、意を決したように顔をあげると、
「わかった」
了承してくれた。
「主!?」
「この世界の事をよく知らない少女をひとりで旅に出すのは不安だが、シーグは番いだと宣言するほどだ、何があっても護るんだろう?」
『当然だ! 命に替えても!と言いたいところだが命に替えちまったらその後が護れねぇからな。
ふたりとも生きて、永く仲良く添い遂げるんだ』
そのシーグの宣言には、みんな生温かい眼を向け、ロイスさんだけが、不満げに眉を顰めた。
2
お気に入りに追加
2,701
あなたにおすすめの小説
異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜
はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。
目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。
家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。
この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。
「人違いじゃないかー!」
……奏の叫びももう神には届かない。
家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。
戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。
植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
異世界ってやっぱり異国よりも言葉が通じないよね!?
ピコっぴ
ファンタジー
《ファンタジー大賞にエントリー》
第12回ファンタジー小説大賞にエントリーさせていただきました。
これを機会に、初期の初心者な文法規則が守られてない部分を一部手直しします。
修正したらタイトルに⭐をつけます。
(本編に大きな変更はありません)
また、挿絵を入れてる回、追加した回には、タイトルに★をつけますね。
ラノベとかで見ると、大抵は異世界に召喚されたり転移しちゃっても、言葉、通じるよね?
しかも、勇者みたいなチート能力貰っちゃったりするよね?
どうしよう、周りの人みんなおっきいし、言葉も単語ひとつ解らないよ~
英語すらぼんやりな中年女(頭の中身は中二病レベル)には、異世界って異国よりもずっとずっと、コミュニケーションとれないのね……
結婚もした事なく子供も勿論居ないし、ちゃんと就職した事もなくて、実家でぼんやり過ごしてきた、そろそろ50手前(え?世間では初老に分類されるの?)の、夢見る子供のままオバサンになった女主人公が、異世界で、小柄童顔ゆえに子供と間違われて保護されて、可愛がられるけど言葉が通じなくて困ってるけど、概ね平和な日常を過ごす話……です。
ラブシーンはあるはずですが官能小説目指してませんので、過激な表現や濃厚な絡みを期待した人、ごめんなさいです。
世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない
猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。
まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。
ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。
財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。
なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。
※このお話は、日常系のギャグです。
※小説家になろう様にも掲載しています。
※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?
夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。
気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。
落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。
彼らはこの世界の神。
キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。
ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。
「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」
夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります
ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。
七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!!
初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。
【5/22 書籍1巻発売中!】
転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~
柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。
想像と、違ったんだけど?神様!
寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。
神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗
もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。
とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗
いくぞ、「【【オー❗】】」
誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。
「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。
コメントをくれた方にはお返事します。
こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。
2日に1回更新しています。(予定によって変更あり)
小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。
少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる