上 下
158 / 263
小さな嵐はやがて⋯⋯

5.エルネストの宝物

しおりを挟む


「兄さんが恋文とか言うから、身構えちゃったよ」

 子供の成長を見守る親のような目で見る兄に、照れ隠しで拗ねた振りをしてみるエルネスト。

「何を言う。女性から公式な場でのパートナーになって欲しいと願い出るんだぞ? 勇気の要ることだし、一種のデートのお誘いとも言えるじゃないか。なら、恋文と言ってもいいだろうが」

 そうだろうか?

「そもそも、シスの手になる手紙は全部文箱ふばこに大切にとってあるクセに。内容に限らず、お前にとっては恋文のようなものだろう」

(な、なんで知ってるんだ!?)

 まさか、留守中に家探し⋯⋯

「何を考えてるのかだいたい解るが、部屋を物色したりしてないからな」
「掃除係のハウスメイドも私物には触りませんよ。
 私が、留守中に届く手紙を整理してこちらにお届けに参りました折、文箱が2つございましたので、分類を確認させていただきました所、システィアーナ嬢からのもののみ入れられた飾り箱と、ご友人・親戚からの手紙の束が入れられた木箱と、それ以外を紐で束ねたもの、と分けておられたようなので」

 ユーヴェルフィオを擁護するように、執事長のアルマンが、あまりにも明白あからさますぎる扱いの違いに、見たまま説明する。

「私的なものに触れるからと、アルマンの希望で私も立ち合ったんだよ。ただそれだけ。わざわざ覗いた訳じゃないよ」

 学校の騎士科に出入りしていた頃は、概ねこの邸に戻って来ていたし、友人からの親しい手紙は学校の寮に届いていたので問題はなかったが、王城の近衛騎士団の宿舎で寝泊まりするようになってからは、手紙は学校の寮へ送られたものも含め、公爵邸に転送されて溜まっていくばかり。

 執事長が緊急性のあるものと個人的なものとを振り分けて、緊急性の高いものは王城の宿舎へ届けさせ、他のものを分類して片付けようとしたのは、当然の職務であり、決して嫌がらせでものぞき趣味でもない。

 それがわかっているので、アルマンの職務の流れで兄までもが偶々知ってしまったと言われれば、それ以上追求することも出来ない。

「誓って言うが、シスの手紙は勿論、他のも、そういう振り分けなんだなあと送り主を確認しただけで、中味までは読んでないからな?」
「⋯⋯解ってますよ」

 確認してみたが、自分が先月戻った時に読んだもの以降に届いた手紙は、友人のものは木箱に入れられそれ以外は纏められて机の引き出しに入っていたが、封が切られた様子はない。

 使者が届けるような返事がすぐに必要なものは、王城のフレックの執務室に直接来るので、これまで問題はなかった。
 そういった采配も、このアルマンが有能だからこそだろう。

 令嬢に届けられる手紙を、まずは家令が確認し、当主に見せた上で問題のないものだけ令嬢の手に渡る、といった貴族家も少なくない中、プライバシーを侵さないこの執事長は、まだ信用できる。

 そう思って、疑ったことを詫びた。





しおりを挟む
感想 163

あなたにおすすめの小説

言い訳は結構ですよ? 全て見ていましたから。

紗綺
恋愛
私の婚約者は別の女性を好いている。 学園内のこととはいえ、複数の男性を侍らす女性の取り巻きになるなんて名が泣いているわよ? 婚約は破棄します。これは両家でもう決まったことですから。 邪魔な婚約者をサクッと婚約破棄して、かねてから用意していた相手と婚約を結びます。 新しい婚約者は私にとって理想の相手。 私の邪魔をしないという点が素晴らしい。 でもべた惚れしてたとか聞いてないわ。 都合の良い相手でいいなんて……、おかしな人ね。 ◆本編 5話  ◆番外編 2話  番外編1話はちょっと暗めのお話です。 入学初日の婚約破棄~の原型はこんな感じでした。 もったいないのでこちらも投稿してしまいます。 また少し違う男装(?)令嬢を楽しんでもらえたら嬉しいです。

婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!

桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。 令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。 婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。 なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。 はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの? たたき潰してさしあげますわ! そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます! ※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;) ご注意ください。m(_ _)m

異母妹が婚約者とこの地を欲しいそうです。どうぞお好きにして下さいませ。

ゆうぎり
恋愛
タリ・タス・テス侯爵家令嬢のマリナリアは婚約破棄を言い渡された。 婚約者はこの国の第三王子ロンドリオ殿下。その隣にはベッタリと張り付いた一つ違いの異母妹サリーニア。 父も継母もこの屋敷にいる使用人も皆婚約破棄に賛成しており殿下と異母妹が新たに結ばれる事を願っている。 サリーニアが言った。 「異母姉様、私この地が欲しいですわ。だから出ていって頂けます?」 ※ゆるゆる設定です タイトル変更しました。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

継母と妹に家を乗っ取られたので、魔法都市で新しい人生始めます!

桜あげは
恋愛
父の後妻と腹違いの妹のせいで、肩身の狭い生活を強いられているアメリー。 美人の妹に惚れている婚約者からも、早々に婚約破棄を宣言されてしまう。 そんな中、国で一番の魔法学校から妹にスカウトが来た。彼女には特別な魔法の才能があるのだとか。 妹を心配した周囲の命令で、魔法に無縁のアメリーまで学校へ裏口入学させられる。 後ろめたい、お金がない、才能もない三重苦。 だが、学校の魔力測定で、アメリーの中に眠っていた膨大な量の魔力が目覚め……!?   不思議な魔法都市で、新しい仲間と新しい人生を始めます! チートな力を持て余しつつ、マイペースな魔法都市スローライフ♪ 書籍になりました。好評発売中です♪

愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」  待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。 「え……あの、どうし……て?」  あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。  彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。 ーーーーーーーーーーーーー  侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。  吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。  自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。  だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。  婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。 ※基本的にゆるふわ設定です。 ※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます ※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。 ※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。 ※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)  

(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。

水無月あん
恋愛
本編完結済み。 6/5 他の登場人物視点での番外編を始めました。よろしくお願いします。 王太子の婚約者である、公爵令嬢のクリスティーヌ・アンガス。両親は私には厳しく、妹を溺愛している。王宮では厳しい王太子妃教育。そんな暮らしに耐えられたのは、愛する婚約者、ムルダー王太子様のため。なのに、異世界の聖女が来たら婚約解消だなんて…。 私のお話の中では、少しシリアスモードです。いつもながら、ゆるゆるっとした設定なので、お気軽に楽しんでいただければ幸いです。本編は3話で完結。よろしくお願いいたします。 ※お気に入り登録、エール、感想もありがとうございます! 大変励みになります!

拝啓、王太子殿下さま 聞き入れなかったのは貴方です

LinK.
恋愛
「クリスティーナ、君との婚約は無かった事にしようと思うんだ」と、婚約者である第一王子ウィルフレッドに婚約白紙を言い渡されたクリスティーナ。 用意された書類には国王とウィルフレッドの署名が既に成されていて、これは覆せないものだった。 クリスティーナは書類に自分の名前を書き、ウィルフレッドに一つの願いを叶えてもらう。 違うと言ったのに、聞き入れなかったのは貴方でしょう?私はそれを利用させて貰っただけ。

処理中です...