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奇跡の少女 ── ギレウォッタ
いち。『この時私が見たものは、生涯忘れないと思う』──調査だけなら面白そうだと引き受けたのが間違いだった
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👻
この時私が見たものは、生涯忘れないと思う。
いや、今回の、物質世界で一種族として暮らす妖精族、波濤の一族の依頼──精霊が暴走して一族の者にも被害が出た上、西濤の森が冥の気に満ちて変異している事態の調査、可能なら事態の収拾と言う、一冒険者には荷が重いクエストで起こった、小さな一人の少女の強運な出来事と、信じられない行動は、全てにおいて忘れる事など出来ないだろう。
こんな依頼、本来なら王都の精鋭騎士団や主神殿の高位聖職者で固めた軍隊を派遣する案件じゃないのか?
調査だけなら面白そうだと引き受けたのが間違いだった。
Ꙝ
私の信頼する、パーティ仲間のアネッタの魔術が効きにくいという。
中級魔法なら無効化し、上級魔法でも半減出来るはずの防御壁が効かないと悲鳴をあげるなど、ここ何年もなかった事だ。
突然現れた火蜥蜴サラマンダーは、虚無を穿つ洞穴のような目をして、超高熱の焰を吐き出す。
魔法壁は発現出来ているのに、焰も届かず防いでいるのに、熱気が抑えられていない。皆汗だくだし、肌がジリジリと痛む。
ギルドマスターの選んだスポット参加の精霊術師のターレンも、精霊がいうことを聞かないと嘆き、想定外の動きをしないように抑え込む事が精一杯だという。
ハーフエルフで年齢に触れることは禁忌とされる、我がギルド最高の精霊術師のコントロールが効かない事態とは?
妖精族と会話を仲立ちするためにギルドマスターがつけた少女コハク。
ギルドカードのステータス表示がおかしいのかと思うほど、何もない。
普通、フィルタの魔剣士やアネッタの魔導士など、何らかの職務階位があるものだ。
隠蔽されているのか本当にないのか、職業欄が空欄である。
ギルマスが何も言わないのだから、それで支障はないのだろうし、私の鑑定能力で開示できないだけで隠蔽されているのだろう。
しかし謎が残る。隠蔽しなければならない職とは? 犯罪を匂わす職ならそもそもギルドに加入できないし、職を隠す事のメリットが解らない。
秘密の王族とか、トラブルに巻き込まれるような稀少職なのだろうか。(半分当りだギレウォッタ)
更には、能力値は一般人なみで、役割も技能も、見習いでももう少し何かあるぞというレベル。【料理】と【薬草学】を除いて軒並みLv1?
才能も戦闘にはあまり関係ないものばかり。かろうじて【舞踏】が育てば、ステータス強化の補助魔法代わりになるくらいか。
登録して二年足らずだときいたが、この二年、どうやって冒険をしていたのだ?
興味が湧いたのは確かだ。
Ꙝ
「ラジエさんは、こんなところで死んじゃダメです!!」
刈り取る者に背後から狩られ、呪いを受けて半分不死者化し、刈り取られた魂が抜けかかっている。
鑑定スキルと魔道ゴーグルで状態異常を確認したので間違いない。上位聖職者の居ないこの場では、恐らく助からないだろう。
このまま不死者になってしまえば、仲間といえど処理するしかない。
「仲間をヤるのはさすがに気が進まないわね」
アネッタが言う通り、被害が出る前に処理する。仲間と言えど、それが我々上級冒険者の務めでもある。
ギルドカードに大体のログは保存されるので、不当に仲間を傷つけたと取られることもなく、ラジエのステータスログで、冒険中の事故として処理されるだろう。
それでも、気持ちのいい事ではない。私も今回助けてもらったし、出来る事なら助けてやりたい。
だが、高価な聖水をかけても、不死者化が完了するのを遅らせる程度の効果しかない。
何もない初心者のようなコハクが、半泣きで、この場で唯一の灯りとなる『生命を宿した大輪の花』という魔導道具を揺らすと、中に溜まっていた水滴がラジエの背に滴った。
ラジエが光を放ち、彼女の連れている妖精族のスニャイムが、変異率が下がったという。見れば、冥の気に侵されていた状態も呪いも奇麗になくなっている。
この子は、どこまで不可思議を体現するのか。
「ラジエさんは、こんなところで死んじゃダメです!!」
そう叫び、あろう事か、彼女は素手でラジエの魂を鷲摑みにした。
この時私が見たものは、生涯忘れないと思う。
いや、今回の、物質世界で一種族として暮らす妖精族、波濤の一族の依頼──精霊が暴走して一族の者にも被害が出た上、西濤の森が冥の気に満ちて変異している事態の調査、可能なら事態の収拾と言う、一冒険者には荷が重いクエストで起こった、小さな一人の少女の強運な出来事と、信じられない行動は、全てにおいて忘れる事など出来ないだろう。
こんな依頼、本来なら王都の精鋭騎士団や主神殿の高位聖職者で固めた軍隊を派遣する案件じゃないのか?
調査だけなら面白そうだと引き受けたのが間違いだった。
Ꙝ
私の信頼する、パーティ仲間のアネッタの魔術が効きにくいという。
中級魔法なら無効化し、上級魔法でも半減出来るはずの防御壁が効かないと悲鳴をあげるなど、ここ何年もなかった事だ。
突然現れた火蜥蜴サラマンダーは、虚無を穿つ洞穴のような目をして、超高熱の焰を吐き出す。
魔法壁は発現出来ているのに、焰も届かず防いでいるのに、熱気が抑えられていない。皆汗だくだし、肌がジリジリと痛む。
ギルドマスターの選んだスポット参加の精霊術師のターレンも、精霊がいうことを聞かないと嘆き、想定外の動きをしないように抑え込む事が精一杯だという。
ハーフエルフで年齢に触れることは禁忌とされる、我がギルド最高の精霊術師のコントロールが効かない事態とは?
妖精族と会話を仲立ちするためにギルドマスターがつけた少女コハク。
ギルドカードのステータス表示がおかしいのかと思うほど、何もない。
普通、フィルタの魔剣士やアネッタの魔導士など、何らかの職務階位があるものだ。
隠蔽されているのか本当にないのか、職業欄が空欄である。
ギルマスが何も言わないのだから、それで支障はないのだろうし、私の鑑定能力で開示できないだけで隠蔽されているのだろう。
しかし謎が残る。隠蔽しなければならない職とは? 犯罪を匂わす職ならそもそもギルドに加入できないし、職を隠す事のメリットが解らない。
秘密の王族とか、トラブルに巻き込まれるような稀少職なのだろうか。(半分当りだギレウォッタ)
更には、能力値は一般人なみで、役割も技能も、見習いでももう少し何かあるぞというレベル。【料理】と【薬草学】を除いて軒並みLv1?
才能も戦闘にはあまり関係ないものばかり。かろうじて【舞踏】が育てば、ステータス強化の補助魔法代わりになるくらいか。
登録して二年足らずだときいたが、この二年、どうやって冒険をしていたのだ?
興味が湧いたのは確かだ。
Ꙝ
「ラジエさんは、こんなところで死んじゃダメです!!」
刈り取る者に背後から狩られ、呪いを受けて半分不死者化し、刈り取られた魂が抜けかかっている。
鑑定スキルと魔道ゴーグルで状態異常を確認したので間違いない。上位聖職者の居ないこの場では、恐らく助からないだろう。
このまま不死者になってしまえば、仲間といえど処理するしかない。
「仲間をヤるのはさすがに気が進まないわね」
アネッタが言う通り、被害が出る前に処理する。仲間と言えど、それが我々上級冒険者の務めでもある。
ギルドカードに大体のログは保存されるので、不当に仲間を傷つけたと取られることもなく、ラジエのステータスログで、冒険中の事故として処理されるだろう。
それでも、気持ちのいい事ではない。私も今回助けてもらったし、出来る事なら助けてやりたい。
だが、高価な聖水をかけても、不死者化が完了するのを遅らせる程度の効果しかない。
何もない初心者のようなコハクが、半泣きで、この場で唯一の灯りとなる『生命を宿した大輪の花』という魔導道具を揺らすと、中に溜まっていた水滴がラジエの背に滴った。
ラジエが光を放ち、彼女の連れている妖精族のスニャイムが、変異率が下がったという。見れば、冥の気に侵されていた状態も呪いも奇麗になくなっている。
この子は、どこまで不可思議を体現するのか。
「ラジエさんは、こんなところで死んじゃダメです!!」
そう叫び、あろう事か、彼女は素手でラジエの魂を鷲摑みにした。
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