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誰の手を取ればいいの
36.寂しげな瞳
しおりを挟む目が覚めたら、一番におはようございますと言って差し上げますわ。
自分がそう言ったはずが、逆に言われてしまった。
「おはよう、ティア。よく眠れたかい?」
「⋯⋯は、い、あの、殿下、申し訳ありません。起きるまで見守っていますと申し上げましたのに、まさか、わたくし自身が寝てしまうなんて」
「ティア? 今は、公務中でも、他人の目もないよ」
また? そんなに、肩書きで呼ばれるのは寂しいのだろうか。
自分が、ユーフェミアやアナファリテに、交流のある令嬢達に、どこでもいつでもハルヴァルヴィア侯爵令嬢と呼ばれ続けたら?
それは寂しいだろう、疎外感を感じるだろう。
「申し訳ありません。殿下が立太子なさったとき、わたくしは11になる少し前でしたのですが、父に、これからは、今までと同じように気安くしてはいけないと言われたものですから、人目のないところでも、話題に出すたび、殿下と、王太子殿下と言うようにしてましたので、クセになっていたようです」
ですが、本当に、周りに人が居ない時だけですよ?
頰に朱が差すのを感じながら、もじもじと、小さな声で呼んでみる。
「あ、アレクサンドルさま」
「もう一声、昔のように愛称で呼んで欲しいところだけれど、今はそれで満足しておくかな。急には無理のようだから」
困ったように、寂しげに微笑むアレクサンドルの表情は、子供の頃我が儘を言った時に見せたものと同じだと思い当たる。
もっとご本を読んで。
てぃあも一緒に行く!
ハーマンの講義はつまんない。さんでぃが教えて?
てぃあ、ほんものの王子さまと踊りたい!!
ねだると優先的に構ってくれた事の方が多かったけれど、公務や自身の勉強があると申し訳なさそうに、困った表情で自由にしてていいからねと、彼の部屋に置いていくのだ。
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