上 下
184 / 263
小さな嵐はやがて⋯⋯

31.平身低頭   

しおりを挟む


 アレクサンドルやユーフェミアの父親ではあるが二人のように一幅の耽美絵画のような美貌ではないものの、代々受け継がれてきた緑味を強めに帯びたあおにも紫紺にも橙にも変わる宝石のようなヘーゼルの瞳と輝く太陽のような金髪の美丈夫エスタヴィオ。
 二人との血のつながりも感じられる整った尊顔、知性の覗える眼を改めてマリアンナに向ける。

「さて、改めて訊こうか。我が従堂妹はとこシスティアーナが、リングバルド王太子息女マリアンナ王女に数々の失礼をしたのだったかな?」

 グッと喉の奥を詰まらせ、拳を握り込んで震えるマリアンナ。
 システィアーナを貶める仕掛けを手伝うよりなかった侍女は、呼吸も浅く、卒倒したくても出来ない恐慌状態手前であった。
 一伯爵令嬢にとって、他国の王ではあっても、否、他国の王だからこそより一層、勘気をこうむる事は、斬首されるにも等しい恐怖を感じることだろう。また、逃げ帰りたくても国にも帰りづらくなったに違いない。

 マリアンナは、何かを言おうとしては飲み込み、浅く呼吸を繰り返してまた、発言をしようとして吐き出せず苦しげに呼吸するのを幾度か反復した。


「マリアンナ王女?」

 エスタヴィオの柔らかいはずの声を低く冷たく放たれた促しの言葉に、ぎゅっと目を閉じて、屈辱感を露わに応えた。

「⋯⋯私の勘違いにございました。エスタヴィオ国王の温情に縋り、非礼を詫びさせていただきたく存じます」

 深々と頭を下げる。

「わたしに、ではなく、システィアーナ本人と、そこにいる宰相ハルヴァルヴィア侯爵に、ではないかな? 名誉毀損で国に厳重抗議を受けたくはあるまい?」

 ひっ

 いつの間にか、エスタヴィオの後ろに控え目に立っていたロイエルド。

 先々代王弟の孫娘で国王のまた従妹いとこというだけでなく、宰相の娘だった!?

 如何に、特使としての役目を疎かにしていたかが身に染みる瞬間である。


 血の涙を流す心地で、システィアーナとロイエルドに頭を下げるマリアンナ。

勘違い • • • であったとは言え、人前で王族が頭を下げずとも、謝罪の方法はあったろうに。国の代表として他国を訪問するに当たっての儀礼や社交手段をもう少し勉強した方がよかろう」

 ロイエルドのひと言に、赤面するしかなかった。





しおりを挟む
感想 163

あなたにおすすめの小説

継母と妹に家を乗っ取られたので、魔法都市で新しい人生始めます!

桜あげは
恋愛
父の後妻と腹違いの妹のせいで、肩身の狭い生活を強いられているアメリー。 美人の妹に惚れている婚約者からも、早々に婚約破棄を宣言されてしまう。 そんな中、国で一番の魔法学校から妹にスカウトが来た。彼女には特別な魔法の才能があるのだとか。 妹を心配した周囲の命令で、魔法に無縁のアメリーまで学校へ裏口入学させられる。 後ろめたい、お金がない、才能もない三重苦。 だが、学校の魔力測定で、アメリーの中に眠っていた膨大な量の魔力が目覚め……!?   不思議な魔法都市で、新しい仲間と新しい人生を始めます! チートな力を持て余しつつ、マイペースな魔法都市スローライフ♪ 書籍になりました。好評発売中です♪

ヒロインはモブの父親を攻略したみたいですけど認められません。

haru.
恋愛
「貴様との婚約は破棄だ!!!私はここにいる愛するルーチェと婚約を結ぶ!」 怒鳴り声を撒き散らす王子様や側近達、無表情でそれを見つめる婚約者の令嬢そして、王子様の側には涙目の令嬢。 これは王家の主催の夜会での騒動・・・ 周囲の者達は何が起きているのか、わからずに行く末を見守る・・・そんな中、夜会の会場の隅で・・・ (うわぁ~、これが乙女ゲームのクライマックス?!)と浮かれている令嬢がいた。 「違いますっ!!!! 私には他に愛する人がいます。王子様とは婚約は出来ません!」 今まで涙目で王子様の隣で大人しくしていた令嬢が突然叫び声をあげて、王子様から離れた。 会場にいた全員が、(今さら何を言ってるんだ、こいつ・・・)と思っていたその時、 「殿下っ!!! 今の言葉は誠でございますっ!ルーチェは私と婚姻いたします。どうかお許しください!」 会場にいた者達を掻き分けながら、やって来た男が叫び、令嬢を抱き締めた! (何か凄い展開になってきたな~)と眺めていたら・・・ (ん?・・・何か見覚えのある顔・・・あ、あれ?うそでしょ・・・な、なんでそこにいるの?お父様ぁぁぁぁ。) これは乙女ゲームから誰も気づかない内にヒロインがフェードアウトしていて、自分の父親が攻略されてしまった令嬢(モブ)の物語である。 (・・・・・・えっ。自分の父親が娘と同い年の女の子を娶るの?・・・え?え?ごめんなさい。悪いけど・・・本当申し訳ないけど・・・認められるかぁぁぁぁ!) 本編・ー番外編ーヴィオレット*隣国編*共に完結致しました。

もう、あなたを愛することはないでしょう

春野オカリナ
恋愛
 第一章 完結番外編更新中  異母妹に嫉妬して修道院で孤独な死を迎えたベアトリーチェは、目覚めたら10才に戻っていた。過去の婚約者だったレイノルドに別れを告げ、新しい人生を歩もうとした矢先、レイノルドとフェリシア王女の身代わりに呪いを受けてしまう。呪い封じの魔術の所為で、ベアトリーチェは銀色翠眼の容姿が黒髪灰眼に変化した。しかも、回帰前の記憶も全て失くしてしまい。記憶に残っているのは数日間の出来事だけだった。  実の両親に愛されている記憶しか持たないベアトリーチェは、これから新しい思い出を作ればいいと両親に言われ、生まれ育ったアルカイドを後にする。  第二章   ベアトリーチェは15才になった。本来なら13才から通える魔法魔術学園の入学を数年遅らせる事になったのは、フロンティアの事を学ぶ必要があるからだった。  フロンティアはアルカイドとは比べ物にならないぐらい、高度な技術が発達していた。街には路面電車が走り、空にはエイが飛んでいる。そして、自動階段やエレベーター、冷蔵庫にエアコンというものまであるのだ。全て魔道具で魔石によって動いている先進技術帝国フロンティア。  護衛騎士デミオン・クレージュと共に新しい学園生活を始めるベアトリーチェ。学園で出会った新しい学友、変わった教授の授業。様々な出来事がベアトリーチェを大きく変えていく。  一方、国王の命でフロンティアの技術を学ぶためにレイノルドやジュリア、ルシーラ達も留学してきて楽しい学園生活は不穏な空気を孕みつつ進んでいく。  第二章は青春恋愛モード全開のシリアス&ラブコメディ風になる予定です。  ベアトリーチェを巡る新しい恋の予感もお楽しみに!  ※印は回帰前の物語です。

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

「いつ婚約破棄してやってもいいんだぞ?」と言ってきたのはあなたですから、絶縁しても問題ないですよね?

りーふぃあ
恋愛
 公爵令嬢ルミアの心は疲れ切っていた。  婚約者のフロッグ殿下が陰湿なモラハラを繰り返すせいだ。  最初は優しかったはずの殿下の姿はもうどこにもない。  いつも暴言ばかり吐き、少しでも抵抗すればすぐに「婚約破棄されたいのか?」と脅される。  最近では、「お前は男をたぶらかすから、ここから出るな」と離宮に閉じ込められる始末。  こんな生活はおかしいと思い、ルミアは婚約破棄を決意する。  家族の口利きで貴族御用達の魔道具店で働き始め、特技の刺繍や裁縫を活かして大活躍。  お客さんに感謝されて嬉しくなったり。  公爵様の依頼を受けて気に入られ、求婚されたり。  ……おや殿下、今さらなんの用ですか?  「お前がいなくなったせいで僕は不愉快な思いをしたから謝罪しろ」?  いやいや、婚約破棄していいって言ったのはあなたじゃないですか。  あなたの言う通り婚約破棄しただけなんですから、問題なんてなんてないですよね?  ★ ★ ★ ※ご都合主義注意です! ※史実とは関係ございません、架空世界のお話です!

魔力ゼロと判明した途端、婚約破棄されて両親から勘当を言い渡されました。でも実は世界最高レベルの魔力総量だったみたいです

ひじり
恋愛
生まれつき、ノアは魔力がゼロだった。 侯爵位を授かるアルゴール家の長女として厳しく育てられてきた。 アルゴールの血筋の者は、誰もが高い魔力量を持っていたが、何故かノアだけは歳を重ねても魔力量がゼロから増えることは無く、故にノアの両親はそれをひた隠しにしてきた。 同じく侯爵位のホルストン家の嫡男モルドアとの婚約が決まるが、両親から魔力ゼロのことは絶対に伏せておくように命じられた。 しかし婚約相手に嘘を吐くことが出来なかったノアは、自分の魔力量がゼロであることをモルドアに打ち明け、受け入れてもらおうと考えた。 だが、秘密を打ち明けた途端、モルドアは冷酷に言い捨てる。 「悪いけど、きみとの婚約は破棄させてもらう」 元々、これは政略的な婚約であった。 アルゴール家は、王家との繋がりを持つホルストン家との関係を強固とする為に。 逆にホルストン家は、高い魔力を持つアルゴール家の血を欲し、地位を盤石のものとする為に。 だからこれは当然の結果だ。魔力がゼロのノアには、何の価値もない。 婚約を破棄されたことを両親に伝えると、モルドアの時と同じように冷たい視線をぶつけられ、一言。 「失せろ、この出来損ないが」 両親から勘当を言い渡されたノアだが、己の境遇に悲観はしなかった。 魔力ゼロのノアが両親にも秘密にしていた将来の夢、それは賢者になることだった。 政略結婚の呪縛から解き放たれたことに感謝し、ノアは単身、王都へと乗り込むことに。 だが、冒険者になってからも差別が続く。 魔力ゼロと知れると、誰もパーティーに入れてはくれない。ようやく入れてもらえたパーティーでは、荷物持ちとしてこき使われる始末だ。 そして冒険者になってから僅か半年、ノアはクビを宣告される。 心を折られて涙を流すノアのもとに、冒険者登録を終えたばかりのロイルが手を差し伸べ、仲間になってほしいと告げられる。 ロイルの話によると、ノアは魔力がゼロなのではなく、眠っているだけらしい。 魔力に触れることが出来るロイルの力で、ノアは自分の体の奥底に眠っていた魔力を呼び覚ます。 その日、ノアは初めて魔法を使うことが出来た。しかもその威力は通常の比ではない。 何故ならば、ノアの体に眠っている魔力の総量は、世界最高レベルのものだったから。 これは、魔力ゼロの出来損ないと呼ばれた女賢者ノアと、元王族の魔眼使いロイルが紡ぐ、少し過激な恋物語である。

どーでもいいからさっさと勘当して

恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。 妹に婚約者?あたしの婚約者だった人? 姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。 うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。 ※ザマアに期待しないでください

【完結】姉に婚約者を奪われ、役立たずと言われ家からも追放されたので、隣国で幸せに生きます

よどら文鳥
恋愛
「リリーナ、俺はお前の姉と結婚することにした。だからお前との婚約は取り消しにさせろ」  婚約者だったザグローム様は婚約破棄が当然のように言ってきました。 「ようやくお前でも家のために役立つ日がきたかと思ったが、所詮は役立たずだったか……」 「リリーナは伯爵家にとって必要ない子なの」  両親からもゴミのように扱われています。そして役に立たないと、家から追放されることが決まりました。  お姉様からは用が済んだからと捨てられます。 「あなたの手柄は全部私が貰ってきたから、今回の婚約も私のもの。当然の流れよね。だから謝罪するつもりはないわよ」 「平民になっても公爵婦人になる私からは何の援助もしないけど、立派に生きて頂戴ね」  ですが、これでようやく理不尽な家からも解放されて自由になれました。  唯一の味方になってくれた執事の助言と支援によって、隣国の公爵家へ向かうことになりました。  ここから私の人生が大きく変わっていきます。

処理中です...