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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち

2.小さな村 ノドル

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 蝶々の姿に戻ったサヴィアンヌとシーグは、木陰で退屈そうにこちらを見ている。

 そりゃあ、蝶と狼 あなた達 はそれでもいいけれど、私は、よその村で、屋外で寝る訳にはいかないわよ。

 宿屋らしき物は見当たらない。
 国境から近くて、足場を整えるのに都合がよく、王都へ向かうにも、大神殿クロノポリスへ行くのにも、ハウザー城砦都市が便利なのだから、ここには住民のための小規模な商店しかないのは当たり前かもしれない。

 細い山道が西へ伸びて、大きな街まで小さい集落が点在してるだけなのだ。
 大神殿や王都役人の目を避けて移動するために、わざとこんな道を進むのだから、便利さや快適さは諦めている。

「サヴィアンヌの結界を期待して、途中で野宿した方がましかしら……」

 あまりよそ者は通らないのだろう、たまにすれ違う村人は、みな、私を上から下まで見る。



 国境からハウザー城砦都市を抜けて大神殿クロノポリスへ向かう街道の、瘴気や穢れ溜まりを順次浄化する計画があると聞かされ、領主館の奥に姿を隠しても、館の上空まで層を成すほど精霊に群がられる私は、どうしたって隠れようがない。

 美弥子達が落ち着いた今、私が姿を現しても危害を加えられるかは判らないけど、美弥子を大事にする神殿側が、独断で何かして来るかもしれない。
 また、美弥子達が精霊を扱う能力に目覚めているため、異常に精霊の集まる特異点は、容易に、必ず見つけられるだろう。
 その時に、そこに居たのが私だった場合、どうなるのか判らないし、或いは、アリアンロッドを討伐や浄化に使うために、私は、今の生活を取り上げられるかもしれない。

 どちらにしても、浄化も穢れ祓いもまだ出来ないし、神殿側と揉めたくない私は、一旦、ハウザー砦から離れることにした。

 カインハウザー様もリリティスさんも、セルヴァンス・メリッサ夫妻(養父母)も、ロイスさん達衛士隊の人々も大反対だった。

 まず、来月成人と見なされる歳(十五歳)でも、大抵の人に十歳前後と思われる(童顔東洋人だもん)外見と、精霊に好かれる体質は誤魔化しようがなく、どこへ行っても、悪い人や困ってる人に、攫われたり利用するために監禁されたり、縋って懇願されたりする可能性があると言う事。

 特にあてもなく移動して、なにかあっても、ハウザー砦の外に知人もなく、この国の事をよく解っていない私ひとりを外に出すのは、危険なだけで無意味だと、誰もが反対したのだ。

 しかし、精霊を隠す事は出来ないのと、美弥子達がこの訓練で、浄化能力に自信をつければ、私が大神殿へ連れて行かれて無理矢理アリアンロッドを訓練しなくても済むようになるかもしれない。

 でも、私は、この世界で生きていくのなら、やはり、一部の貴族や特権階級に取り込まれないように注意しながら、瘴気の浄化や穢れ払いをしていくべきなのではないか。

 そう思ったから、私は、この国を見にいきたいと申し出たのだ。

「アリアンロッドなら、私とカインハウザー様の両方の霊気を追えるはず。何処にいても連絡はとれます」
「しかし……」
《ワタシが守護してるノヨ。簡単な結界を張れるから、ちょっとしたけがれなら弾くし、瘴気の気配は避けて通るようにするワヨ》
『人攫いや盗人なら、俺が追い払う』

 サヴィアンヌとシーグがついて来てくれる。
 それだけで、寂しくないし心強い。

「確かに、女王陛下の妖精魔法は、なまじな精霊魔術よりも頼れる凄いものではあるが」
《デショ? 任せなさいヨ。何も一生帰らないわけじゃないデショ? 自称巫女達が一斉浄化祭りやってる間、ちょっと世界を見て回るだけヨ》
「浄化祭り……」
《お祭みたいなモノじゃナイ? 国境から大神殿まで浄化して練り歩くんデショ?》

 カインハウザー様もみんなも苦笑交じりで、否定も肯定も出来ずに肩を竦める。

「しかし、なんで、精霊達も妖精達も、大神殿の秘匿してる巫女を『』なんて言うんでしょうね? 彼女達が詐称してる訳でもないでしょうに」

 ロイスさんの疑問に、会議に出ていた誰もが答えを持っていなかったけれど、サヴィアンヌがしれっと答える。

《だって、アンタ達の言う、女神の祝福を受けて選定された巫女じゃないもの。どちらかと言うと、二千年前の、アルファリテ皇后に近いんじゃないカシラ?》
「陛下、その話は長くなるので、また別の機会に」

 カインハウザー様が、サヴィアンヌにそれ以上話さないよう、意図的に会話を切る。

《ソウネ。今、ここで言う事でもなかったワネ》
 カインハウザー様とサヴィアンヌ以外の人は、消化不良だったが、カインハウザー様がそれ以上話さないと決めた以上、誰も続けようとはしなかった。

「でも、ま、いいんじゃねぇか?」
「ドルトスさん?」

 今日もソファを持ち込んで寛ぎ加減で参加していたドルトスさん。
 カインハウザー様は眉を顰めた。

「妖精王と眷族の狼がついてんだ。アリアンロッドだってついてくだろうし、事、対人においては滅多なことにはならねぇだろ?
 嬢ちゃんだって、知らねぇオジサンについてくほど子供じゃねぇだろうし」

 ニヤリと笑みに口を歪め、大きな手で、私の髪をかき混ぜるように頭を撫でるドルトスさん。

「もちろんです。怪しい人にはついてったりしませんから。もう、子供じゃないです」
「ぃよし!」

 眉根を寄せ考え込んでいたカインハウザー様は、意を決したように顔をあげると、
「わかった」
了承してくれた。

「主!?」
「この世界の事をよく知らない少女をひとりで旅に出すのは不安だが、シーグはつがいだと宣言するほどだ、何があっても護るんだろう?」
『当然だ! 命に替えても!と言いたいところだが命に替えちまったらその後が護れねぇからな。
 ふたりとも生きて、永く仲良く添い遂げるんだ』

 そのシーグの宣言には、みんな生温かい眼を向け、ロイスさんだけが、不満げに眉を顰めた。


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