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Ⅰ.納得がいきません

31.目立たないって難しい⑯

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 私の作った、花冠と、カインハウザー様の胸ポケットにはコサージュ、リリティスさんの手首には腕輪が、摘んで何日も経ってるのに、ピンシャンして綺麗に咲き誇ってます。
 不思議なことに、花びらが落ちたりカサカサになったりしないで、摘みたてのままの状態を保っているのだけど。

 実は、守護や補助の加護がついているからと毎日身につけている……のでツラい。
 日本人一般人としては、はずか死ねる。

 けど、街の人々に見えているのは、カインハウザー様は胸のコサージュだけ、リリティスさんは腕輪と冠の一部(大輪の花一輪)だけなのだ。


「せっかく、シオリが作ってくれた護符だ。毎日身につけるよ」
「え、ちょっ、カインハウザー様? あの、冗談ですよね?」
「わたしは嘘は言わない。ゆえに、本当に毎日身につけるよ?」
「で、でも、成年男性が! お花を飾って歩くのって、悪目立ちしませんか?」
 なんとか、阻止したい。私の手作り花冠を、毎日つけて歩き回るって冗談にも程がある。

「大丈夫。あると識ってないと見えないようにするから」
「は?」

 それはそれは爽やかに微笑まれると、カインハウザー様はご自身の周りにいる光の精霊に語りかけ、コサージュはそのままでいいからとりあえず花冠だけ、周りから見えないようにと、光の屈折率を変えさせていた。

「せっかくシオリが作ってくれた護符だ。自慢して歩きたいのはやまやまなんだけど、羨んだ誰かに盗られると困るだろう? 特に男性はみな花盗人と言うからね、誰にも見えないように……出来るよね?」
 である。

 花盗人って、そういう意味じゃなかったと思うけど…… この世界でも同じじゃないのかな。
 花を手折る、丹精された庭から軽い気持ちで一枝盗む不心得者とか、そういう……
 何かの隠語で、遊び人な男性の軽薄さに当てる人もいたかな? でもそれだって違うような。

 精霊達はそんな事どうでもいいとばかりに、光や闇の精霊達が花冠の周りを回り、光の屈折率を変えて、そのままカインハウザー様やリリティスさんの頭が透けて見え、次第に薄くなって、意識しなければ花冠を見ることは出来なくなってしまった。

「私は、この左斜め前にある一輪だけは、飾りとして残して欲しいかな?」

 リリティスさんの言葉に従った訳ではなくても、カインハウザー様の願いの内なので、聞き入れられたようである。

「あの、私の冠は?」
「「似合ってる」わよ」
「え? でも、目立つし、盗られるかもって言うならこれだって……」
 自分の頭に飾られた、リリティスさんのお手製花冠にそっと触れる。

「どうしても隠したいのなら、シオリが自分で精霊に頼むといいよ。シオリの頼みなら、聞いてくれるさ」
 爽やかに、どこか意地悪さも感じるけど気のせいかな、カインハウザー様は微笑んでアドバイス? してくれた。

 仕方なく、自分の周りに漂うほわほわした魔力や霊力の塊のような精霊達に頼んでみるも、無視……された訳ではなく、くるくるまわって反応はしてくれるけど返事はなく、花冠も消えたりしなかった。

「妖精さんほど、意思の疎通は楽じゃないのね」

「精霊にも色々あるさ。
 純粋な属性の力だけの存在や、年古りて個性や感情を持つようになったもの、神に近い存在にまで魔法を極めたもの……」

 その姿も多種多様で、触れない霧や靄のような見た目の力の塊であったり、シルエット的な形だけ持ったもの、明らかに人や動植物の形を象ったもの。
 色も、単色の光、グラデーションからマーブル、象ったものは色分けされていて普通にそのものらしい本物と見分けがつかない見た目のものもいるらしい。

「今なら、子供がお気に入りの花冠を被っているだけに見えるさ」
「幾つの子供に見えているのか も 気になりますけど……聞かない方が良さそうですね」
 ふたりとも初対面では、10歳くらいと思ったとか、自分の半分くらい(カインハウザー様は22歳)だとか言ってたもの、きっと街の人達もお屋敷の人達も、似たようなものなんだろう。

    仕方なく、今日まで花冠を披露しながら街を歩くことになっているのである。


 * * * * *


 私の花冠と、リリティスさんの腕輪と、カインハウザー様のコサージュに、共通して差し込まれている立浪草タツナミソウやローズマリーのようなシソ科の花に似ている小さな白い花にはそれぞれ、小指の爪に座れるサイズのちっちゃな女の子が住んでいる。

 元々同じ親株から根分かれした子株に生まれた姉妹妖精なんだそうで、色んなものに興味があるからと、私たちの今や護符と化した花飾りに住み着いてついてきた。
 だからこそ、花冠もコサージュも腕輪も、枯れないのである。妖精や精霊の魔力やマナを糧に咲き続けているらしい。種を残す必要もないので、結実もしない。

 同じ親株から分かれた姉妹なので、少しだけ離れていても意思の疎通が出来るらしい。

 もちろん、妖精は、勤勉で永劫『魔法』を営むのが存在意義の精霊とは違い、気紛れで、基本、興味のあることにしか目を向けない。

 でも、カインハウザーさまの精霊に好かれる体質が、妖精にも、軽いフェロモンのように気になって仕方がないらしい。

「もちろん、わたし達と一緒に来るのは大歓迎だよ。可愛い子が増えるのは嬉しいね。
 君達なら、同じ親株から分かれた姉妹なら、少し離れても会話は出来るんだろう?
 たまにでいいから、わたし達が呼んでいる、とか何かあって困っている時に、三姉妹で伝え合って貰えるかな?」

 最初は面倒臭そうな顔をしていたけれど、一番小さい、私についてる子が、頰を染めて、
《ま、まあ、セルティックに頼まれちゃ、イヤとは言えない……かな。たまに、たま~によ? 気が向いたらね!》
次第に胸を張って請け負った。

《あ! 三鈴ズトリリーン ルい!》
《私も、セルティックがどうしてもと言うなら、やってあげてもいいわ》
一鈴まヘンリーン で!》
《なによ二鈴ジリーンだってやってあげればいいじゃない》

 そんな姦しい妖精さんのおかげで、多少離れても緊急時に連絡が取れるとあって、カインハウザーさまの領主としての業務が忙しい時でも、ひとりでの私の行動範囲は広がった。


 *****


 早朝の畑仕事のあと、畑の端で朝食を摂り終えると、リリティスさんを伴ってカインハウザー様は領主館へ戻った。

「畑が見えなくなるほど遠くには行かないようにね。まだ、例の狼も捕まってないし」
 カインハウザー様は念を押していく。

 私は素直に頷くと、ふたりを見送った後、三姉妹の生まれた花の咲く花畑のある丘に向かった。



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次回、Ⅰ.納得がいきません

32.ここはどこ? 目立たないって難しい⑰
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