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小さな嵐の吹くところ

40.秘匿された深窓の令嬢

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 薄い卵色のサマードレスに腰元から重ねたオーガンジーのオーバースカートが照明を反射して細かな光を放つ。

 ビーズと絹の刺繍糸が同色で目立たないように縫い付けられ、近くで見れば、薔薇やかすみ草を意匠した緻密な刺繍が施されている。
 フレイラの手になるものだろう。

 他の色を使わず、生地の色一色で刺された花が、主張しすぎず好ましいデザインになっている。

 その辺りをあまり大袈裟にならないように軽く褒めると、顔を真っ赤にして俯きながらも丁寧に礼を述べるフレイラは、同じテーブルにつく公爵家令息達に好ましく映ったようだ。

 17年間、男性の参加する茶会や夜会に露出することなく育てられた深窓の令嬢に、他のテーブルの子息達も興味津々なのが見て取れる。

 中には、こちらのテーブルに移ってきて、エステルヴォム公爵令息に妹を紹介しろと声をかける行動に出る者もいた。

 今後、自分が声をかけずとも、嫁ぎ先に困ることはないだろう。
 どうしても王家に縁を望むなら、まだデュバルディオやトーマストルもいる。
 もっとも、ディオはシスティアーナがお気に入りのようだし、トーマはまだ12歳だが。

 ──それとなくディオに振ってみようかな?

 面倒くさそうに嫌がるディオの姿を想像して、口元に笑みがこぼれる。
 いつものアルカイックスマイルではないアレクサンドルの笑みに、離れたテーブルで近寄れずに歯がみしていた令嬢達が色めき立つ。

「あんなお表情かおもなさるのね」
「母君の王妃さまに似てお美しくていらっしゃる」
「眼福ですわ⋯⋯」
「こちらのテーブルにもいらっしゃらないかしら?」
「お美しくていらっしゃる方は、抑えた笑みも素敵ですわ」

 興奮気味なのか、声を潜めるのを忘れて話し合う令嬢達。

(美容と宝飾、菓子や他人の噂しか話すこともなく、人の容姿と地位にしか価値観を見出せない令嬢の相手などこちらから願い下げだし、ましてや未来の王妃でもある王太子妃になど迎えられない)

 アレクサンドルは努めて令嬢の集まるテーブルの方は見ないようにして、話しかけたそうにしているフレイラとその兄に軽く断りを入れると、次のテーブルに移動した。





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