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システィアーナの婚約者
9.語学と一緒に
しおりを挟む王宮で、ユーフェミア王女とアルメルティア王女と三人で、北の友好国の言葉で会話をして語学の演習をしながら、複雑な刺繍をしていた時である。
第三王女フローリアナが、同腹の兄、第四王子トーマストルに手を引かれて入室してきた。
『おきげんよう、むぃなしゃま』
『こんにちは、お姉さま方。今日は、天気も悪いくなきがよいですね』
ちょっと発音が辿々しかったり変な言い回しだが、それでも、8歳と12歳の子供が一生懸命他国の言葉を話すのは可愛らしかった。
『ごきげんよう、フローリアナ王女殿下。いい天気でよかったですわね。こんにちは、トーマストル王子殿下』
この中で一番身分の低いシスティアーナが立ち上がり、頭を下げると、メイドを下げていたため、お茶の準備をする。
「あ、リアナ、自分でやりたい」
「火傷をなされたら大変ですし、キッチンの台に手が届かないでしょう。わたくしが淹れますわ」
「リアナ、シスを困らせちゃダメだよ。一緒にいるなら、邪魔はしない約束だろう?」
トーマストルに諭されて、唇を尖らせながらうつむくフローリアナ。
勉強中でもお茶の休憩を入れたりするので、小さなキッチンが隣の続き小部屋に備え付けられている。
石造りの厚い壁をくり貫いた戸棚は、中がひんやりとしていて、ミルクや水、茶葉やちょっとした焼き菓子などが保存されている。
システィアーナが子供向けに、特濃ミルクを温めて紅茶を薄めに煮出すと、戸棚から熊や兎などの可愛い柄がついたマグカップを出して注いだ。
「リアナも、お姉さまみたいな、綺麗なお花のカップがいい!」
「薄いカップは持ち手も華奢よ。その小さな手で、落としたら大変よ」
「火傷もするし、ドレスにこぼれたお茶の染みをとるランドリーメイドに迷惑がかかるわ」
二人の姉に言われて、またもや唇を尖らせるフローリアナ。
それでも、ミルクティに砂糖と蜂蜜をたっぷり入れてお茶うけに砂糖菓子を出すと、急速にご機嫌になった。
『では、続きをしましょうか?』
『いいえ、せっかく二人が来たのだから、このままお茶をしながら、語学にしましょう』
母国語以外を覚えるなら、早ければ早いほど、身につきやすい。
下の二人のために、お茶菓子をいただきながら、テーブルマナーの復習と語学も勉強することになった。
フローリアナが、時々異国の言葉で答えながらも、なにかそわそわしている。
『リアナ、さっきからどうしたの? お手水を我慢してるのなら⋯⋯』
『違う、です。厠、違うが、待つ、少し、もうすぐ』
どうやら、なにかを待っているようだった。
『ん? もしかして⋯⋯リアナ、カルル兄さまを待ってるの?』
『え? 帰ってきてらっしゃるの?』
『来る、約束。北の言葉、勉強する、今日、だから』
まるで待っていたかのようなタイミングで、王女達の勉強部屋の扉がノックされた。
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