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奇跡の少女 ── ギレウォッタ
じゅう。『初めは ポッ ポッ と疎らに、やがて ボッ ボボッ とそこら中で火がつき始め、結界の外は火の海となっていく』──次々絶望的な状況に
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❄
初めは ポッ ポッ と疎らに、やがて ボッ ボボッ とそこら中で火がつき始め、結界の外は火の海となっていく。
ケルピーの霧の結界が多少の熱は下げてくれるが、その内火の方が勢いが増し、霧は水蒸気となって気化していく。
結界の内もだんだん熱くなって、更には空気も薄くなってきたように思えた。
今度は蒸し焼きか⋯⋯
「お水が出るアイテムは持ってないなぁ」
コハクが眉を下げる。みんなの視線がケルピーに集まるが、コハクは気が付かず、彼女が首から提げている小瓶に入ったタツノオトシゴは、居心地悪そうに背を向けた。
それでもコハクは涼しげである。ケルピーや妖精くんが熱を相殺しているのかと思ったが、三匹は結界の維持と浄化に手が一杯のはずだ。
「あ、これ⋯⋯ ここでも来てくれるのかなぁ?」
コハクは、ゆるっとパンツのポケットから、白い、手のひらより大きな正六角形の結晶を出してくる。──大ジャック・フロストの分身結晶だ。
本来、精霊であれば、どんな場所でも契約していれば召喚できる。壁や時間などに干渉されずに、物理的な身を持たぬが故に制限はないはずだ。
が、雪だるまに踏まれてフリーズドライしたサラマンダーは、干物のような肉体を残した。おかげで、コハクにアイテム認識をされてしまい、契約獣となっている。
ジャック・フロスト自身も、巨大な雪だるまにしか見えない身体を持っていた。妖魔よりは精霊に近いが、物質体を持った妖精の可能性もある。
召喚は可能だろうか? いつでも一回だけ、頼みに応じるための契約の証の結晶に祈れば、召喚できるはずだが、ここが途中からロックストーヴ山じゃない別の次元説が正しくあの古代神の領域内だとすれば、力場関係から喚べない可能性もある。
使ってみました、来ませんでしたでは、勿体なさすぎる。
コハクは、ちょっと大きめの雪の結晶を胸に抱いて、呟いた。
「この涼しさをみんなにも分けてあげられたらいいのに」
うん。コハクにとってはただのひとりごとというか、ちょっとした願いというか、何かを期待した訳でもなく、今まで通り、そうなればいいな、程度の呟きだったんだろう。
でも、ジャック・フロストの分身はそうは思わなかったみたいだった。
コハクを中心に、目には結晶の形も見えないほど細かい氷の粒が渦を巻いた。
初めは ポッ ポッ と疎らに、やがて ボッ ボボッ とそこら中で火がつき始め、結界の外は火の海となっていく。
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結界の内もだんだん熱くなって、更には空気も薄くなってきたように思えた。
今度は蒸し焼きか⋯⋯
「お水が出るアイテムは持ってないなぁ」
コハクが眉を下げる。みんなの視線がケルピーに集まるが、コハクは気が付かず、彼女が首から提げている小瓶に入ったタツノオトシゴは、居心地悪そうに背を向けた。
それでもコハクは涼しげである。ケルピーや妖精くんが熱を相殺しているのかと思ったが、三匹は結界の維持と浄化に手が一杯のはずだ。
「あ、これ⋯⋯ ここでも来てくれるのかなぁ?」
コハクは、ゆるっとパンツのポケットから、白い、手のひらより大きな正六角形の結晶を出してくる。──大ジャック・フロストの分身結晶だ。
本来、精霊であれば、どんな場所でも契約していれば召喚できる。壁や時間などに干渉されずに、物理的な身を持たぬが故に制限はないはずだ。
が、雪だるまに踏まれてフリーズドライしたサラマンダーは、干物のような肉体を残した。おかげで、コハクにアイテム認識をされてしまい、契約獣となっている。
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