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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

91.アリアンの実践訓練①

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 特に観光するものもなく、国境近くの小さな砦街なので、巡礼の人や旅行者、隣国から王都へ行く商人が足場を整えるために一晩泊まるくらいしか用はないので、宿屋もふたつしかない。

 1つは、観光や商用で街道を通過する人たち向けの、普通のお宿。
 北門の近くにあり、酪農家の家族が兼業で営んでいる。

 もう一つは、巡礼の人や大神殿へ行く聖職者の泊まるお宿。北門から街中への途中にある。
 これは、どちらかというと、日本で言う宿坊に近いもので、王都から派遣されている神官が、小さな教会と宿舎を維持している。

 王都からの補助金と、街の外の畑、庭の家鶏と山羊で自給自足しているらしく、巡礼者や神殿関係の人達は、こちらに無料か安価で泊まるそう。

 件の巡礼者は、こちらに泊まっているはず。
 巡礼者用の手形で、国境や街門を通るし、何日もかけての大巡礼に、よほどのお金持ちでなければ、町の教会や神殿の宿坊を利用するものらしい。

 教会で出る賄い食を何人かが食べているのが、窓から見える。
 カインハウザー様と、精霊の加護のある衛士数人で、様子を見に来たのだ。

《大丈夫じゃナイ? さっきより穢れが増えてるって事はなさそうヨ》

 サヴィアンヌの言葉を信じ、一応突発の事態のために、教会のまわりを衛士で監視する事になった。



 衛士を残し、カインハウザー様との帰り道。

《シオリ。アリアンの成長を試してみない?》
「え? なあに? いきなり」

 カインハウザー様の前に座らされ、ゆっくりと馬に揺られていると、突然、サヴィアンヌが提案してきた。

「女王陛下?」
《アソコ。シオリと仲のいいオヤジさんの鍛冶屋の入り口付近》

 言われてみると、陽もだいぶ傾き、暗くなってるけれど、鍛冶屋はまだ何かを打っているのだろう、灯りがもれ、鎚打つ音が聴こえる。

「穢れ溜まりか……」
《あの巡礼者の気配も残ってるワ。ここで、中を見てたんじゃないカシラ?》
「アリアンに、祓わせるの?」
《ソウネ。あそこに溜まってるのは、嫉妬、勝ちたいという競争心。本人も、何かモノを作る職人なんじゃないカシラ?
 オヤジさんの作業を見て、純粋な感心と、自分より技術の高い者への嫉妬、追いつき超えたいという向上心。
 そう言った感情が、穢れとともに残ってる。
 瘴気になるにはだいぶかかるケド、あのままアソコにあり続けタラ、オヤジさんの健康や精神に影響が出るかもしれないワヨ》

 サヴィアンヌは、彼女にとって本当にどうでもいいかのように、感情の色が見えない声で言い放った。

「ど、どうすれば……」
《先日の、アリアンの光の霊気弾。アレを叩き込んでみて。シオリが女神の力を代行できないんなら、それが一番早いワヨ》

 馬から降りて、穢れを確認しながら、カインハウザー様が確認してくる。
「シオリに負担がかかるのでは?」
《活動してる瘴気を弱体化させた時ほどじゃないワヨ。もし魔力消費量が調整出来なくても、シオリが昏倒する前に、ワタシが止めるワヨ》
 それくらいはするワ。

 そう言って、蝶々の姿から、女王様の等身大に変身する。

 カインハウザー様に脇の下に手を差し込み支えられて、抱き上げるように馬から降ろしてもらう。

《それとも、最初の時のように、セルティックが同調して、マナや魔力を供給しながら、消費量を調整スル?》
「それでいこう」

 即答だった。






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