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冥くて昏い地の底に眠るモノ

いち。『〈仮主よ、我の霧が抜けて行く場所がある〉ケルピーちゃんがちょっと怖いことを言い出した』──次は何が起こるの?

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     🌋

〈仮主よ、我の霧が抜けて行く場所がある〉

 海馬ケルピーちゃんが、ちょっと怖いことを言い出した。

「ぬ、抜けるってどんなふうに?」
〈地面に穴が空いていて、そこへ流れていくような感じだろうか〉
「どこだ?」

 キールさんが訊ね、ケルピーちゃんは私の胸元の小瓶からぴよ~んと飛び出して、小さなお馬さんになると、犬が臭いを辿るようにふんふんしながら舐めるように確認しつつウロウロし、とある一点で立ち止まる。
 蹄で地を叩き、
〈ここだ。チルの妖力も少し吸われていっている〉
と、ますます怖くなる事を言い出した。

 キールさんは地面をなで、検分するけど首をひねるだけ。
「穴はなさそうだが、物理的な穴ではなく、魔道の道筋としての穴があるのだろうか……
 私は魔法は得意ではないので、わからないな」

 キールさんの言葉に、アネッタさんとターレンさんが近寄り、確認していく。手に眼に魔力を合わせ、地をなでて見つめる。
 ギレウォッタさんもゴーグルを出して掛け、その付近を見る。

「確かに、三人の妖力が吸い込まれるように流れていくのが見えるな。ケルピーの霧も」

 ギレウォッタさんの魔道具であるゴーグルは、目元を囲む、海女さんの水中眼鏡を精霊銀ミスリルでゴテッとさせたようなもので、レンズ部分を除き、全体にびっしりと細かい紋様が刻み込まれ、それが魔力や霊気を色としてみる感知魔法を発動させる咒紋となっている。あれ欲しいなぁ。
「何言ってんの。これより精巧な鑑定単眼鏡アプレィズモノクルと有能なチルちゃんがいるでしょ?」
「だって、それカッコイイ。なんか、出来る冒険者って感じ」

 正直に感想を言えば、苦笑いされた。

「この下に、まだ空間があるということか」
「魔力を吸い込んではいるが、空洞があるとは限らない。魔力を喰う何かが埋まっているのかもしれないしな」

 魔力は、物理的な質量を持たないため、物があろうがなかろうが、存在はできる。

「我々が落ちて来た距離も相当なものだが、更に深い位置に溶岩流があるのは縦穴から見ただろう? それまでの間に、まだ鉱山として掘った場所がないとは言い切れない」
「まあ、あったとして、出口と繋がってる可能性は低いよな」
「繋がっててくれると嬉しいけど、どうかしらね?」
 ラジエさんの期待しない声に、アネッタさんも肩を竦める。

「山頂の火口から中に入って落ちたんだが、どう考えても標高ゼロ地点より落ちたよな?」
「体感的には、ロックストーヴ山の標高の数倍落ちた気がするが」
「落下途中から、別次元の⋯⋯それこそ冥府とかに転移してないわよね?」
「あり得ないとは言えないな。何もない場所から、不死者アンデッドが湧いて出てきたんだから」

 どんどん不安要素が増えていくばかりの中、小刻みな地震は未だ続いていた。






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