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小さな嵐の吹くところ
36.吟味選別中?
しおりを挟む訊ねたデュバルディオは柔やかにしているが、ユーフェミアとアルメルティアは白い顔を更に蒼白くしている。
特使にいたっては、訊ねられた瞬間の状態のまま微動だにせず立ち尽くしている。もしかしたら、呼吸も止まっているのではないか。
「⋯⋯お兄さま? さすがにそれは僭越というか、失礼というか、禁句、いえ、不敬なのでは?」
従姉といえども、マリアンナも隣国の王族である。
王太子の次女であり、王位継承権からは遠いがそれでも他国の王族の妙齢の女性に、いい歳してるのに縁談はないのか?と訊けるものではないだろう。
もっと言えば、王族でなくても、適齢期を迎えて何年も経つ女性に訊いていい内容でもない。
そう、17歳のディオより年上のマリアンナは、社交デビュー前後で婚約者を見繕ったり、早ければ相手の年齢や事情次第では成人として認められる16歳になったすぐに輿入れする事も少なくない貴族社会においては、行き遅れに近い認識をされるのである。
勿論、20歳を過ぎてから嫁ぐ貴族令嬢もいないわけではない。
小柄で子を産むのに難産しそうな、発育段階の娘の産褥を心配して、婚約者が居ても18~22歳まで輿入れさせない家もあるのだ。
成長速度は個体差があり、12歳前後で初潮を迎え、15~16歳の社交デビュー時には背丈も肉付きもいい大人びた令嬢もいれば、社交デビュー後に初潮を迎え、ほっそりとした少女体型の令嬢もいる。
発育が遅いのは、細腰を維持するための食事制限による栄養失調と運動不足、コルセットで身体を締め付けたり、小ぶりの足が流行ると小さめの木靴で足の成長を抑えたりする、偏った美容行為が原因だろう。
ちなみに、マリアンナは大柄ではないが、発育はよい方である。
王宮にて栄養価のある美味しい物を食べ、肥満には気をつけるが節制したりせず、ストレスとは無縁の生活を送ってきたマリアンナは、すくすくと成長して、社交デビュー時には、豪奢なドレスを着熟す外見上は立派な淑女であった。
「マリアンナ殿下は、その、慎重に選別なさっている所でして⋯⋯ 王太子殿下も掌中の珠の如く大切になされ、厳選な条件を設けて相手を吟味し⋯⋯」
大汗をかきかき答える特使が可哀想になるユーフェミア。
「お、お兄さまが大変失礼な事を訊きました。大変申し訳ありません」
「一応、話はあるんだ? 選別、吟味する程度には」
「ま、まあ、それなりに⋯⋯ 王太子息女であの美貌ですから、降嫁を望む声はそこそこ来ております」
王家と縁続きになりたい上位貴族や、貴族の仲間入りしたい資産家などは、適齢期の美少女なら多少難があっても、妻に望む声はあるのだろう。
己に正直で自由なマリアンナではあるが、王族としての教育は受けているし、マナーもそこまで悪い訳ではない。
ただ、感情に正直で、無駄な行動力があり過ぎるだけだ。
いずれどこかに嫁がされると思っているゆえに、内政や公務に対して真面目に取り組んでこなかったのは、王や王太子も頭を抱える問題ではあったが、それでもいずれ嫁す女子だからと甘やかされた面はある。
「王太子殿下も可愛がっているようだし、手元に置いておきたいのでしょう、国内でいい縁に巡り会えるといいね」
──僕の義姉になるのは断り
デュバルディオの爽やかな笑顔が、更に特使を凍らせた。
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