上 下
251 / 263
誰の手を取ればいいの

62.フレイラの手紙

しおりを挟む

「ちょっと前のシスと同じね」
「わたくしはここまでは⋯⋯」
「当事者以外にとっては同じよね」

 フレイラからの手紙の内容は、確かに前半は、システィアーナが言うように、レースを売り込んだ過程や結果の報告だ。
 デュバルディオは中々の条件を勝ち取ったようだ。

 ただ、後半のフレイラからの個人的な通信内容は、システィアーナ達三人が困惑するに充分だった。


 デュバルディオ様はとても紳士で⋯⋯
 デュバルディオ様は二国間の王家の出自ながら尊大な態度は取らず、知性的に話を進め⋯⋯
 デュバルディオ様は⋯⋯

「ま、いいんじゃないの? アレクお兄さまから、デュー兄さまに興味が移っただけじゃない?」
「て言うか、元々、アレクお兄さまに近づいたのは公爵の指示で、本人の意志じゃなかったんでしょうね。
 今、身近に居て『紳士的に』優しくしてくれたり、対人関係になれていない深窓のお嬢様には驚きの外交手腕なんかは、格好良く映ったんでしょうね」
「初恋だったりして?」
「まだ、そうと決まった訳では⋯⋯」

 と言いつつ、システィアーナにもそうだろうと思えた。

 とにかく、デュバルディオを褒めちぎるその文章は、外交会談のレポートや交流のあまりない令嬢への私信の域を越えていると思われた。

 でも、その文からは本当にデュバルディオの良さを誰かに聞いて欲しいと言う素直な気持ちはとてもよく感じられる。

「こういう気持ちは、誰にも止められないし、批難することでもないわ。そっとしておきましょう」
「そうね。譬え、フレイラ嬢がデュー兄さまと結婚したいって言い出しても、公爵が認めないでしょうし」
「どうして? いいお話なのでは?」

 システィアーナの言葉に、姉妹二人は絶句する。

「シス、冷たい」
「え? どうして? 応援するとまではいかなくても、静観してもいいんじゃないのと言って、どうして冷たいになるの?」
「あ~あ、これはダメね」
「デュー兄さま可哀想」
「え?」

 姉妹は肩をすくめ、首を振る。

「少なくとも、エステルヴォム公爵は野心家だから、アレクお兄さまの正妃を狙っていたんでしょうし」
「ハルサムとしては、デュー兄さまには王位継承権がないんだから、よしとは言わないんじゃないかしら」
「そんな⋯⋯心惹かれていらっしゃるようなのに可哀想」
「そうね。デュー兄さまも、シスに求婚してるのに、そのシスからフレイラ嬢と良縁だとか言われたら、立つ瀬がないんじゃなくて?」
「⋯⋯あ」

 そう。デュバルディオは、どこまで本気なのかはわからないが、システィアーナの婿になれるよと立候補した男性である。

 そのデュバルディオに別の人物が熱を上げ、結婚を希望したとして、それをいい話だとか言うのは、システィアーナの中でデュバルディオへの婚姻相手としての意識が希薄な証明でもあり、かつそれを人前で言ってしまうのは、婿になる事を希望するというデュバルディオに対し失礼でもある。

「あの、ごめんなさい。そんなつもりじゃ⋯⋯」
「ワザとじゃなくて無意識ならなお悪しね」
「デュー兄さまとは結婚したくない?」
「そんな事ないわ。ホントよ」

 リングバルドとコンスタンティノーヴェルの両王家に縁が出来、本人も優秀で人物もいいとあっては、断る理由などない。 

「じゃ、デュー兄さまを婿取りする?」
「⋯⋯」
「即答できなきゃ、そういうことなんじゃない?」
「ま、貴族令嬢として政略結婚と思って、アレと結婚するよりかはずっと、お兄さまの方がいいんじゃない?」



「⋯⋯っクシ」
「まあ、デュバルディオ殿下、お風邪を召される予徴でしょうか? ここはコンスタンティノーヴェルよりも寒いですから、首元や頭部を暖かくしなくてはいけませんわ」

 まさか妹達にアレオルギュストよりはましと言われているとは思わないデュバルディオは、可愛い妹とシスティアーナのために、ずっと離れずついて歩くフレイラを連れて婦人方に人気の店へ行き、愛しい妹達や再従はとこ叔母おばが喜びそうな土産を選んでいた。




 ❈❈❈❈❈❈❈

ちょっと可哀想なデュバルディオの明日はどっちだw


近況報告にも書きましたが、恋愛小説大賞にエントリーしました。
枯れ葉も山の賑わい程度ですが、煮詰まった時に気分転換に書いていた作品も、昨日から新作として公開しました。

よければ、応援メッセージよろしくお願いします(*´꒳`*)


しおりを挟む
感想 163

あなたにおすすめの小説

言い訳は結構ですよ? 全て見ていましたから。

紗綺
恋愛
私の婚約者は別の女性を好いている。 学園内のこととはいえ、複数の男性を侍らす女性の取り巻きになるなんて名が泣いているわよ? 婚約は破棄します。これは両家でもう決まったことですから。 邪魔な婚約者をサクッと婚約破棄して、かねてから用意していた相手と婚約を結びます。 新しい婚約者は私にとって理想の相手。 私の邪魔をしないという点が素晴らしい。 でもべた惚れしてたとか聞いてないわ。 都合の良い相手でいいなんて……、おかしな人ね。 ◆本編 5話  ◆番外編 2話  番外編1話はちょっと暗めのお話です。 入学初日の婚約破棄~の原型はこんな感じでした。 もったいないのでこちらも投稿してしまいます。 また少し違う男装(?)令嬢を楽しんでもらえたら嬉しいです。

婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!

桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。 令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。 婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。 なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。 はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの? たたき潰してさしあげますわ! そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます! ※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;) ご注意ください。m(_ _)m

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

継母と妹に家を乗っ取られたので、魔法都市で新しい人生始めます!

桜あげは
恋愛
父の後妻と腹違いの妹のせいで、肩身の狭い生活を強いられているアメリー。 美人の妹に惚れている婚約者からも、早々に婚約破棄を宣言されてしまう。 そんな中、国で一番の魔法学校から妹にスカウトが来た。彼女には特別な魔法の才能があるのだとか。 妹を心配した周囲の命令で、魔法に無縁のアメリーまで学校へ裏口入学させられる。 後ろめたい、お金がない、才能もない三重苦。 だが、学校の魔力測定で、アメリーの中に眠っていた膨大な量の魔力が目覚め……!?   不思議な魔法都市で、新しい仲間と新しい人生を始めます! チートな力を持て余しつつ、マイペースな魔法都市スローライフ♪ 書籍になりました。好評発売中です♪

異母妹が婚約者とこの地を欲しいそうです。どうぞお好きにして下さいませ。

ゆうぎり
恋愛
タリ・タス・テス侯爵家令嬢のマリナリアは婚約破棄を言い渡された。 婚約者はこの国の第三王子ロンドリオ殿下。その隣にはベッタリと張り付いた一つ違いの異母妹サリーニア。 父も継母もこの屋敷にいる使用人も皆婚約破棄に賛成しており殿下と異母妹が新たに結ばれる事を願っている。 サリーニアが言った。 「異母姉様、私この地が欲しいですわ。だから出ていって頂けます?」 ※ゆるゆる設定です タイトル変更しました。

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで

あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。 怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。 ……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。 *** 『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』  

もう愛は冷めているのですが?

希猫 ゆうみ
恋愛
「真実の愛を見つけたから駆け落ちするよ。さよなら」 伯爵令嬢エスターは結婚式当日、婚約者のルシアンに無残にも捨てられてしまう。 3年後。 父を亡くしたエスターは令嬢ながらウィンダム伯領の領地経営を任されていた。 ある日、金髪碧眼の美形司祭マクミランがエスターを訪ねてきて言った。 「ルシアン・アトウッドの居場所を教えてください」 「え……?」 国王の命令によりエスターの元婚約者を探しているとのこと。 忘れたはずの愛しさに突き動かされ、マクミラン司祭と共にルシアンを探すエスター。 しかしルシアンとの再会で心優しいエスターの愛はついに冷め切り、完全に凍り付く。 「助けてくれエスター!僕を愛しているから探してくれたんだろう!?」 「いいえ。あなたへの愛はもう冷めています」 やがて悲しみはエスターを真実の愛へと導いていく……  ◇ ◇ ◇ 完結いたしました!ありがとうございました! 誤字報告のご協力にも心から感謝申し上げます。

お前は名前だけの婚約者だ、と言われたけれど、おかげで幸せになりました。

あお
恋愛
厳しい選考会を経て第一王子の婚約者に選ばれた侯爵家令嬢シェリアーナ。 王宮での顔合わせの日、王子はお気に入りの侍女を抱きながら、 「お前は名前だけの婚約者だ。愛する人はイリアだけ。俺たちの邪魔をするな」 と言った。

処理中です...