151 / 294
Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
113. 光の精霊はお花畑がお好き
しおりを挟む《綺麗な艶髪じゃないの》
なんとか、言葉を交わせる光の精霊達は、カインハウザー様のお屋敷の庭で、花壇を守護している人型の上級精霊。
でも、彼らは、お屋敷から離れたくないらしい。
《私は、リリティスの先祖と、この地を護ると約束したからね、君と新たに契約して、ついていく訳にはいかないね》
「そうですよね」
私は、カインハウザー様と同じく精霊に好かれるけれど、実は、契約した子は一人もいないのだ。
「精霊と契約ってどうやるんだろう……」
ラノベや漫画だと、何かをあげたり、名前をつけるってのがよくあるけど、こんな立派な精霊に、私が名前をつけられるとは思えないし。
《あなたのその髪、ツヤがあってとても綺麗じゃないの。他の人にはない色よ》
「そう、他の人と違うから同じにしたいの」
《勿体な~い》
《止めとけば? そのままが可愛いわよ》
この地から離れないという、リリティスさんのご先祖の姿を映した精霊以外のみんなも、乗り気ではないみたい。
後、交流のある光の精霊は、田んぼの向こうのお花畑で、瘴気の恐怖に打ちのめされた妖精達を癒すために頑張っている。
勿論、彼女達も、そのままの私がいいと言うだけで、契約してはくれそうになかった。
シーグは、私の番い宣言の後、屋敷内でシーグを撫でたいと言うメイド達を断り続け、小屋に戻った時に、リリティスさんにだけ少し撫でることを許す程度で、そのキッパリとした態度が、また乙女達の心に響いたらしい。人気はうなぎ登りだった。
いわく
「自ら番いと決めたフィオリーナ様だけに許すその姿勢と、一途な眼差し。格好いいわ」
とのこと。
屋敷の中でも街でも、小屋の中でもずっと狼の姿のままで、あの日みた青年の姿は気のせいだったのかと思うほどだ。
あの場に居たサヴィアンヌ、アリアンロッド、サヴィアとその他の精霊達以外、誰も、人間で、彼が幾つもの姿を持っているとは知らないままだ。
「今日も、誰も、契約してもいいって言ってくれなかったね」
本当に精霊に好かれるのか、不安になってきた。
私の望みを叶えるために、無茶したり暴走気味に動くという話はどうなったの?
『明日も畑や林に行くのか?』
「うん」
ムームーのような、頭から被る長い貫頭衣を寝間着に、ベッドに入る。
毛布を肩まで引き上げると、シーグは、お座敷犬のようにベッドに上がってきて、私の足元に、クロスに組んだ前脚に顎を乗せて横になる。
その巻いたお尻尾に、小さくなったサヴィアンヌが腿に凭たれるように埋まり、頭をシーグの背に乗せて、以前言っていたように、本当に、布団や枕にして休む。
妖精って眠る必要あるのかしら?と思ったけど、純粋な力の存在である精霊と違い、妖力と精気、森や地など属する性質の霊気を形にした幽体のような身体を持っていて、世界のマナや精気に反応して可視化・実体化するので、精霊眼を持っていなくても視える人は多いし、触れる事も可能である。
《それなりに、疲れたりするシ、寝ぼすけな種族なら、何年でも寝ちゃうワヨ》
……だそうだ。
言葉を交わせない基礎精霊達と、カインハウザー様はどうやって交流しているんだろう……
カインハウザー様とリリティスさんの花冠を不可視化しているのは、人型の精霊でも、カインハウザー様が契約している精霊でもない。
ただその辺に居た精霊に、花冠を盗られなくないから、見えなくして欲しいと言っただけだった。
精霊に話しかけるために、眼や脳の奥に魔力や霊気を集中させるので、この所すぐつかれるのだ。
布団に入るとすぐに、意識は遠い夢の世界に行きかけている。
リリティスさんに聞いただけで見てないけれど、さくらさんは、光の精霊と契約していて、小さくて蛍のようなものだけれど、それなりに力を持っていたとの事だった。
その精霊の能力を、美弥子とさくらさんで増幅して、あの辺り一面を浄化したのだという。
そんな力、私にはない……
やはり『聖女』の美弥子や『巫女』のさくらさんとは、私は違うのだろう。
明日は、何か、進展があるといいな……
*******
「シオリは、苦戦しているようだね?」
「ええ。精霊と契約出来ない、髪の見た目を変えて貰えないと嘆きつつも、精霊達の元へ日参しているようです」
精霊を視る事が出来ないリリティスには判らないが、シオリのまわりには、常に精霊がいる。
女神の祝福を持つ上、彼女自身の霊気や存在値が綺麗で、精霊達の気をひくのだ。
それは『聖女の再来』と言われた母の何倍もの量で、視る者がみれば、息苦しさを感じるほどだ。
馴れていないシオリは、敢えて視ようと意識しなければ、そばで声をかけてくる数体の精霊にしか気づかないようだが、彼女の頭上に堆く巻き上がり、まるで真夏の積乱雲のようだ。
「態々意識してはできないようだが。咄嗟のお願いは出来るのにね」
その辺りに気がつけばすぐだろうに。
「意地悪してないで、可愛い弟子にお教えすればいかがですか?」
ため息をついて、批難がましくこちらを見るリリティス。
「こういう事はね、まわりがどうこう言うより、本人が気づいて、身体で覚える方がいいんだよ」
「間に合えばいいですけどね」
確かに、巡礼者が増えてきたし、そろそろ愛し子ではないかという噂は立つかもしれない。
収穫祭──シオリの成人の祝いまであと少し。
間に合わなかった時の事も考えておかねばな。
我先にシオリの就寝を報せんとする精霊達がたくさん室内に飛び込んでくるが、視えないリリティスには、風が出て来たな、くらいにしか感じられないようだった。
2
お気に入りに追加
2,701
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜
はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。
目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。
家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。
この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。
「人違いじゃないかー!」
……奏の叫びももう神には届かない。
家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。
戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。
植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。
世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない
猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。
まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。
ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。
財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。
なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。
※このお話は、日常系のギャグです。
※小説家になろう様にも掲載しています。
※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。
異世界ってやっぱり異国よりも言葉が通じないよね!?
ピコっぴ
ファンタジー
《ファンタジー大賞にエントリー》
第12回ファンタジー小説大賞にエントリーさせていただきました。
これを機会に、初期の初心者な文法規則が守られてない部分を一部手直しします。
修正したらタイトルに⭐をつけます。
(本編に大きな変更はありません)
また、挿絵を入れてる回、追加した回には、タイトルに★をつけますね。
ラノベとかで見ると、大抵は異世界に召喚されたり転移しちゃっても、言葉、通じるよね?
しかも、勇者みたいなチート能力貰っちゃったりするよね?
どうしよう、周りの人みんなおっきいし、言葉も単語ひとつ解らないよ~
英語すらぼんやりな中年女(頭の中身は中二病レベル)には、異世界って異国よりもずっとずっと、コミュニケーションとれないのね……
結婚もした事なく子供も勿論居ないし、ちゃんと就職した事もなくて、実家でぼんやり過ごしてきた、そろそろ50手前(え?世間では初老に分類されるの?)の、夢見る子供のままオバサンになった女主人公が、異世界で、小柄童顔ゆえに子供と間違われて保護されて、可愛がられるけど言葉が通じなくて困ってるけど、概ね平和な日常を過ごす話……です。
ラブシーンはあるはずですが官能小説目指してませんので、過激な表現や濃厚な絡みを期待した人、ごめんなさいです。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
転生したら死にそうな孤児だった
佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。
保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。
やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。
悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。
世界は、意外と優しいのです。
夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります
ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。
七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!!
初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。
【5/22 書籍1巻発売中!】
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる