上 下
214 / 263
誰の手を取ればいいの

25.二度寝   

しおりを挟む


 その寝顔はシスティアーナにとって眼福ではあったが、少し寝苦しそうだった。
 ソファの肘掛けを枕にするのでは高すぎるのだろう、首の辺りも苦しそうだ。

 システィアーナは、アレクサンドルの額に貼り付いた髪をそっと直接触れないように払い、スカートの隠しに持っていた手巾で寝汗を拭う。

「この間よりは幾分マシですけれど、やはり顔色はあまり良くありませんわね」
「このところ、夜眠れずに残務整理をなさり、昼間の空き時間にこうして仮眠をとられる昼夜逆転の生活をされています。王太子宮にもお戻りにならず、執務室か奥宮の自室で書類仕事詰めのようです」

 やはり、執務中は固い態度のファヴィアン。

「元々色白でいらっしゃるけれど、それにしても顔色がよくないわ」

 王太子というものは、そんなに激務なのか。それとも、眠れなくなるような心配事でもあるのか。
 フレックやディオほど公務が重ならないので、よくは知らないが、忙しいことは間違いないだろう。
 まだ二十歳で、王位を継いでいないのに今からこうでは、即位したらどうなるのか。

 ソファの横に座り込み、アレクサンドルの僅かに力の入った眉間や、震える瞼をジッと見守る。
 ファヴィアンも側に立ち、静かに待機する。

「そう言えば、先日淹れて頂いた安眠のハーブティーを真似て淹れてみたのですが、配合が違うのか、味が今ひとつで」
「まあ、そうですの? それくらいならいつでも淹れて差し上げますわ」
「そのお言葉、努々ゆめゆめ忘れぬよう」

 言質はとったと言わんばかりの笑みで、ファヴィアンが確認する。

 そんなふたりの話し声に、アレクサンドルが小さく唸った。
 慌てて顔を見合わせ、口元に指を当てて静かにするよう示し合わせる。

 が、結局は目覚めてしまった。

「あれ? ティア? ⋯⋯こないだの夢かな?」
「夢ではありませんわ。お疲れでしたら、甘い物はいかがですか? わたくし、今日はマフィンを焼いてきましたの。お茶も淹れますわ」

 まだ寝ぼけているのか、アレクサンドルの手に重ねられたシスティアーナの手を軽く握り込み、ふわっと微笑みかける。

(この笑顔。いっそエルナリア妃やミアよりもお綺麗で、幼い頃の太陽の笑顔と呼ばれていたのを思い出す温かくて懐かしい微笑み)

「ありがとう、いただこうかな」

 菓子を食べると言うのに、大切なものを隠すように両手で握り込んだシスティアーナの手に頰を寄せて、目を閉じる。

 寝息のような息遣い。

 寝直したようだ。
 
「二度寝?」
「お疲れなのでしょう」

 その後一刻※ どアレクサンドルは目覚めなかった。


 ❈❈❈❈❈❈❈


一日=48こく(一刻は30分)=12とき(一時は2時間)
中国の一日=100刻よりかは判りやすい?


しおりを挟む
感想 163

あなたにおすすめの小説

言い訳は結構ですよ? 全て見ていましたから。

紗綺
恋愛
私の婚約者は別の女性を好いている。 学園内のこととはいえ、複数の男性を侍らす女性の取り巻きになるなんて名が泣いているわよ? 婚約は破棄します。これは両家でもう決まったことですから。 邪魔な婚約者をサクッと婚約破棄して、かねてから用意していた相手と婚約を結びます。 新しい婚約者は私にとって理想の相手。 私の邪魔をしないという点が素晴らしい。 でもべた惚れしてたとか聞いてないわ。 都合の良い相手でいいなんて……、おかしな人ね。 ◆本編 5話  ◆番外編 2話  番外編1話はちょっと暗めのお話です。 入学初日の婚約破棄~の原型はこんな感じでした。 もったいないのでこちらも投稿してしまいます。 また少し違う男装(?)令嬢を楽しんでもらえたら嬉しいです。

婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!

桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。 令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。 婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。 なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。 はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの? たたき潰してさしあげますわ! そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます! ※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;) ご注意ください。m(_ _)m

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

継母と妹に家を乗っ取られたので、魔法都市で新しい人生始めます!

桜あげは
恋愛
父の後妻と腹違いの妹のせいで、肩身の狭い生活を強いられているアメリー。 美人の妹に惚れている婚約者からも、早々に婚約破棄を宣言されてしまう。 そんな中、国で一番の魔法学校から妹にスカウトが来た。彼女には特別な魔法の才能があるのだとか。 妹を心配した周囲の命令で、魔法に無縁のアメリーまで学校へ裏口入学させられる。 後ろめたい、お金がない、才能もない三重苦。 だが、学校の魔力測定で、アメリーの中に眠っていた膨大な量の魔力が目覚め……!?   不思議な魔法都市で、新しい仲間と新しい人生を始めます! チートな力を持て余しつつ、マイペースな魔法都市スローライフ♪ 書籍になりました。好評発売中です♪

異母妹が婚約者とこの地を欲しいそうです。どうぞお好きにして下さいませ。

ゆうぎり
恋愛
タリ・タス・テス侯爵家令嬢のマリナリアは婚約破棄を言い渡された。 婚約者はこの国の第三王子ロンドリオ殿下。その隣にはベッタリと張り付いた一つ違いの異母妹サリーニア。 父も継母もこの屋敷にいる使用人も皆婚約破棄に賛成しており殿下と異母妹が新たに結ばれる事を願っている。 サリーニアが言った。 「異母姉様、私この地が欲しいですわ。だから出ていって頂けます?」 ※ゆるゆる設定です タイトル変更しました。

愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」  待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。 「え……あの、どうし……て?」  あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。  彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。 ーーーーーーーーーーーーー  侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。  吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。  自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。  だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。  婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。 ※基本的にゆるふわ設定です。 ※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます ※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。 ※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。 ※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)  

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。

水無月あん
恋愛
本編完結済み。 6/5 他の登場人物視点での番外編を始めました。よろしくお願いします。 王太子の婚約者である、公爵令嬢のクリスティーヌ・アンガス。両親は私には厳しく、妹を溺愛している。王宮では厳しい王太子妃教育。そんな暮らしに耐えられたのは、愛する婚約者、ムルダー王太子様のため。なのに、異世界の聖女が来たら婚約解消だなんて…。 私のお話の中では、少しシリアスモードです。いつもながら、ゆるゆるっとした設定なので、お気軽に楽しんでいただければ幸いです。本編は3話で完結。よろしくお願いいたします。 ※お気に入り登録、エール、感想もありがとうございます! 大変励みになります!

処理中です...