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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
40.⭐恩人への、初めての隠し事④
しおりを挟む私の手の甲をひと舐めして、狼犬は、再び目を閉じてしまった。
私がそばにいても、休んでくれる。
やっぱり、仲良くなりたい。
いつもポシェットに入れっぱなしにしている豚毛のブラシを取り出し、そっと、頭から首の後ろ、エプロンを巻いた背中まで梳き下ろしてみる。
耳が羽虫かゴミを払うように、ピッ、ピッ、ピクピクと動く。
──可愛い。
怪我の手当もさせてくれたし、ブラッシングしても嫌がらない。
このまま、仲良くなれるかしら。
《セルティックに言わないの?》
「なんて? 私を助けたために体調を崩して、更に怪我をしたから、手当てしました。命の恩人だし、仲良くなりたいので、このまま街に連れ帰ってもいいですかって?」
《えっ? シオリ、この犬を連れて帰りたいの?》
「うん。大きくて、優しくて可愛い犬をずっと飼いたかったの」
《大きいはともかく。優しいかどうか、解るの? 可愛いかしら? コイツ》
首を傾げながら、狼犬を見下ろすサヴィア。
彼女は、自分が面倒を見ている畑に糞を埋めていき、彼女の祝福した野菜には手を出さない(自分の仕事が評価されない気になるらしい)この子を、恨んでるとまではいかなくても、好いてはいない。
「可愛いわ。ずっと仲よくしたかったのよ。怪我が治ったら、もっとブラッシングして、撫でてあげたい。元気に食べるところも見たいし、野山を走るところも見たい。玩具を用意して、遊んでみたいの。
……ずっと、ずっとそばにいてくれる、私の家族が欲しいの」
《家族が欲しいなら、何も犬じゃなくてもいいと思うけど……》
そう言いながらも、否定はしないでくれた。
《連れて帰るにしても、こんなに大きいのよ? 怪我が治って自分で歩いてもらわないとね》
いいながら、サヴィアはいつも畑のお芋の花にするのと同じ祝福を、狼犬にしてくれた。
《私の祝福は、成長を促進させるものよ。植物以外にも効くかはやったことないから解んないけど、傷が早く治るかもしれないし、体に入った玻璃梼薬樹の効果が高くなるかもしらないからね》
ああサヴィアったら、なんてツンデレさんなの。胸を張って顎を高く反り返って横を向いてるけど、褒めて欲しいのか、鼻と耳がひくひく動いて、こちらを意識してるのが判る。
「サヴィア、なんて優しいの!
畑のことで、この子のことよく思ってないでしょうに…… ありがとう」
サヴィアを両手で包み、胸に当てて感謝する。
《や、だから、苦しいって》
手の中でジタバタするサヴィアを解き放つ。
「ごめんね。感激したから、つい」
《つい、で殺されちゃたまんないわ》
ツンと顎を突き上げて、自分の受け持つ畑の方に飛んで帰ってしまった。
もちろん、一般的な生物のカテゴリーとは外れた存在の妖精であるサヴィアが、多少息苦しい状態にされたからと言って窒息死する事はない……と思うけど、息苦しい思いをさせたのは本当なので、後でちゃんと謝った。
「ねえ、なにか食べる?」
人間の食べ物は、味が濃いとか塩分とかだめかしら……
お弁当のバスケットの中に入っているのは、アボカドっぽいクリーム状の果実のスライスと山猪のベーコンのサンドイッチと、川魚のムニエル風香草焼き、コルクで閉じられた瓶に柑橘と蜂蜜のスープが入っていた。
サンドイッチから、ベーコンを1枚抜く。
畑から野菜を盗るのであるいはベジタリアンかもしれないので、ドレッシングがかかってない部分の野菜も取る。
バスケットからお皿を出して、ベーコンと、メディ菜とキャラハンの千切りをのせて、そっと差し出してみる。
ふんふん嗅ぎ、チラッとこちらを見る。が、食べなかった。
「毒になるものは入ってないと思うけど……」
葱類は犬や猫は中毒を起こすって聞いた事あるけど、確かキャベツは好物だって犬もいたはず……
ここのキャラハンと、キャベツが同じかどうかは判らないし、犬も同じ体質かどうかは判らない。
一応、毒を盛る気もないし、欺したり意地悪したりする気はない事を表すために、狼犬の前で、バスケットから出して、すぐ口にする。
「美味しいよ? ねえ、狼犬って犬と同じ雑食でいいの? 猫みたいに肉食なのかな?」
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次回、Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
41.恩人への、初めての隠し事⑤
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