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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
63.妖精王と狼犬⑨
しおりを挟む「どこって……少し散歩ですけど」
「シオリが三食は食べられそうな、たくさんの食品を持って出たと聞いたが……」
だら~っと背に冷や汗が流れそう。
──嘘は言わない、言えない事は黙ってる。
再確認してから、カインハウザー様の目をみる。
「あのね、その……お友だちになって欲しい人がいて、会える場所に、日参してて……」
「そうか! わたしやリリティス、ノル爺さん達とばかり一緒にいてて、交友の幅が狭いことを心配してたんだが、友達が出来そうか!」
安心されちゃった…… いいのかな。嘘じゃないもん。いいよね。
「リリティスさんはもう起きられましたか?」
「どうかな? 小屋からはまだ出て来てないね」
「えっ まだ寝てるんですか?」
もう、お昼まわったんだけど。
「カインハウザー様は様子を覗きづらいでしょうから、見てきます!」
女性の寝姿を堂々と覗けないだろうし、いくら何でも遅すぎないかしら。
カインハウザー様を置いて、駆け出した。
商業施設街を抜け、住宅街を抜け、領主館の丘が見えて来た。
石垣のはね橋型の扉が下がってるので、門守に挨拶もそこそこに、日時計や花畑、リリティスさんの小屋がある南向きの庭園に向かう。
「リリティスさん……?」
扉をそっと開く。鍵は、かかってない。
本当は、鉄の鍵を差し込んで回すシリンダー錠がついてるけど、眠ってるリリティスさんのために、鍵はかけずに、サヴィアンヌが、私かカインハウザー様以外の人間では扉が開かない封印をかけてくれたので、そのまま出てきたのだ。
テーブルの上に、丁寧な文字で、メモが残されている。
〖リリティスへ〗
妖精王の癒しの魔法が完了するまで眠り続けるらしいから、今日はそのまま休みなさい。
仕事は気にしなくていいから、今日も含め三日間、シオリとゆっくりしなさい。
Celtic
このメモがまだあるってことは、まだ寝てるのかしら。
戸棚の向こう側へまわると、ベッドの上でぼーっと、上半身だけ起こしてるリリティスさんがゆっくり、こちらを向いた。
「私、なんで……」
頰に伝う涙を手で触れ、不思議そうにしている。
「シオリ。リリティスの様子はどうだ?」
「あ、とりあえず起きたところのようです」
中には入って来たようだったけど、女性の寝起きだからこちらへはまわらずにいるみたい。
近寄ると、ぷるると震えたリリティスさんが、私を引き寄せ、ぎゅっと抱き締めた。
「ごめんなさい。よく解らないんだけど、なんだか……おかしいのかしら? しばらく……」
きゅうきゅうと締めつけるように、溺れる人がしがみつくように、抱き締めてきた。
「えっと、なんかね、サヴィアンヌの昨夜の魔法、いっぱい夢を見て、心の中の澱を涙で流し出す事で癒しが完了するものらしくって、リリティスさん、お疲れだったのね」
肩をぽんぽんタップして、泣き続けるリリティスさんを落ち着かせるように、抱き返す。
「夢を見たのか思い出せないんだけど?」
「私もそうだったの。でも、スッキリよく寝た気がしたの」
「うん。こんなに頭の中さっぱりしてて、体も軽い目覚めって初めてかも……」
《盛大に感謝して、崇めてくれてもいいノヨ?》
胸を張り反っくり返って、サヴィアンヌが鼻高々な様子で、羽衣から女王さまの姿に戻った。
「失礼? 女子トーク中邪魔するけど、リリティスとシオリは、今日から三日間休みにしたから、ゆっくりしてくれ」
「えっ あ、主? 休みって……」
「こっちは大丈夫だから。たまには休みもいいだろう? 何も考えずしたい事をしてくれ」
言うだけ言って、リリティスさんに反論する隙も与えず、カインハウザー様は帰っていった。
「……だ、そうですよ? 私も、何していいのかわからなくて、本を借りて、散歩してました」
弱々しくゆったりとした動きで、私を離す。
揺れる眼をしたリリティスさんに、カインハウザー様のメモを手渡した。
「主…… 主こそ、休んで欲しいのに」
「そうですよね! ね、今から、2人で領主館を襲撃して、カインハウザー様を連れ出しちゃいましょうか?」
秘書官のリリティスさんが休んでも問題ないという事は、きっとカインハウザー様も、休んでも大丈夫かもしれない。
「シオリ」
「はい」
「それ、面白そうね?」
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次回、Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
64.妖精王と狼犬⑩
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