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誰の手を取ればいいの
52.手を⋯⋯
しおりを挟む自分の膝に、麗しの王太子殿下の頭が乗っている。
世の女性達が羨ましがる状況なのだろうが、自分はそれどころではない。
真下──膝の上にある、光や体温、体調などで色の変わる不思議な双眸が、見上げてくるのだ。
いつもは、俯せ気味にゆっくりと頭を乗せると、横──システィアーナの身体の反対側を向いて寝るので、目は合わない。
だが、狭い馬車の中、下にクッションを敷いて膝を折り、仰向けになっているので、目を閉じないと視線が合うのである。
「な、長い御御足ですね」
「意外だった? ふふ。いつも隣に長身で腰の位置も高く足の長いファヴィアンがいるから、僕は背が高くなくて足もそんなに長くないように見えるだろうからね」
「そっ、そんな事は⋯⋯」
「事実、ティアやミア、辛うじてデュバルディオよりかは身長は伸びたけれど、エルネストやフレックよりかは低くて、あまり高い印象はないはずだよ」
その通りである。
一九〇㎝以上あるファヴィアンは元より、一八〇㎝台半ばのエルネストやフレックより拳ひとつ分は低いかもしれない。
「ファーは私達から見ればのっぽ過ぎなんですわ。フレックやデュオ、殿下くらいが目を合わせて会話はし易いんですのよ。エル従兄さまも長時間、立って話すと首がおかしくなりそうですから」
「そうなんだ?」
「ええ。それに、のっぽのファーと歩いていると、メルティやリアナは親子みたいになってしまいますわ」
「⋯⋯親子」
それまで黙って聴いていた、寡黙なファヴィアンがポツリともらす。
「ティア」
「はい?」
「ファヴィアンはファーなのに、デュオやフレックって呼ぶのに、今、ここは公の人目のある場所じゃないのに」
「え、と」
「ティア?」
「はい。⋯⋯あの、」
「ティア?」
「⋯⋯お休みなさいませ、アレクサンドル殿下」
「おやすみ、ティア」
ふわっと微笑んで、そっと眼を閉じるアレクサンドル。
サラサラの髪を少し整える。
「ティア」
目を閉じたまま、呼びかけてくる。
髪を整えたのがいけなかったのか?
ドキドキしていると、胸に乗せた両手の右手を掲げる。
「手を」
手?
目を閉じたまま、右手を再度くるりと回して促してくる。
「先日と同じように、仮眠の間、邸に着くまで手を握っていてくれないかな」
人肌の温もりが緊張を和らげるのは解るので、頷く。馬車の中で寝づらいのを、身体の緊張を和らげることで休みやすくなるのだろう。
そっと、眠るのを邪魔しないように、力を入れずに柔らかく握った。
そこで、メリーやファヴィアンがいるのを思い出して少し恥ずかしくなったが、自分の為に仮眠の時間を割いて送ってくれるのだからと、耐えて早く侯爵邸に着くことを願った。
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