上 下
242 / 263
誰の手を取ればいいの

53.癒やす存在

しおりを挟む

 手触りのよいサラッと流れる黄金の髪。

 同じ兄妹でも、ユーフェミアの髪は柔らかくうねりがあり指に絡ませやすいが、アレクサンドルの髪は、ひんやりと冷たくさらりと逃げていく。
 ユーフェミアは柔らかくて煌めくミルクブロンドだが、アレクサンドルは正しく黄金の、と言える艶のある金細工のような色でストレートに近く、子供の頃祖父にもらった児童書にある太陽のきらきら王子の姿そのものに見える。

(本当に、綺麗でため息の出るお姿のご兄妹だわ)

 勿論、フレキシヴァルトも金髪だが、僅かに赤味があって、暗い場所では赤茶に近いダークブロンドに見える。
 クリスティーナ妃の産んだデュバルディオとアルメルティアも金髪だが、リングバルドの血が半分入っているせいか、琥珀か蜂蜜のような濃い色の真っ直ぐな髪質だ。
 アルメルティアはやや赤味が入ってオレンジっぽくもある。

 コンスタンティノスの血が入った女性には赤味が強く出る傾向にあり、五代前の女王ブランカから引き継がれる色であった。
 祖父ドゥウェルヴィア公爵は、正妃であった母親も王族の遠縁だったせいか、金紅色の、磨き上げられた銅器のような髪色だ。六十代になった今でも白髪は殆どなく、赤みが強い濃い金茶の頭髪が、実年齢より若々しく見せる。

 トーマストルとフローリアナも淡い蜜色のホワイトブロンドで、ユーフェミアとフローリアナには赤味は出なかったが、幼いフローリアナはまだ、成長と共に変わっていく可能性は有る。

 髪の色に思いを馳せていると、いつの間にか微かな寝息が聴こえ始めた。
 疲労回復や入眠によいハーブティーを飲んだとは言え、眠りに向いているとは言えない窮屈な環境でもすぐに寝息を立てられるくらい疲れが溜まっているのだ。

 もっとよく休んでいただかなくては。お茶だけでなくもっと癒やして差し上げられたら⋯⋯

 そこまで考えが進んで、ハッとしてなんとなくファヴィアンの顔を見るが、窓の外を眺めているままだった。

 なんて烏滸がましい考えなのだろう。
 親戚付き合いがあるとはいえ、妹姫と仲良くしているからといって、自分なんかが差し出がましい。
 職務や臣民としてではなく、身体を気遣い寄り添い癒やし支える特別な存在──妃が必要だろうに。

「早くお妃さまを娶られれば⋯⋯ もっと支えを得て休まることも働く事も少しは楽になるのじゃないかしら。そういう話がない筈もないでしょうに」
「中々そうもいかない事情もおありなのでしょう」

 小声での独り言であったが、ファヴィアンから返しが来る。

「差し出がましい事を申しました」
「いや。フレキシヴァルト殿下も同じ心配をなさっていた。ユーヴェも。
 勿論、そういった話がない訳ではありません。殿下も成人なさっている訳ですし。ただ、具体的に話が進んだことはまだありませんが」

 一度も?

 なぜなのか。不思議には思ったが、理由は知らないのか、ファヴィアンはそれ以上は何も話さなかったし、システィアーナも訊かなかった。
 譬え理由を知っていても、ファヴィアンが答えるとは思えなかったし、本人以外から勝手に聞いていい話でもない。
 
 その後は、眠るアレクサンドルのためにか、侯爵邸まで誰もひと言も発さなかった。

 
しおりを挟む
感想 163

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!

桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。 令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。 婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。 なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。 はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの? たたき潰してさしあげますわ! そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます! ※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;) ご注意ください。m(_ _)m

言い訳は結構ですよ? 全て見ていましたから。

紗綺
恋愛
私の婚約者は別の女性を好いている。 学園内のこととはいえ、複数の男性を侍らす女性の取り巻きになるなんて名が泣いているわよ? 婚約は破棄します。これは両家でもう決まったことですから。 邪魔な婚約者をサクッと婚約破棄して、かねてから用意していた相手と婚約を結びます。 新しい婚約者は私にとって理想の相手。 私の邪魔をしないという点が素晴らしい。 でもべた惚れしてたとか聞いてないわ。 都合の良い相手でいいなんて……、おかしな人ね。 ◆本編 5話  ◆番外編 2話  番外編1話はちょっと暗めのお話です。 入学初日の婚約破棄~の原型はこんな感じでした。 もったいないのでこちらも投稿してしまいます。 また少し違う男装(?)令嬢を楽しんでもらえたら嬉しいです。

異母妹が婚約者とこの地を欲しいそうです。どうぞお好きにして下さいませ。

ゆうぎり
恋愛
タリ・タス・テス侯爵家令嬢のマリナリアは婚約破棄を言い渡された。 婚約者はこの国の第三王子ロンドリオ殿下。その隣にはベッタリと張り付いた一つ違いの異母妹サリーニア。 父も継母もこの屋敷にいる使用人も皆婚約破棄に賛成しており殿下と異母妹が新たに結ばれる事を願っている。 サリーニアが言った。 「異母姉様、私この地が欲しいですわ。だから出ていって頂けます?」 ※ゆるゆる設定です タイトル変更しました。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

継母と妹に家を乗っ取られたので、魔法都市で新しい人生始めます!

桜あげは
恋愛
父の後妻と腹違いの妹のせいで、肩身の狭い生活を強いられているアメリー。 美人の妹に惚れている婚約者からも、早々に婚約破棄を宣言されてしまう。 そんな中、国で一番の魔法学校から妹にスカウトが来た。彼女には特別な魔法の才能があるのだとか。 妹を心配した周囲の命令で、魔法に無縁のアメリーまで学校へ裏口入学させられる。 後ろめたい、お金がない、才能もない三重苦。 だが、学校の魔力測定で、アメリーの中に眠っていた膨大な量の魔力が目覚め……!?   不思議な魔法都市で、新しい仲間と新しい人生を始めます! チートな力を持て余しつつ、マイペースな魔法都市スローライフ♪ 書籍になりました。好評発売中です♪

愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」  待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。 「え……あの、どうし……て?」  あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。  彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。 ーーーーーーーーーーーーー  侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。  吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。  自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。  だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。  婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。 ※基本的にゆるふわ設定です。 ※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます ※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。 ※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。 ※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)  

(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。

水無月あん
恋愛
本編完結済み。 6/5 他の登場人物視点での番外編を始めました。よろしくお願いします。 王太子の婚約者である、公爵令嬢のクリスティーヌ・アンガス。両親は私には厳しく、妹を溺愛している。王宮では厳しい王太子妃教育。そんな暮らしに耐えられたのは、愛する婚約者、ムルダー王太子様のため。なのに、異世界の聖女が来たら婚約解消だなんて…。 私のお話の中では、少しシリアスモードです。いつもながら、ゆるゆるっとした設定なので、お気軽に楽しんでいただければ幸いです。本編は3話で完結。よろしくお願いいたします。 ※お気に入り登録、エール、感想もありがとうございます! 大変励みになります!

拝啓、王太子殿下さま 聞き入れなかったのは貴方です

LinK.
恋愛
「クリスティーナ、君との婚約は無かった事にしようと思うんだ」と、婚約者である第一王子ウィルフレッドに婚約白紙を言い渡されたクリスティーナ。 用意された書類には国王とウィルフレッドの署名が既に成されていて、これは覆せないものだった。 クリスティーナは書類に自分の名前を書き、ウィルフレッドに一つの願いを叶えてもらう。 違うと言ったのに、聞き入れなかったのは貴方でしょう?私はそれを利用させて貰っただけ。

処理中です...