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不思議なダンジョンの奥には

ごぉ。『あんな可愛い生き物をフロアボスとして立たせるなんて。斃しにくい~』──可愛いは正義なのに

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     🐿

 あちこちチョロチョロしていたカーバンクルちゃん達が一斉に私の元に駆け寄ってくる。
 あの、跳ねるような可愛らしいリスのような走り方だ。

 そして、みんな同じ方向を向いて、後頭部から背中にかけての属性の色に染まった毛が逆立つ。身体を覆う上毛(オーバーコート)とほぼ同じ長さだけど、そこだけ時々立ちあがる。すぐ下のアンダーコート(下毛)がブワッと膨らんで、尻尾も倍くらい太くなり、猫が毛を逆立てるような感じでやや前傾姿勢。


 フロアボスを警戒しているのだ。


「コハクちゃんを護ろうとして頑張ってるのね」

 お母さんのお乳や獲ってくる餌より、私の指先にご執心だし、おやつを盗られたくないだけかも?

 なんにせよ、自分達の何十倍、いや何百倍?も大きなイタチがギラギラの眼をこちらに向けていた。

 イタチと言っても、ハクビシンのようなずんぐりしたのではなく、テンやオコジョのようにスラッと細長い身体で、身体の長さに対して、ずいぶんと小さなお顔。まん丸の黒目は、本来は可愛いはずなのに、鋭くこちらを睨んでいる。

「ズルいよね」
「何が?」

 私の言葉に、カイルロッド様は同意してくれない。フィルタさんもチラッとこちらに視線を送って少しだけ、首を傾げる。

「あんな可愛い生き物をフロアボスとして立たせるなんて。斃しにくい~」

 もちろん、私はそんな力はないんだけど。

「あんなにギラギラした凶悪な目をしてるんだから、遠慮なく叩けば? おチビちゃん達もああして威嚇してるみたいだし?」

 カイルロッド様は、気にすることなくやれると言う。

「まあ、自然界の法則のままで行くと、イタチの仲間は、リスやチンチラなんかの小さい鼠の仲間の天敵ですから、警戒するのは当然なのかも?」

 幻獣だけど、そこんとこどうなんだろう?

 フィルタさんが鯉口を切り、誓いの火蓋が切って落とされた。



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