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誰の手を取ればいいの
39.金緑石のアレクサンドライト、橄欖石のアレクサンドル
しおりを挟む「アレクサンドルさま?」
小首を傾げて、システィアーナがアレクサンドルの顔を覗き込もうとする。
「あ、いや、その。ティアの寝顔があの頃と変わらないので懐かしくて、意識が昔に跳んでしまっていたよ。すまないね。レディの素肌に触れるのはマナー違反だった」
「いえ。構いませんわ」
「え!?」
「だって、アレクサンドルさまは、不埒な感情で触れたわけではなかったでしょう? 今、仰ったではありませんか、懐かしくてつい、と」
そうなのか? 昔懐かしいと、家族でも配偶者でもないのに、頰に触れてもいい?
違うような気がするが、本人がいいと言うのだから、いいのか?
「わたくしも、少し夢を見ておりましたの。
昔、カーテンやクッションなどが若草色に統一された優しい感じのお部屋で、とても綺麗なお姉さまに本を読んでもらったり、お菓子を分け合ったり、時には一緒にお昼寝もした事があって、よく覚えてないのですけれど、どちらの令嬢だったのかしら? わたくしより3つくらい年上だったように思うのですけれど⋯⋯」
システィアーナの小さかった頃の、幾つかの記憶が混ざっているようなのは気がついていた。
さんでぃと呼んでいた頃より前の事はあまり憶えていないらしく、ユーヴェルフィオやエルネストとの思い出も、アレクサンドルと毎日のように会っていた事も混ざっている。
「レーナンディア公爵家の、ディアナ様かしら」
「サンドラ?」
エスタヴィオの妹の一人、レーナンディア女公爵の後継娘、ニーレンディアナ・アレクサンドライト・コンスタンティノスは、黄金の髪と、セカンドネームの通り、金緑石のように昼間は青みを帯びた碧に、夜はシスティアーナのような赤味の強い瞳の美少女である。
システィアーナの3つ上、アレクサンドルのひとつ下で、基本的にはディアナの愛称で呼ばれるが、親しい王族達は、彼女のことをファーストネームではなくその瞳を表したセカンドネームからサンドラと呼んでいる。
「わたくし、今はディアナ様とお呼びしているのに、当時はサンディと⋯⋯ サンディ?」
何か引っかかったらしい。視線は斜め上に、頭は反対方向に小首を傾げて考え込む。
「さんでぃ! 綺麗な金の髪がサラサラ! さわり心地がよくて素敵。お祖父さまのタイピンのペリドットと似たお目々は、時々薔薇色にもラベンダーにもアクアマリンにも変わるのね。とっても不思議。みあのお目々もきらきら色がたくさんあるけど、お姉さまのさんでぃのがもっと綺麗だわ。きょうだい揃って美人って素敵ね」
昼寝のために一緒にベッドに転がり、枕元に広がる自分の薄紅の白金髪にさらりと垂れて混ざる金の髪を梳いて綺麗だと、光で色が変わり虹彩自体も混色の橄欖石の瞳を覗き込んで、不思議だと興奮する幼い自分の記憶がある。
「ヘーゼルベースの七色の虹彩で黄金の髪のサン、ディ⋯⋯ えぇ!? あら? わたくし、何か勘違いを⋯⋯ ディアナ様はミアのお従姉姫で、お姉さまじゃない、わ?」
「ヘーゼルベースのアースアイのサンディなら、僕のことかな? 残念ながら、姉じゃないけど」
何やら楽しそうに口の端で微笑むアレクサンドル。
そもそも、ユーフェミアには姉はいない。
サンドラだと思い込んでいた優しい美人のお姉さんは、実はアレクサンドルだった?
「え、えぇ!?」
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