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婚約破棄後の立ち位置と晴れない心

18.婚姻の条件

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 羊皮紙に飾り文字で書かれた家名は、王家コンスタンティノスの王女ふたり、エステール女公爵の伴侶の姪である侯爵令嬢、その他にも、王宮で行儀見習をしている侯爵家や伯爵家の令嬢の名もあった。

 それとは別紙に、まだ、公爵家や侯爵家の令嬢の名が連ねていたが、羊皮紙に書かれた名しか読み上げなかったのは、エスタヴィオの中では、エルネストの伴侶に許可する気がないのだろう。

「どうだい? 思ったより、多くの女性の指名を受けているだろう?」
「⋯⋯ええ、まあ、こんなにあるとは」
「うん、システィアーナしか見てなかったんだろうね、君は」

 改めてそう言われると、羞恥心が涌いてくる。
 そんなにわかりやすかっただろうか?

「そうだね。恐らく気がついてないのは、システィアーナ本人くらいじゃないか?
 ソニアリーナは、君がシスティアーナばかり見ていることは判っているだろうが、それがどの程度想っているのか解ってな⋯⋯いや、あの子も女性だし、きっと解っているだろうね」

 気がついてないのはシスティアーナ本人くらい⋯⋯ それはそれで寂しいものがある。

「君は、巷の若い娘さんのように恋にしか価値観を見いだせないという事もないだろうが、恐らく、貴族として生きるには、システィアーナを愛しすぎているだろう」

 勿論、悪いことではないが、政治を動かず地位にいる高位貴族には、生きにくいだろうね。

 自ら淹れ直した紅茶を飲み干すとエスタヴィオは、口元は笑みに端を上げ、目元は悲しげにエルネストを見る。

「だからね。可哀想だけれど、決定権は、システィアーナにある」
「システィアーナに?」
「そう。期限は君が兵役に出るまで⋯⋯は短すぎてさすがに可哀想か。兵役から戻ってどの役職に就くかを決めるまで。ちなみに、戻って来てから探すのは無しだよ。時間を無駄にしたくないからね。
 兵役に就いている間も足掻くことは許そうかな。ただし、自分から結婚してくれと言うのは無し。
 あくまでも、システィアーナが、自分が侯爵家を継ぐ時に、隣にいるのはエルネストでなければだめだと申し出たら、彼女との結婚は許してもいい」
「え⋯⋯」

 エルネストはわかりやすく頰を染めて顔を上げ、エスタヴィオと目を合わせる。

「ただし、君が兵役から戻って就くポストが決まった段階で、システィアーナが君を望まなかったらこの話は無しだ。
 勿論、彼女が別の男性を選んでも無し。
 君の公爵家次男としての将来の身の振り方が決まった時に、システィアーナが誰も選んでいなくても同じ事だよ。
 あくまでも、期限内に、君から愛を乞わずに、システィアーナが君を選んだ時のみ許可を出すよ」

「その、システィアーナが別の人を選ぶか、誰も選ばなかった場合、自分は⋯⋯」
「この三人の中から娶りたい人を選んでもらおうか。ただし、ユーフェミアとエステール公爵家傍系の侯爵令嬢を選んだ場合は、君は、当主の配偶者──入り婿という形になるがね?」

 どうせ、今の自分にとっては、システィアーナでなければ、誰でもそうは変わらない。また、元々次男で家督を継ぐ予定はなかったので、システィアーナの配偶者になっても、別の女当主の配偶者になっても、同じ事だ。

「そうだねぇ。兵役の期間はともかく、遠方に着任したら、システィアーナの傍にいられないのは不利だよね?」

「はぁ⋯⋯」

 それこそ、無理を言えないのではないか。実力や経験など配属の都合もあるだろう。
 そもそも、今、エスタヴィオが遠方は不利だよねと言い出したところで、個人の都合で勝手に変更できる訳もない。が、

「⋯⋯ああ、心配しないで。エルネストは、今、師事している近衛騎士の従騎士スクワイアを三年間やることになってるから」

 手元の書類を確認して、言い放つエスタヴィオ。
 エルネストは、内容が脳に染みなかったのか、国王に対して訊き返してしまった。

「は? 陛下、今、なんと?」
「だから、今、フレキシヴァルトの私設秘書と近衛騎士の従者と兼任してるでしょ? それを正式に従騎士スクワイアを三年間務めることで兵役と見做すから。
 何、普通の人より一年長いけど、アレクサンドルやフレキシヴァルトも務めたんだから、大丈夫だよね?」





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