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システィアーナの婚約者
27.兄が花を贈った人
しおりを挟む馬車の中でも薔薇を潰さないように、座席には浅く座らされ、ちょっとした腹筋運動だった。
「お祖父さまや代々の王が大切にして来た白薔薇を、お兄さまが切りたいとお父さまに許可を求められて、少し驚いてましたの」
薔薇の花のことを話すユーフェミアは実に嬉しそうだった。
「家族中が驚いたのよ? お兄さまったら、王太子のくせに、未だ婚約者もいらっしゃらないでしょう? 2つ下のフレックお兄さまが妃を持ったというのに」
王太子であるからこそ、生半可な覚悟や好みの選択で妃を決める訳にはいかない。
アレクサンドルの妃になる女性は、将来の国母になるのだ。
アレクサンドルの好みや、家柄だけで選ぶと、後々に問題があがるといけないので、慎重に選ぶ必要がある。
外交のためにも、語学力は勿論のこと、世界情勢を把握して予測を立て、国益を損ねない外交をしなければならない。
領地管理の補佐や、国内の貴族夫人達を集めて茶会を開いて情報交換や根回しと言った、通常の貴族夫人の社交能力だけでは足りないのだ。
発言1つで、他国の王族や外交官を怒らせ戦を引き起こしたり、上位貴族や王族と確執を生み不和を起こしたり。自分の子供を、能力が足りないのに王位に就けようと画策して、側妃の生んだ優秀な王子を手にかけようとしたり⋯⋯
過去の悪妃と呼ばれる女性たちの多くは、家柄だけで幼少時から決められていた婚約者であったり、まわりの反対を押し切り国王が望んで娶った寵姫上がりの王妃であったりしたので、アレクサンドルも慎重に選んでいるのだろう。
国王と同じくらい王妃にも知性と外交能力が求められるのだから。
フレックの妃アナファリテやユーフェミアと共に、王族の公務の在り方を学んだシスティアーナは、その大切さが解るからこそ、アレクサンドルが二十歳でも独り身である事に、自分の婿取りよりも大変であると思っていた。
いわば伴侶選びに苦心する仲間のような、ちょっとした連帯感のようなものまで一方的に感じてもいる。
「そんな連帯感は要らないわよ。
なぁに? お相手がいない者同士、話が合うの?」
「そ、そういう訳では⋯⋯ そもそも、わたくしはあまり、アレクサンドル殿下とお会いする事はありませんもの。伴侶選びに関してなんて個人的な事を話す機会などありませんわ」
いつも公務が忙しいのか、フレックやトーマに比べると、格段に話をする機会は少ないのが現状だ。
「ふうん? その、会う機会のないシスに、お兄さまは王家の薔薇をあのようにたくさん贈ったのね?」
「そ⋯⋯れは、わたくしも不思議なんです」
「メルティやトーマなんかは、ずっと妃を決めずにいたお兄さまが、いよいよお迎えになると盛り上がっているのよ? 贈った相手がシスだと知ったら、どうなるかしらね?」
そんなこと言われても、システィアーナの婿になる訳もなく、また、王太子妃になれる訳でもないのに、先走って誤解しないで欲しい。
「それはそうなんだけど、お兄さまのお考えは解らないわ。単に再従叔母のシスへのお見舞いなのかもしれないし⋯⋯ ただあの量は、見舞いの花と言うにも限度ってものがあるとは思うけれど」
ユーフェミアの言葉に、居たたまれなさが更に増していくシスティアーナであった。
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